2024年5月27日、宇宙飛行機(スペースプレーン)を開発するPDエアロスペース(PDAS)株式会社が、デトネーション(火炎が音速を超える速度で燃焼する)技術をベースとした「ジェット燃焼モード/ロケット燃焼モード切り替えエンジン」において世界初となる燃焼実証に成功したことを明らかにした。
このエンジン技術は、あらゆる航空機を宇宙空間でも飛行可能にし得る、新しい技術である。
本記事では、同技術の仕組みや、同技術を開発するメリットについてご紹介する。
目次
同社が取り組む宇宙飛行機開発
PDエアロスペースは、民間主導で宇宙飛行機の開発を行うスタートアップ企業だ。
同社は宇宙旅行を実現させるべく、サブオービタル飛行が可能な宇宙飛行機の開発以外にも、飛行実験機や新型エンジン、宇宙港等、さまざまな開発を並行して進めている。
同社が開発する宇宙飛行機は、既存の空港が使用でき、飛行機と同じように水平着陸式で運用できることから、運用や燃料コストの面から優れたシステムだと考えられる。
宇宙飛行機と従来ロケットの違い
現在、宇宙空間に到達するための主要な手法はロケットの垂直打ち上げだ。
この方法では複数のエンジンを下から順番に点火して燃焼が終わったエンジンを切り離していき、切り離したエンジンは使い捨てられるか、もしくは再利用される。
衛星や宇宙機を載せるロケットの機体部分は宇宙空間に到達後、地球に戻ってこない。
一方、PDエアロスペースが開発する宇宙飛行機は飛行機のように水平に離着陸し、宇宙まで飛行する。
この宇宙飛行機は、大気中では通常のジェット燃焼モードを使用し、宇宙空間ではロケット燃焼モードに切り替えるため、単一のエンジンで2つの異なる環境を飛行可能。
また、エンジンは使い捨てずに機体とともに飛行機のように再利用できるため、従来のロケットと比較して経済的かつ持続可能な飛行手段となるのだ。
宇宙飛行機 | ロケット | |
宇宙到達方法 | 水平離陸 | 垂直打ち上げ |
エンジン | 大気中はジェットモードで燃焼 宇宙空間はロケットモードで燃焼 | ロケットエンジン等 |
再利用性 | 機体・エンジンともに再利用可能 | エンジンは使い捨て又は再利用 |
特許取得!同社開発のエンジン技術
ジェット燃焼モード/ロケット燃焼モード切り替えエンジンは、同社開発の宇宙飛行機『ペガサス』の重要な要素技術で、PDエアロスペースの最大の技術特徴である。燃焼モードの切り替え技術は同社が提唱し、特許を取得した。
ジェットエンジンとロケットエンジンの違いは、大気中の酸素を取り込んで燃料を燃やすか、液体酸素などの酸化剤を使用するかである。
PDエアロスペースの開発する燃焼モード切り替えエンジンは、それぞれの環境で以下のように動作する。
- 空気のある領域(高度0㎞~15㎞):ジェット燃焼モードで飛行。シャッターが開き、空気を取り込んで燃料を燃やすことで推力を得る。
- 空気のない領域(高度15㎞以上~):ロケット燃焼モードで飛行。シャッターが閉じ、酸化剤で燃料を燃やすことで推力を得る。
両方の燃焼モードで燃料の爆発的燃焼(デトネーション)を利用することで、「シンプルな構造」「高い推力」「高い燃焼効率」を実現。
燃焼モード切替エンジンのメリット
PDエアロスペースの開発するジェット/ロケット切り替えエンジンのメリットは、以下の3つ。
- 安全性の向上:いつでもミッションを中止でき、上空での待機や着陸のやり直しが可能。他の航空機との衝突を避けるための位置や高度の調整、別空港への着陸も可能である。
- 製造/運用コストの低減:既存空港を使用でき、専用空港は不要。構造が簡素なため製造コストと整備コストを低減できるほか、エンジン効率が高いため低燃費で飛行できる。
- 拡張性:理論上はどのジェットエンジンにもロケット機能を付加できることを意味しており、システムの幅広い転用が可能
また、このエンジン技術により、一般の航空機が飛行できない大気が薄い高度でも飛行できるようになる他、マッハ5以上の超高速飛行が可能となるのだ。
世界初!!燃焼実証の成功
大気圏と宇宙空間の両方を飛行するための技術としてジェットとロケットを切り替えるエンジンを提唱し、過去にデトネーションをベースにしたエンジン切り替えの初期実験に成功していた同社。
「デトネーション」技術をベースにした、ジェットエンジンとロケットエンジンの「混成(コンバインド)方式」の燃焼実験に世界で初めて成功したことを発表した。
通常のジェットエンジンと、回転デトネーションロケットエンジンを融合させたコンバインド方式のエンジンを開発し、今回実証実験で実用レベルの推力を達成したとのこと。
今後の展望・提供するサービス
PDエアロスペースは今後、さらに開発を進めて宇宙飛行機のメインエンジンへ発展させる予定だ。
まずは無人機を先行開発して、その後に並行して有人機の開発にも着手する。
宇宙空間と地球上の2つの市場にアプローチし、様々なサービスを提供する予定とのこと。
例えば、宇宙では、高高度(高度80㎞)からの落下中に発生する分単位の微小重力環境、映像、各種観測機会を提供する。
また、地球上では、即応性、機動性、酷所適合性という特性を活かし、多目的な観測サービスを提供。
火山等の危険地域や大規模災害が発生した地域、悪天候の地域など危険かつ迅速性が問われる領域の観測に適しているほか、人工衛星データの補完や海難救助支援も可能だ。
さらに、同社はスペースプレーンの離発着専用宇宙港として、沖縄県下地島空港にてブルーオーシャンに囲まれた世界一美しい宇宙港の開港も予定している。
さいごに
いかがでしたか。
PDエアロスペースの世界初のエンジン技術により宇宙空間へのアクセスが一層容易になり、宇宙利用の可能性が広がるだろう。
同社の宇宙飛行機が実現すれば、ANAが機体運用、日常整備、地上支援など運航に関わることの管理に携わり、HISが気象庁、大学、研究機関、航空宇宙系メーカー、企画会社、旅行会社等のユーザーにサービス販売を行う計画となっている。
異業種の大企業がサービス運営に携わることで、一般の人々にとっても宇宙はより身近なものになっていくのではないだろうか。
同社の今後の活躍に期待したい。