【不動産×宇宙】に注目!衛星データとAIを活用した都市開発・不動産関連サービス企業3選
©Space connect株式会社

「次に価値が上がる土地はどこか?」「土地の利用状況を、網羅的に把握したい」 不動産開発や投資の現場では、精度の高い情報とともに、迅速な判断が求められる。

近年、衛星データの利活用が進み、地上の変化を広域かつ定量的に捉えることが可能になってきた。AIと組み合わせることで、建物の新設や空き地の検出、地域の経済活発度の把握なども現実的な手段となっている。

本記事では、不動産分野においてそうした技術を実用化している国内企業3社:Penetrator、スペースシフト、Ridge-iの取り組みをピックアップ。各サービスの概要や注目ニュースについてご紹介する。

1. Penetrator

Penetratorとは

株式会社Penetratorは、宇宙から不動産の課題を解決することをビジョンに掲げているJAXA発のスタートアップ企業。

これまでに8社の不動産関連企業を創業した経験のある阿久津 岳生 氏が、地球の一つ上の視座から不動産市場を変えたいという思いから2022年2月に創業した。

Penetratorでは現在、衛星データとAIを活用し、主に不動産の仕入れ業務を効率化・高度化するSaaS「WHERE」の開発・提供を行っている。

WHERE
~ワンクリックで”価値ある不動産”を見つける

サービス概要

「WHERE」は、どこに・どのくらいの大きさの不動産があって、誰が所有しているのか、マップを見るような感覚で簡単にわかるアプリである。

従来、不動産情報の取得については関係者の人脈や紹介に依存した属人的な体制であり、情報の網羅性に乏しいうえ、取得後も現地調査による確認作業など、時間と労力を要するアナログな手法が一般的であった。

そこで、「WHERE」は衛星データから空き地や駐車場、畑等の指定した不動産を自動識別し、それらの画像データと、法務省が管理する不動産登記データを連携させることで、ワンクリックで簡単に網羅性のある情報を取得することを可能にした。

ユーザーは、物件の位置、規模、所有者などの基本情報をワンクリックで把握できるため、情報収集にかかる時間とコストを大幅に削減することが可能となっている。

WHEREのサービスイメージ
WHEREのサービスイメージ ©株式会社Penetrator

注目ニュース

単月売上1億円を突破!外部企業との連携

Penetratorは2023年6月にWHEREのベータ版をリリースし、2024年9月には公式版の提供を開始。主にはコインパーキングやトランクルームの用地を探す事業者向けにサービスを提供しており、三井不動産、三菱地所、福岡地所など大手企業も導入している。

2025年3月には、サービス開始からわずか9か月で単月売上1億円を突破。翌年4月には、シリーズAラウンドにおいて総額5.5億円の資金調達を実施したことを発表した。

また、出資元の一つであるスカパーJSAT株式会社とは2025年2月に業務提携にも合意。

高精細な衛星画像を用いた不動産分析において、Penetratorが抱える「高分解能データの取得コストの高さ」や「更新頻度の制約」といった課題に対し、スカパーJSATは低コストな低分解能データから高精度な差分情報を抽出する技術開発を進めており、両社の連携によってサービスの実用性向上が期待されている。

夜間光データで「ポテンシャル不動産マップ」も作成

さらにPenetratorは、サービスの実用性を高める新機能として、2025年4月に「ポテンシャル不動産マップ」の自動生成システムを発表した。

この機能は、建物の明かりや街灯など、夜間に地表から放たれる光を人工衛星で観測した「衛星夜間光データ」から市町村ごとに経済活発度指標を導出し、地図上に示したもの。

衛星夜間光データは経済活動との高い相関があることから今後の活用が期待されており、実際に海外などで経済指標の提供やコンサルティングにも使用され始めている。さらに無料で入手可能で、広範囲をカバーすることができる。

Penetratorは、複数の調査の結果税収と夜間光データとの間に非常に強い相関関係(相関係数0.9以上)があることを確認。以下の3つの機能をWHERE上に実装した。

  1. 全国の衛星夜間光データをマップ上への表示
  2. ポテンシャル不動産エリアの可視化
  3. 全国分の夜間光データと月次比較/都道府県単位での偏差値
「ポテンシャル不動産」を直感的に見つけられる衛星データマップ
(左)夜間光データをマッピング表示|(中)WHERE上にポテンシャルマップをマッピング表示|(右)月次単位の夜間光データをグラフ表示 ©株式会社Penetrator

従来の土地選定業務では、不動産投資信託(REIT)や都市計画、人口統計など複数の情報ソースを行き来しながら候補地の比較検討を行っており、その作業に多くの時間を要するうえに、同業他社も同様の情報を利用しているため情報の質や視点において差別化が難しいという課題があった。

また、データの取得にコストがかかるうえ、国勢調査に基づく年次更新が多く月単位といったより細かな粒度での判断ができない点もネックとなっている。

これらの課題に対し、『WHERE』で経済活発度を可視化できるようになれば、候補地周辺に人が集まっているかをリアルタイムに近い形で把握できるようになる。

また、日本全国との比較による地域の経済活発度の相対評価も可能となり、従来では見えにくかった土地のポテンシャルをより的確に捉えることが可能。これにより、土地選定の意思決定における精度とスピードの両方を大きく向上させることが期待されるのだ。

2. スペースシフト

スペースシフトとは

株式会社スペースシフトはAI、人工衛星、リモートセンシングを専門に、従来は解析が難しいとされてきた「SAR(合成開口レーダ)衛星」のデータ解析技術を開発する企業である。

SAR衛星とは、衛星自ら電波を照射することによってその反射情報から地表面を観測する衛星で、時間帯や天候に左右されずに地上の様子を24時間365日観測することが可能。常に同じ条件で対象物を撮影できるため、対象物の変化を検出しやすいという特徴を持つ。

スペースシフトは、このSAR衛星のデータ解析精度を向上させることに加えて、光学衛星や地上センサーと柔軟に組み合わせることで地上のあらゆる変化を検出する技術を開発。

観測対象に応じて独自開発したAIアルゴリズムによりデータを自動的に解析することで、迅速かつ精度の高い情報を抽出している。

建物検知AI
:対象地域の新築・取り壊しデータを取得

サービス概要

スペースシフトは衛星データを活用して農業モニタリングや災害モニタリング、オイルスリック(洋上油膜)検知など様々なサービスを展開しており、その一つに建物検知AIがある。

建物検知AIは、撮影した時期の異なる2枚の画像を、スペースシフトが独自開発したAIアルゴリズムで解析することで建造物の新築・消失といった変化を検出するものである。

SAR衛星のみならず、光学衛星によるカラー画像と組み合わせて解析することにより、時系列変化を高精度に把握することが可能。また、衛星は一回の観測で数百kmという広範囲をカバーし、定期的な撮影を行うことで、世界中の地表変化を準リアルタイムで捉えている。

スペースシフトのサービスイメージ
スペースシフトのサービスイメージ ©株式会社スペースシフト

サービス活用方法として、以下のような例が挙げられる。

  • 都市の動向把握と開発計画への活用(都市開発事業者など)
  • 建設予定地や周辺環境の状況把握(建設会社など)
  • 不動産データの蓄積と応用(不動産会社など)

このサービスはドイツのUP42が運用する衛星データプラットフォームにおいて提供されており、すでに世界中のユーザーが利用可能だ。

注目ニュース

世界初!AWS Marketplace上でSAR画像解析サービスを公開

スペースシフトは2023年11月、新規建造物を検出するサービスをクラウドプラットフォーム「AWS Marketplace」上で公開した。AWS MarketplaceにおけるSAR画像を解析するサービスの公開は世界初の事例である。

AWSとはクラウドベースの製品やサービスを開発、提供、利用することができる世界最大のプラットフォームであり、インターネットを介してコンピューターの機能やデータを遠く離れたところから利用することが可能。

サービスの開発に必要な機能が多数提供されており、自身で一から開発するよりも簡単に開発できる。

そして、AWS Marketplaceはアマゾンウェブサービス(AWS)が展開するオンラインストアであり、公開されたソフトウェア製品やサービスはAWSを利用する多数のユーザーがアクセス可能である。

AWSでは、様々なSAR衛星データを無料のデータセット「Open Data on AWS 」として公開しているため、スペースシフトがAWS Marketplace上でサービスを公開したことによって世界中のユーザーがAWS 上の一貫した環境で様々なSAR 画像の解析結果を簡単に入手することが可能になった。

これにより、衛星データ解析が専門企業に限られた領域から、より多様な業種・企業に開かれたソリューションへと進化する可能性が広がっている。

都市開発・不動産分野における衛星データ活用事例を公開

スペースシフトはこれまで、都市開発・不動産分野における衛星データを活用した課題解決方法を、ホワイトペーパーとして公開している。

1つ目は、新規出店や商業開発、不動産投資の検討時に「どのエリアが有望なのか?」「都市開発が活発な地域をもっと広く把握したい」などの悩みを持つ方向けに、同社の建物検知AIを活用した解決方法を公開。

バーレーン王国の都市機能改善計画や、情報収集が困難な東南アジアにおける物件情報の取得地図データベースの更新作業の効率化など、実際にスペースシフトで検討されている事例をもとに衛星データの活用方法が紹介されている。

2つ目は、遠隔地・海外での不動産開発や都市開発を検討している方向けに、「宅地や施設などの周辺の変化がどの程度ありそうか」「災害リスクがどの程度ありそうか」といった投資判断の場面や、「遠方で現地を直接見に行けないが、定期的に周辺状況を確認したい」といった運営・管理の場面など、様々なプロセスで衛星画像を効果的に活用する方法を公開。

ビーチリゾートの開発エリアを検討する際に衛星画像を用いて海岸線の侵食状況を把握する方法や、ベトナム国内において過去5年にどのエリアで建物の新築・解体が多く、都市開発が活発化しているかを調査する方法などが紹介されている。

興味のある方は、ぜひご一読いただきたい。

ホワイトペーパーの外観
ホワイトペーパーの外観 ©株式会社Ridge-i

3. リッジアイ

リッジアイとは

株式会社Ridge-i(リッジアイ)は、AI・ディープラーニング技術を活用したソリューションにより、経営・社会課題の解決に挑むディープテックベンチャー企業である。2016年に設立され、2023年5月に東証グロース市場への新規上場を果たした。

主な事業内容は以下の3つ。

  • AI活用コンサルティング・AI開発サービス
  • 人工衛星データ AI解析サービス
  • AIライセンス提供サービス

同社の強みは、画像解析ディープラーニングをはじめとする異常検知AI、最適化AIなどを統合した「マルチモーダルAI」技術にある。この技術は、人間の作業・判断・感覚を再現し、実務での応用可能なモデルを構築することを可能にする。

同社はこのコア技術に専門家によるコンサルティングや衛星データを組み合わせ、戦略策定から要件定義フェーズに始まり、現場のコンサルテーションから開発・運用保守まで、顧客が投資対効果を実感するまで一気通貫で伴走する形で経営・社会課題を解決。

特に、衛星データ活用においてはデータ収集からAI開発までをワンストップでサポート。顧客が持つデータや様々な地上データを組み合わせて独自の教師データを作成し、モデルの構築・運用までを実施している。

不動産分野ソリューション
:人海戦術による開拓を衛星データ解析で効率化

サービス概要

リッジアイもまた、災害対応や環境保全、マーケティングなど様々な分野で衛星データ解析サービスを提供している。

不動産分野では、開発前の現地調査に依存していた遊休地の探索や都市開発状況の把握を衛星画像からの自動解析で代替。これにより、営業活動や土地選定の精度・スピードを大きく向上させている。

たとえば、駐車場として活用可能な空き地を自動検出する技術や、道路・工場・住宅の新規建設状況を高精度に把握する手法が実用段階に入っており、現地確認や書面調査に依存しない新たな業務スタイルを支えている。

注目ニュース

駐車場用スペースを自動検出!約75%の精度で実証

同社による2020年の発表では、駐車場予約アプリ「akippa」において駐車場用のスペースを自動検出するための初期プログラムを研究開発したことを明らかにした。

akippaは、全国の空いている月極や個人の駐車場、空き地などの遊休地を駐車場として一時利用できるシェアリングサービス。

2020年7月当時は全国に累計37,000拠点の駐車場が登録されていたが、ドライバーのニーズに対して十分な駐車場数が確保できておらず、新しいスペースを見つける際にも現地に行って開拓をしているため時間がかかるといった課題があった。

この課題を解決するため、リッジアイは効率的に駐車場として活用できる遊休地を見つける新しい手法として、衛星データと機械学習・ディープラーニングの技術を活用し、特定エリアの「自動車駐車場用スペースの候補を自動検出するプログラム」を開発。

2020年の開発初期モデルでは、福岡・札幌にて実証実験を行ったところ、約75%の精度を実現した。

駐車場用のスペースを自動検出するシステムの実証結果
駐車場用のスペースを自動検出するシステムの実証結果 ©株式会社Ridge-i
国土地理院の電子国土基本図の更新業務に採用

2024年には、リッジアイのサービスが国土地理院の電子国土基本図の更新業務に採用されている。

従来、国土地理院の電子国土基本図の更新は、地図情報と空中写真を目視で比較することにより、更新範囲の決定を実施していたため多大な時間を要していた。

リッジアイはこの課題に対し、異なる時期の衛星画像を比較して建物や道路の変化を自動検出するAIモデルを開発。

さらに、分析結果を視覚的に確認・修正できるWebアプリケーションを併せて提供したことで、結果を基に作業員によりシステム内で効率的に修正し、ラベル付けして蓄積できるシステムとして設計・実装された。

従来の方法では年間で国土全体の約1割程度しか更新できなかったが、AIによる網羅的な変化検出を活用することで、更新の優先順位付けが可能となり、地図更新の効率化が実現されつつある。

さいごに

いかがでしたか。

衛星データとAIを活用した不動産関連サービスは、すでに実用段階に入っており、都市開発や土地選定における情報取得の手法を大きく変え始めている。

現地調査や限定的な統計情報に頼らざるを得なかった従来のアプローチに対し、宇宙からの視点は、より広域かつ定量的な分析を可能にし、意思決定のスピードと精度を大きく向上させる手段となっている。

今後も、こうした宇宙由来のデータ活用がさまざまな分野に広がる中で、不動産分野はその先端事例の一つとして注目を集めていくだろう。

また、本記事でご紹介した株式会社スペースシフトは、現在様々なポジションで人材を募集している。興味のある方は、ぜひこちらからチェックいただきたい。

スぺジョブ 宇宙業界の転職

参考

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