
2026年6月2日、「HOKKAIDO SPACE SUMMIT, SAPPORO LINK 2026」が札幌市で開催された。2021年から毎年開催されていた北海道宇宙サミットが札幌で開催されるのは今回が初めてである。
本記事では、参加できなかった方向けに各セッションで共有された重要論点を整理しつつ、北海道における宇宙産業を通じたまちづくりの現状と今後について解説・考察する。
目次
HOKKAIDO SPACE SUMMIT 2026
イベント概要
HOKKAIDO SPACE SUMMIT, SAPPORO LINK 2026は、北海道における宇宙産業の発展と産業横断的な連携の促進を目的として開催されたカンファレンスである。
例年十勝地域で開催されている「北海道宇宙サミット」と連動し、産業連携を加速させる起点として、北海道の経済・ビジネスの中心地である札幌で初開催された。背景には、宇宙産業が一部の専門企業だけではなく、製造業や金融業、観光業など幅広い産業に関わるビジネスであることを、より多くの道内企業や関係者に知ってもらいたいという狙いがある。
当日は会場が満席となり、宇宙関連企業やスタートアップに加え、自治体、研究機関、金融機関、製造業など多様なプレイヤーが参加していた。セッションでは、北海道スペースポート(HOSPO)を中心とした宇宙輸送インフラの整備や、宇宙産業を地域経済の成長エンジンとしてどのように発展させていくかについて議論が行われた。
主催企業SPACE COTANの紹介
イベントを主催したSPACE COTAN株式会社は、北海道大樹町で整備が進む「北海道スペースポート(HOSPO)」の運営を担う企業である。

HOSPOは、ロケット事業者に対して打上げインフラを提供する北海道の宇宙港である。ロケット事業者が機体開発や打上げサービスを担う一方で、HOSPOは打上げに必要なインフラを提供する役割を担う。
その事業モデルは空港に近い。空港が公共インフラとしての性格を持ちながらも、近年は民間事業者が整備や運営に深く関与するようになっているのと同様に、HOSPOにおいても、大樹町や国、北海道などの支援を受けながら、民間事業者であるSPACE COTANが宇宙港の整備・運営を主体的に推進している。
HOSPOの特徴は、こうした官民連携による運営体制だけではない。現在、日本国内で民間ロケットの打上げに対応する主要な射場としては、大樹町のほか、和歌山県串本町、鹿児島県の種子島・内之浦などが挙げられるが、HOSPOは、太平洋に開けた立地、将来的な拡張が可能な広大な敷地、比較的混雑の少ない航空路・海上航路、高い晴天率などを強みとしている。
HOSPOでは現在、インターステラテクノロジズ株式会社(IST)が開発を進める小型衛星打上げロケット「ZERO」に対応する射場の整備が進められている。まずはZEROの打上げに対応するインフラとして整備を進め、将来的には打上げ実績を積み重ねながら、国内外のロケット事業者が利用できる宇宙輸送インフラへと発展していくことが期待される。

セッションの注目ポイント
パネルディスカッションは、「宇宙輸送・インフラ」と「宇宙利活用・周辺産業」の2つのセッションで構成された。
宇宙輸送・インフラセッションでは、IST、トヨタ自動車北海道株式会社、株式会社IDDKが登壇し、北海道における宇宙インフラの重要性について訴求していた。一方、宇宙利活用セッションでは、株式会社岩谷技研、日本航空株式会社(JAL)、株式会社JTBが登壇し、宇宙産業と既存産業の連携や新たな事業機会についての提案が中心であった。
宇宙輸送セッション
本セッションでは、ロケット開発の現状や量産化に向けた課題、国内宇宙輸送インフラの重要性についての議論が主軸であった。
特に印象的だったのは、ロケット開発が単なる設計や製造の積み重ねではなく、現場で蓄積された知見に大きく支えられていることが示された点である。
IST開発部 生産技術セクション マネージャーである小谷将太氏は、ロケット開発の難しさについて、技術情報の秘匿性の高さを挙げた。ロケット開発には長い歴史があるものの、各社・各機関が蓄積してきた実践的なノウハウは外部に公開されにくく、設計や製造の現場で必要となる情報を体系的に参照できるとは限らない。そのため、開発の各工程で試行錯誤を重ねながら、自ら知見を積み上げていく必要があるという。

その具体例として挙げられたのがターボポンプの開発である。設計上は成立していても、実際に組み立てる段階になると、どこに注意すべきか、どのような手順で進めるべきかといった実践的なノウハウが必要になる。そのため同社では、過去にロケット開発へ携わった技術者に何度も助言を求めながら、開発を進めたという。
また、トヨタ自動車北海道 ロケット事業推進室 室長である鈴木毅裕氏は、2022年から実施しているISTへの人的・技術支援について紹介した。自動車とロケットは共通する部分が多いと言われているが、必ずしもそのノウハウをそのままロケット開発へ適用できるわけではないという。宇宙産業には宇宙産業特有の要求や制約があり、自動車産業の「当たり前」が通用しない場面もあることを現場に入って実感したと語っていた。
一方で、ロケット開発が量産化を見据える段階に入ると、自動車産業が培ってきた生産技術や品質管理の知見が活用できる領域は少なくない。今後の宇宙産業の成長において、こうした異業種との連携は重要なテーマとなりそうだ。
国内宇宙輸送インフラの重要性については、IDDK Founder & CEOの上野宗一郎氏が、ユーザー企業の立場から言及した。同社は海外ロケットを利用した打上げ経験を持つが、その過程では輸出管理や国際輸送に伴う手続きが大きな負担になったという。
国内から宇宙へアクセスできる環境が整備されれば、打上げコストの低減だけでなく、輸送負荷や各種手続きの簡素化にもつながる。国内ロケットや射場の整備は、打上げ事業だけでなく、インフラを利用する宇宙機器産業全体にとっても大きな価値を持つことを示していた。
宇宙利活用セッション
宇宙利活用セッションで特に注目を集めたのは、岩谷技研が推進する「OPEN UNIVERSE PROJECT」である。
同プロジェクトは、高高度気球を活用した宇宙遊覧サービスの実現に向けた取り組みである。観光事業にとどまらず、ニアスペース(宇宙空間と地上の中間領域)を起点とした新たな産業エコシステムの構築を目指している。
宇宙遊覧事業を1社のみで推進するのではなく、多様な企業との協業による産業創出を重視。宇宙服や周辺サービスの開発を含め、宇宙遊覧を起点とした新たな市場形成を構想している。
実際にOPEN UNIVERSE PROJECTには複数の企業が参画している。一例として、JTBはサービス開発・販売、JALは運航体制の構築や運航ルールの策定、電通はプロジェクト開発やプロモーションの面で協力しており、岩谷技研が開発する高高度気球による宇宙遊覧サービスを、産業として成立させるための体制づくりが進められている。

JAL 事業開発部宇宙グループ長 東島誠氏によると、宇宙産業への参入を検討している中で、ロケットや衛星といった領域へ直接参入するハードルの高さを感じていたという。その中で、OPEN UNIVERSE PROJECTのようなニアスペースを活用した事業構想は、航空事業との技術的な連続性があり、既存の知見を活用しやすい領域として魅力を感じたと語った。
また、JTB ツーリズム事業本部 宇宙事業開発グループの佐藤憲一氏も、宇宙港や宇宙遊覧そのものだけでなく、周辺で生まれる観光・教育・地域振興といった派生市場にも着目していると語っていた。従来の旅行事業から、地域や人々の交流を創出する事業への進化を目指す中で、宇宙は新たな可能性を持つテーマとして位置付けられていた。
さいごに
今回のHOKKAIDO SPACE SUMMIT 2026を通じて見えてきた北海道の宇宙産業の特徴は、宇宙港やロケット、衛星といった個別事業の成長ではなく、それらを核とした産業集積の形成にある。
宇宙輸送の分野では、HOSPOを中心に、ロケット開発企業、製造業、研究機関、自治体が連携しながら産業基盤の構築を進めている。他方で宇宙利活用の分野では、宇宙遊覧をはじめとする新たな取り組みを通じて、観光、航空、教育、広告など既存産業との接点が広がりつつある。
つまり北海道は、宇宙産業を細分化して支援するのではなく、宇宙を共通テーマとして多様な産業や地域プレイヤーを巻き込み、新たな経済圏を創出しようとしているのである。
HIREC株式会社 代表取締役社長の上森規光氏が語ったように、北海道における宇宙ビジネスの議論は、「宇宙産業に関わりたい」という段階から、「誰と連携し、どの事業機会を狙うのか」を具体的に検討する段階へ移行しつつあるように見える。
北海道は古くから「試される大地」と呼ばれてきた。広大な土地や豊富な産業基盤、そしてHOSPOというアセットを活用しながら、宇宙を軸とした産業集積をどこまで実現できるのか。今回の札幌開催は、北海道の宇宙産業が実証フェーズから産業形成フェーズへ移行しつつあることを象徴するイベントであった。













