【解説】スペースポート 第一弾 宇宙港から生まれるビジネスの可能性 では、なぜ今スペースポート開発が必要とされ、実現に向けて動き始めているのかについて、将来的に実現される世界観やロケット発射の歴史など、マクロ的視点で解説して参りました。
続く第二弾では、よりスペースポートの具体に迫りたいと思います。
スペースポートの立地と種類について
第一弾でご紹介した種子島宇宙センターなど、スペースポートは少し辺鄙なところにあるイメージがあるかと思います。疑問に思う人も多いかと思うので、スペースポートに必要な立地のポイントをまとめてみました。
- ロケット打ち上げに適している
- ロケット発射までのサプライチェーン効率
- 射場に対する地元の理解と協力体制
- スペースポート周辺での体験価値
ロケット打ち上げに適している
まず、最も優先されるべきなのは、ロケットが打ち上げやすいかどうかです。主に重視されるべきところは4つあります。
①緯度
②ロケットの打つ方向が海や砂漠等で開けているか
③晴天率が高く風が安定しているか
④ロケット打ち上げ時に干渉しないために飛行機や船の往来が少ないか
この4つが重視されます。そもそも、地球観測用人工衛星の軌道は大きく分けると静止軌道(赤道上空)と低軌道の2種類があります。
地球上から3,6000kmにある静止軌道は衛星が常に同じ上空にいるように見える特殊な軌道で、常時同じ場所を観測したい気象衛星やBS/CS放送に使われています。
それに対して、宇宙ステーションやリモートセンシングなどのミッションをこなす場合には、低軌道(特に軌道傾斜角の大きい極軌道等)が利用されていています。
このように、目的ごとに飛ばす先の軌道が、距離や角度など含めまったく異なっています。
そして、重要なのは軌道に乗るまでにおけるロケットのエネルギー損失を押さえることです。
一般的に、静止軌道に飛ばす際は低緯度で東向きに、極軌道に飛ばす場合は高緯度で北か南に打つと有利と言われています。なので、ロケットの打ち上げ目的に応じ、柔軟な立地選択が必要な事は言うまでもありません。
ロケット発射までのサプライチェーン効率
2つ目は、ロケットやロケットに載せる荷物(ペイロード)、作業員を効率的に輸送できるかどうかです。
例えば、近くに空港や港が整備されているところの場合、ロケット発射台までの輸送効率を上げられますよね。
射場に対する地元の理解と協力体制
3つ目は、スペースポートの射場に対する地元の理解と協力体制があるかどうかです。個人的にはこの要素が非常に重要なファクターになってくると考えています。
なぜなら、ロケットを発射する際の騒音や射場を建設する際の大規模開発など、スペースポートは、周囲にも多大なる影響を及ぼすからです。
地元の理解と協力体制が無い場合、ロケットを発射する事すらできない事態に陥るので非常に重要です。
スペースポート周辺での体験価値
4つ目は、スペースポートに訪れた際の体験価値を生み出せる立地であるかどうかです。
スペースポートは、ロケット発射機能としての価値に付随して、観光や学び、といったエンターテイメント要素として地域産業を活性化させていく事が期待されています。
訪れて豊かな気持ちになれるような、その地域ごとの自然体験やおいしい食事、宇宙関連施設や最先端のモビリティに乗る事が出来たりなど、ユニークな体験を生み出せる場所であるかどうかも必要になってきます。
民間スペースポートのステークホルダーは誰?
では、民間スペースポートはどんなステークホルダー[*1]の協力の下、開発されていくのか見ていきましょう。
アメリカニューメキシコ州に存在する世界初の商業用宇宙港、”スペースポートアメリカ”の敷地面積は約73km2、成田空港の約7倍の広さを誇ります。
一般的に、一つの団体がこれほどの面積の土地を私有地として持っている事は珍しく、自治体や国の協力を得ながら規制を緩和したり、土地や周辺海域を活用している各利権者を取りまとめたりしています。
他にも、土地の用途をロケット発射用に申請し直す必要があるなど、様々な調整をしないといけません。
スペースポートの場合、都心を再開発するわけではないので、住民に移動してもらう、といった事は稀有ですが、例えば周辺の海域で漁業をされている方などがいらっしゃるのであれば、きちんと安全性や、漁業への影響について説明し、納得していただく必要があります。
また、自治体、土地所有・利用者、スペースポート開発者、運営者、地元民の方々に加え、忘れてはならないのが、体験価値を彩る宿泊施設、レストラン、商業施設、オフィスなど、スペースポートを中心としたまちをつくる企業や団体も重要なステークホルダーとなります。
スペースポート建設は、すなわち、ひとつの大規模まちづくりプロジェクトといっても過言ではありませんね。
日本のスペースポート開発の現在地
日本では、2021年4月に北海道大樹町において、北海道スペースポート(HOSPO)が稼働し、和歌山県串本町、大分県国東市、沖縄県でも、スペースポートの候補地として準備を進めています。
大樹町を例に挙げると、なんと約40年前の1985年より航空宇宙産業基地としての誘致活動を行ってきています。
これまでにJAXAと連携しながら実験場を整備したり、観光客・視察者向けの宇宙交流センターを整備したり、と地道な努力を続け、インターステラテクノロジズやソフトバンクなど、民間のロケット企業にも信頼されるスペースポートに発展してきました。
現在は既にロケット発射実績のある射場に加え、2023年及び25年に新たな射場が完成される予定です。
スペースポートを開発した場合の地域への経済波及効果は、HOSPOの場合、道内で年間約270億円、約2300名の雇用創出が予想されており、副次的インパクトは絶大です。
豊かな自然をキャンピングカーで移動しながら楽しんだり、名産の酪農品をレストランでいただいたり、スペースポートをきっかけに、新たなまちの魅力に気づくための観光ビジネスが流行しそうですね。
今後、働き方改革やテレワークが進むことにより、オフィス機能を地方に移転する企業や、どこでも働ける制度を立ち上げる企業が少しずつ増えていく事でしょう。
現在、国を挙げてデジタル田園都市構想[*2]を掲げ、地方と都市の格差を減らす施策が打ち出されています。
企業のサテライトオフィスを誘致したり、優秀な人材が働ける場を提供する事が出来れば、地方を中心とした経済圏が生まれ、新たな地方都市モデルが生まれると考えると、とてもワクワクしますね!
他国から見る日本のスペースポートって?
世界中で開発が進んでいるスペースポートですが、他国から見て、日本のスペースポートはどのように映っているのでしょうか?
スペースポートジャパンの構想によると、日本はアジアのスペースポートとしてのハブ機能を目指しています。
アジア諸国では、地理的要因でロケットを打ち上げられない国が多い一方、経済発展により人工衛星の打ち上げ需要が増えています。
要するに、アジアの人工衛星打ち上げ需要を獲得しようとするロケット会社が多く、これらのロケット発射企業を日本に誘致しようというわけです。
さらに、欧米からは、二拠点間輸送(P2P)のアジアの移動拠点としても魅力的に映るでしょう。
これらの国では、ロケットを宇宙へ発射するだけではなく、拠点間の人・物資の輸送インフラの整備が議論されており、政治的に安定している日本はアジア地域の拠点(ハブ)となりうるポテンシャルがあります。
スペースポートの開発をよりスピーディに!
2022年現在、世界で最も商用スペースポートの開発が進んでいるのはアメリカです。
一方、開発・運営にかかるコストや許認可、環境影響に対する懸念、管制塔システムの他拠点連携、テロリズムに対する安全性の確保、新しいものを作ることに対してのカウンターカルチャーなどなど、まだまだスペースポートの開発における課題は多いと言われています。
これらの課題を乗り越えるため、アメリカでは米国運輸省(FAA)と連邦航空局に対し、民間スペースポートの許認可の権利を与えています。
開発者や自治体に対し、技術サポートや法整備及び補助金のスキームを作成していますが、窓口を一本化することで、スピーディな開発を促進する事を実現しています。
日本でも法整備や補助金制度など、具体の開発促進施策については国外の体制や施策を参考としながら、宇宙ビジネスの出発点となるスペースポートの開発をスピーディにすすめていってほしいですね。
次回(第三弾)では、各国のスペースポートの比較について解説していこうと思います!!
[*1]ステークホルダー : 直接的または間接的に影響を受ける利害関係者のこと [*2]内閣府が公表している地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていく政策のこと