ISEKADO×高砂電気工業、日本初の「宇宙醸造プロジェクト」始動
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2025年10月8日、高砂電気工業株式会社(以下、高砂電気工業)は、有限会社二軒茶屋餅角屋本店(以下、ISEKADO)と共同で、日本初となる宇宙空間でのビール醸造実験「宇宙醸造プロジェクト」を始動すると発表した。

本記事では、本プロジェクトの概要と、発酵を支える企業の技術について紹介する。

プロジェクト概要

クラフトビールの国際大会で数々の受賞歴を誇るISEKADOと、宇宙分野で多くの開発実績を持つ流体機器メーカー・高砂電気工業が共同で挑む「宇宙醸造プロジェクト」は、日本初となる宇宙空間でのビール醸造実験である。

JAXAが提供する「きぼう」有償利用制度を活用し、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」内で、微小重力環境下における発酵実験の実施を目指している。

ISEKADOは発酵文化の新たな可能性を追求し、高砂電気工業は同社が得意とする微量流体制御技術を生かして、酵母発酵を宇宙空間で安定的に再現することを狙う。

ISEKADO×高砂電気工業 宇宙ビール醸造プロジェクトイメージ
宇宙ビール醸造プロジェクトイメージ(出典:高砂電気工業株式会社 PRTIMES

背景と目的

本プロジェクトの目的は大きく2点に集約される。

1. 宇宙における発酵現象の解明

世界で最も親しまれている醸造酒であるビールを通じ、微小重力環境での酵母の挙動や発酵メカニズムを科学的に検証する。

2. 宇宙×エンターテインメントの新市場創出

宇宙ホテルなどで「宇宙クラフトビール」を楽しむ体験や、宇宙環境で育った酵母を用いた新しい地上ビールの開発を通じ、民間主導の宇宙体験ビジネスの可能性を探る。

かつては研究者や宇宙飛行士だけがアクセスできた宇宙空間も、いまや民間企業による利用が進み、滞在・体験の場としての価値が高まっている。
SpaceXによる民間宇宙旅行では、すでに一般人が数日間宇宙に滞在する事例も複数実現しているほか、NASAと各国が推進するアルテミス計画によって、月面での長期滞在や資源利用の構想も現実味を帯びつつある。

そのような中で、パンや味噌、酒など古来より人類の食文化に深く根付いてきた「発酵」は、宇宙における生活の質(QOL)を支える上で欠かせない技術だ。

しかし、微小重力という特殊な環境が酵母の活動にどのような影響を及ぼすのかは、いまだ多くの謎に包まれている。

本プロジェクトは、こうした未知の領域に挑み、発酵文化と宇宙技術の融合によって新たな可能性を探るものである。

ISEKADO×高砂電気工業 宇宙ビール醸造プロジェクトイメージ
宇宙ビール醸造プロジェクトイメージ(出典:高砂電気工業株式会社 PRTIMES

鍵となる企業技術

「宇宙醸造プロジェクト」では、ISEKADO、高砂電気工業、東洋製罐グループホールディングスの技術が結集し、キリンビール株式会社も技術協力として参画している。

ISEKADO:酵母研究に強みを持つ研究開発型ブルワリー

ISEKADOは、社長自らが酵母研究による博士号を有し、博士・修士号を持つスタッフが複数在籍する国内でも稀有な研究開発型ブルワリーである。

同社は、自家培養による酵母管理を徹底し、発酵条件や温度制御の最適化によって酵母のポテンシャルを最大限に引き出す技術を確立している。

今回の宇宙実験では、厳選した自社酵母をISSに送り、微小重力環境での発酵挙動を分析。帰還後には地上での発酵結果と比較し、宇宙と地上の差異を科学的に検証する予定だ。

高砂電気工業:流体制御と宇宙実験のノウハウ

高砂電気工業は、医療機器やライフサイエンス、宇宙実験装置などに用いられる精密流体制御技術を強みとするメーカーであり、液体や気体を極めて正確に扱う小型バルブやマイクロポンプの分野で高い評価を得ている。

微小重力下では液体が浮遊して偏在し、地上のような自然対流が発生しない。このため、発酵を安定的に進めるには圧力・流量・温度といった要素を極めて精密に制御する技術が不可欠となる。

同社は、これまでに培った流体制御技術と宇宙実験のノウハウを活かし、酵母や麦汁を安定的に取り扱うための環境設計を担っている。

東洋製罐グループホールディングス:宇宙対応の特殊醸造容器を開発

日本初・世界初の素材技術を多数有する東洋製罐グループホールディングスは、本プロジェクトにおいて宇宙対応の特殊醸造容器を開発している。

この容器は、宇宙環境とビール醸造条件の両方に適応できるよう設計されており、内外圧や温度変化への耐性、小型化と強度の両立といった高度な性能が求められる。

キリンビールも技術協力として参画し、飲料製造分野で培った知見を基に、微小重力下でも安定した発酵を可能にする設計が進められている。

こうした特殊容器の開発は、ビール醸造のみならず、微生物実験や宇宙居住環境における生命維持システムなどへの応用も期待されている。

さいごに

ISEKADOと高砂電気工業が挑む「宇宙醸造プロジェクト」は、クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」を通じて支援を募り、目標金額の達成をもって本格始動する予定である。

本プロジェクトは、未来の食文化の可能性を切り拓くとともに、ISEKADOの理念である「ビールの世界をおもしろくする」を体現する挑戦だ。

歴史に残るであろう宇宙初のビール醸造に関わりたい方、そして宇宙で育った酵母が生み出す特別な一杯を味わいたい方は、ぜひプロジェクトページをチェックしてほしい。

また、高砂電気工業は、現在、宇宙事業に関する人材を募集している。興味のある方はぜひこちらからご覧いただきたい。

スぺジョブ

参考

ISEKADO、宇宙へ。国内初!国際宇宙ステーションでのビール醸造に挑戦(高砂電気工業株式会社, 2025-10-09)

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