
世界の宇宙ビジネスにおいて、衛星データの活用は防衛やインフラ監視などを中心に急速な市場拡大を続けている。特に先行する米国市場では、自社で衛星コンステレーションを構築しつつ高度なデータ解析までを一気通貫で行う企業が強力なプレゼンスを発揮している。
一方、日本の衛星データ市場でも、特定の産業課題に深く入り込み、独自のソリューションへと昇華させているプレイヤーが次々と台頭している。本記事では、日本の衛星データ産業において独自のポジションを確立している注目企業をピックアップし、その事業内容や強みを紐解いていく。
日本の衛星データビジネス注目企業
Tellus ― 衛星データの民主化を推進する国産プラットフォーム

国内の衛星データビジネスの基盤を語る上で欠かせないのが、さくらインターネットの子会社である株式会社Tellus(英:Tellus Inc.、以下『Tellus』)である。同社は、経済産業省の主導で構築された、衛星や地上の様々なデータを搭載している日本発のデータプラットフォーム「Tellus」の運営を担っている。
このプラットフォームの最大の強みは、これまで専門家でなければ扱うことが難しかった膨大な衛星データを、広く一般企業や開発者に開放している点にある。環境変動を観測する「しきさい」や、陸域観測技術衛星「だいち」といったJAXAの高品質な衛星データもプラットフォーム上で利用可能であり、OSS(オープンソースソフトウェア)を通じて多様なプレイヤーが新たなビジネスを創出するための土壌を提供している。
天地人 ― 農業から都市インフラまで、BtoG領域での圧倒的実績

株式会社天地人(英:Tenchijin Inc.、『天地人』)は、JAXAスタートアップとして設立され、「地球と人類のためになる仕事」をミッションに掲げるデータ活用企業である。設立初期に「宇宙ビッグデータ米」に代表されるような農業領域のデータ活用で大きな注目を集めており、現在ではより広範なインフラ課題の解決へと事業の軸足を広げている。
主力事業は土地評価エンジン「天地人コンパス」であり、その中でも特に同社の成長を牽引しているのが、自治体(BtoG)向けソリューション「天地人コンパス 宇宙水道局」である。これは衛星の観測データを用いて地下の漏水リスクを広域かつ効率的に評価するシステムであり、老朽化が進む国内のインフラ維持管理という巨大な社会課題にヒットした。優れたマーケティング力と社会実装力により、現在では約70名規模の組織へと成長し、インフラ・自治体向けビジネスにおいて確固たる地位を築いている。
サグリ ― 複数データによる農業・環境ソリューション

サグリ株式会社(英:Sagri Co., Ltd、以下『サグリ』)は、衛星データとAI(人工知能)ポリゴン技術を掛け合わせることで、農業や環境分野が抱える多様な課題解決に挑んでいる気鋭の企業である。2024年には「第6回宇宙開発利用大賞」にて内閣総理大臣賞を受賞するなど、国からの評価も非常に高い。
サグリの事業は大きく「農地活用事業」と「アグリイノベーション事業」の2つの柱で構成されている。 農地活用事業では、耕作放棄地を自動で検出する農地パトロールアプリ「アクタバ」、作物の種類を判定する作付け調査用アプリ「デタバ」、そして農地の所有者と担い手をつなぐマッチングサービス「ニナタバ」を展開。衛星データと土地区画データを独自の技術で可視化することで、自治体の農業委員会が行う目視調査の負担を劇的に軽減するだけでなく、持続可能な農業体制の構築を後押ししている。
もう一つの柱であるアグリイノベーション事業では、農地情報を解析・可視化する「アグリインサイトマップ」や、脱炭素に向けた算定デジタルプロダクト「サグリビジョン」を提供している。土壌の化学性解析技術なども用いて、GHG(温室効果ガス)の排出量・炭素除去量の算定から、農業由来のカーボンクレジット事業までをトータルでサポート。民間企業(BtoB)向けの脱炭素化ニーズにも応えることで、事業の多角化と収益基盤の強化を同時に実現している。
パスコ ― 国内トップクラスの実績を誇る老舗空間情報企業
ベンチャー企業が多数ひしめく中で、確固たる大企業の資本と圧倒的な実績で市場を支えているのが株式会社パスコ(英:PASCO CORPORATION. 、以下『パスコ』)である。プライム市場に上場する同社は、2005年より地球観測衛星の活用を本格化させており、自社運用する衛星地上局でのデータ受信から、画像販売、解析、システム構築までを一気通貫で担うパイオニア的存在として、国際的にも高く評価されている。
パスコの強みは、特定の衛星にとどまらず、国内外の多様なデータを網羅的に取り扱える総合力にある。独自の高解像度画像提供サービス「PASCO Satellite Image(PSI)」を展開するほか、近年はQPS研究所やSynspectiveなど国内有力スタートアップのSAR衛星データへの対応を拡大。さらにJAXAの先進レーダ衛星「だいち4号」のデータ事業者に選定されるなど、日本の宇宙エコシステムにおけるデータ流通のハブとしての役割を確固たるものにしている。
また、単なるデータ販売にとどまらず、長年培った測量ノウハウとAIを掛け合わせたソリューション展開も強力に推し進めている。具体的には、衛星画像とAIを用いて不法な盛土などを自動検出するクラウド型サービス「MiteMiru盛土」を自治体向けに提供。広域の地盤変位データとインフラ台帳を連携させ、道路修繕や上下水道管の老朽化対策を支援するなど、社会課題の解決に直結するBtoGサービスで圧倒的な導入実績を誇っている。
リッジアイ ― AI・ディープラーニングのプロフェッショナル

株式会社Ridge-i(英:Ridge-i Inc.、以下『リッジアイ』)は、最先端のディープラーニング(深層学習)技術を駆使した高度なデータ解析ソリューションを強みとするテクノロジー企業である。2023年に東京証券取引所グロース市場へ上場を果たしており、「AI×人工衛星」の領域において、競合他社とは一線を画す圧倒的な技術力で独自のポジションを確立している。
リッジアイの最大の強みは、光学衛星やSAR(合成開口レーダー)衛星から得られる膨大かつ複雑な画像データを、独自開発のAIアルゴリズムを用いて極めて高精度に解析・自動判読する技術にある。これまでに、広域の地盤変動の監視や、土砂崩れ災害の自動検出、海上の重油流出領域の検知など、難易度の高い社会インフラ・環境課題に対するソリューションを多数提供してきた。
近年では、長野市などと共同で衛星データとAIを活用した「固定資産異動判読調査(家屋の変化検出)」の効率化プロジェクトを進めるなど、自治体向けのコスト削減・業務DXにも大きく貢献。また、専門知識がなくてもワンコマンドで最先端の衛星画像AI解析を実行できるツール「Ridge SAT Image Analyzer」の提供を開始するなど、データ活用のハードルを下げる取り組みにも注力している。
スペースシフト ― SARを核にマルチデータ統合を進める解析プレイヤー

株式会社スペースシフト(英:Space Shift Inc.、以下『スペースシフト』)は、SAR(合成開口レーダー)衛星データの高度解析技術を中核に据えるデータ活用企業である。天候や昼夜の影響を受けにくいSARの特性を活かし、防災、インフラ監視、安全保障など、継続的なモニタリングが求められる領域で実績を重ねてきた。
同社の最大の特徴は、SAR単体の解析に加えて、光学衛星データや地上データと組み合わせた統合解析を前提にソリューションを設計している点にある。SARは地表の変位や構造変化の検出に強みを持つ一方、色や形状の詳細把握には光学データが有効である。スペースシフトはそれぞれの特性を理解した上で用途に応じて組み合わせることで、単一データでは得られない精度と実用性を実現している。
さらに、自治体や企業の業務フローに組み込む形で解析結果を提供するなど、“データ解析”から“業務実装”まで踏み込む推進力も強みである。地盤変動監視や災害時の状況把握などにおいて、衛星データを意思決定プロセスに組み込む設計を行い、継続的な運用モデルへと昇華させている。
多様な産業課題に切り込む独自のスタートアップたち
さらに国内には、特定のニッチな市場や産業に深く入り込み、専門性の高いサービスを提供するスタートアップが多数存在している。
WHERE
株式会社WHEREは、JAXA発のスタートアップとして、 不動産業界に特化したSaaS型プラットフォーム「WHERE」を展開している。
独自のAIと衛星データを活用して空き地や駐車場などの不動産候補地を自動検出し、法務省の登記データと連携させることで、従来は足で稼ぐのが当たり前だった不動産の仕入れ(物上げ)業務を劇的に効率化するビジネスモデルを構築。取扱単価が極めて大きい不動産業界の特性にマッチした高付加価値なサービスであり、着実に導入企業を拡大している。
Solafune
株式会社Solafuneは地球上のあらゆる事象を対象とした高度な衛星データ解析技術を提供する気鋭のスタートアップである。その卓越したAI技術は安全保障領域でも高く評価されており、近年は防衛省からAIや衛星データに関連する事業を複数回にわたり受注するなど、要求水準の厳しい国家案件で着実に実績を蓄積。アジアやアフリカの政府機関へ技術提供を行うなど、グローバル展開も強力に推し進めている。
また、同社の衛星データ解析プラットフォーム「Solafune」では、世界120か国以上のエンジニアやデータサイエンティストが参加するコンテストを開催している。
LAND INSIGHT
LAND INSIGHT株式会社は、上場企業であるINCLUSIVE株式会社の子会社として2022年に設立され、一次産業や地方自治体の課題解決に特化した衛星データソリューションを展開している。農業行政の現地調査を効率化する「圃場DX」などを主力とし、同領域のプレイヤーであるサグリ株式会社とも連携・協業を行っている。
サグリが主に耕種農業(農作物)の解析に強みを持つのに対し、同社は農業分野に加えて林業や酪農(放牧牛の管理など)の領域も事業スコープに収めており、一次産業特有の泥臭い課題に寄り添った手堅いソリューションを提供している。
さいごに
日本の衛星データ関連企業は、各社の強みを活かしたアプローチで「宇宙データの社会実装」を推進している。基盤となるプラットフォーム、特定産業に向けた専門的なソリューション、そして高度な解析技術といった要素が組み合わさり、日本独自の衛星データエコシステムが育ちつつある。
多様な社会課題の解決が求められる今日において、宇宙から得られるデータを地上産業にいかに統合していくかが鍵となる。各社のさらなる連携や技術開発によって、衛星データ市場が新たな価値を創出していくことが期待される。
また、本記事にて紹介した企業を含め、宇宙業界では現在、様々なポジションで人材が募集されている。興味のある方はぜひ、業界特化型の人材サービス「スぺジョブ」をチェックしていただきたい。























