HOSPO、米FireflyとMOU締結   日本発射場の国際利用拡大へ
©Space Connect

2025年8月18日、北海道スペースポート(HOSPO)を運営するSPACE COTAN株式会社は、米国の宇宙・防衛企業Firefly Aerospace(以下、ファイアフライ)と、小型ロケット「Alpha」のHOSPOからの打ち上げ実現性を検討する基本合意書(MOU)を締結したと発表した。

本記事では、MOUの概要を整理するとともに、ファイアフライにとってのHOSPO利用の意義と、日本が得られる利点について考察する。

連携内容について

ファイアフライについて

ファイアフライは、2025年8月7日にNASDAQ Global Marketに上場(ティッカー:FLY)した宇宙企業だ。ロケット打上げ事業のほか、月面探査機「Blue Ghost」などの月面輸送サービスも手がけている。
2025年には商業探査機として世界で初めて直立した状態での月面軟着陸を完全に成功させ、NASAの月面探査計画「アルテミス」を補完するCLPS(Commercial Lunar Payload Services)プログラムにも参画している。

同社が開発する小型ロケット「Alpha」は、1,000kg超のペイロードを低軌道(LEO)に投入できる能力を持つ液体燃料ロケットである。

特筆すべきは、即応性の高い打上げ運用である。

ファイアフライは2023年、米宇宙軍の「VICTUS NOX」ミッションにおいて、打上げ指令から約24時間以内に準備を整え、当初設定された最初の打上げウィンドウで打上げに成功している。

現在、複数射場への展開を進めており、米国のヴァンデンバーグ宇宙軍基地に加えて、今後はワロップス飛行施設やスウェーデンのエスレンジ宇宙センターに新たな打上げ施設が開設される予定だ。

今回の連携で実現すること

今回の連携により、米国やスウェーデンに続く射場展開の候補地としてHOSPOが位置付けられた。今後は「Alpha」の日本からの打上げ実現可能性について、具体的な検討が進められる。

HOSPOは北海道大樹町に所在する商業宇宙港であり、東および南に広がる広大な海域と拡張性の高い陸地という地理的優位性を活かし、多様なロケットの高頻度打上げを目指している

現在はサブオービタル(弾道飛行)用射場「Launch Complex 0(LC0)」が稼働しており、新たに軌道投入ロケット用射場「Launch Complex 1(LC1)」の整備が進行中である。

将来的には、追加射場の整備計画も視野に入れている。

本MOUに基づき、HOSPOを運営するSPACE COTANは、射場運用コンセプトの策定、システム要件の検討、ならびに「Alpha」をHOSPOから打ち上げるために必要となるライセンスや規制要件の評価を進めていく。

北海道スペースポート(HOSPO)の将来イメージ
北海道スペースポートの将来イメージ ©SPACE COTAN株式会社

双方のメリット

HOSPOがファイアフライの射場候補に加わった意義は、単なる地理的利便性にとどまらず、ファイアフライとHOSPO(日本)双方にとって、以下のような具体的メリットが想定される。

ファイアフライ

1|打上げ機会の拡大

アジア太平洋地域の顧客にとって、輸送距離の短縮や規制対応の円滑化が可能となり、より身近な打上げ拠点としての価値が高まる。

2|射場ポートフォリオの強化

HOSPOは軌道傾斜角42度から98度まで幅広く提供可能であり、太陽同期軌道への投入も対応できる。選択肢が増えることで、ミッション要求に応じた最適な射場選定が可能となる。

3|運用リスクの分散

複数地域で射場を確保することで、天候不順や規制要因による遅延リスクを軽減できる。特に安全保障・防衛関連ミッションでは、この冗長性が信頼性向上に直結する。

HOSPO(日本)

1|防衛・安全保障面

「Alpha」は液体燃料ロケットでありながら、短期間での打上げが可能なため、防衛衛星の迅速な投入手段となり得る。防衛省が重視する宇宙利用のレジリエンス確保に直結する点で価値が高い。

2|経済波及効果

国内衛星事業者にとっては輸送コストや調整コストの削減が見込まれるほか、射場使用料収入、関連産業や地元雇用の創出、観光・サービス業への波及効果も期待される。

3|市場活性化と国際的プレゼンス向上

海外の有力企業がHOSPOを利用することは、日本の宇宙輸送市場に競争と多様性をもたらし、価格やサービス水準の最適化につながる。同時に、国際的な打上げ拠点としての知名度を高め、後続の海外企業誘致を後押しする機会にも繋がる。

さいごに

今回のMOUは、日本の射場で海外ロケットを打ち上げるための制度・運用面を前進させる重要な一歩となった。ファイアフライにとっては国際展開の強化、日本にとっては防衛・産業・地域振興の新たな機会を広げる契機である。

しかし国内の小型ロケットは依然として軌道打上げ実績が乏しく、防衛衛星の打上げを他国に依存するリスクは高まっている。HOSPOが海外企業の拠点にとどまるのか、それとも国内産業の成長を支える戦略的インフラとなるのか、いま日本の宇宙輸送産業は正念場を迎えていると言えるだろう。

参考

SPACE COTANがFirefly Aerospaceと基本合意書(MOU)を締結(SPACE COTAN, 2025-08-18)

北海道スペースポート(SPACE COTAN, 2025-08-18)

Firefly Aerospace(2025-08-18)

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