H3ロケット8号機打ち上げ失敗ー原因究明状況を解説
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2026年1月20日、文部科学省の宇宙開発利用部会において、JAXAはH3ロケット8号機の打上げ失敗に関する原因究明状況を報告した。

2025年12月22日に種子島宇宙センターから打ち上げられたH3ロケット8号機は、搭載していた準天頂衛星「みちびき5号機」を所定の軌道へ投入できなかった。

本記事では、JAXAの公式資料に基づき、確認された事実と現在進められている原因究明の状況を整理する。

フェアリング分離直後に確認された異常事象

H3ロケット8号機打ち上げ時の状況を示した資料。打上げから約225秒後、衛星フェアリング分離開始直後に、通常のフライトでは確認されない大きな加速度が観測され、この異常な加速度の発生とほぼ同時に、衛星分離部の温度低下および第2段液体水素(LH2)タンクの圧力低下が記録されている。
H3ロケット8号機打ち上げ時の状況 (出典:JAXA配布資料

H3ロケット8号機は、準天頂衛星「みちびき5号機」を所定の軌道へ投入するため、段階的な飛行手順に基づいて打ち上げられた。
本来の計画では、第1段エンジンの燃焼終了後に第1段と第2段を分離し、続いて衛星フェアリングを分離した上で、第2段エンジンによる第1回燃焼および第2回燃焼を実施し、衛星を所定の軌道へ投入する予定であった。

しかし、実際の飛行では、JAXAの解析によると、打上げから約225秒後、衛星フェアリング(※1)分離開始直後に、通常のフライトでは確認されない大きな加速度が観測され、第2段エンジンにおける2回目の燃焼が予定より早く停止した。
この異常な加速度の発生とほぼ同時に、衛星分離部の温度低下および第2段液体水素(LH2)タンクの圧力低下が記録されている。

これらのデータを踏まえ、JAXAはフェアリング分離時に、衛星搭載構造(衛星搭載アダプタや衛星分離部)の一部が損傷または破壊された可能性があると推定。
その結果、第2段LH2タンクの加圧配管が損傷し、ヘリウムガスによる加圧が十分に行えなくなったと考えられている。
この加圧不良により第2段エンジンの第2回燃焼が正常に成立せず、早期停止に至ったことが、打上げ失敗の直接的な技術要因と位置付けられている。

※1 ロケットが大気中(地上~高度100km強)を飛行する際の風圧や、風圧によって発生する力や、空気との摩擦熱から衛星を守るためのカバー(覆い)

一方で、フェアリング分離機構そのものの作動は、従来機と同等であったと評価されている。
ただし、分離直後に複数回の加速度ピークが確認されていることから、分離後の過程で二次的な構造損傷が生じた可能性が残されている。
なぜこのタイミングで構造損傷が発生したのかという根本的なメカニズムについては、現在も故障の木解析(FTA)による検討が続けられている。

「みちびき5号機」の離脱と各機体の挙動

H3ロケット8号機の飛行状況を示した図。衛星は本来予定されていた第2段エンジンによる軌道投入を待たず、段間分離の段階でロケットから離脱した。
H3ロケット8号機の飛行状況(出典:JAXA配布資料

JAXAは、H3ロケット8号機が飛行中に衛星搭載構造の損傷を抱えた状態で飛行を継続していた可能性があるとみている。
第1段と第2段の分離時に撮影されたカメラ映像には、衛星とみられる物体が機体から離れていく様子が確認された。
このことから、衛星は本来予定されていた第2段エンジンによる軌道投入を待たず、段間分離の段階でロケットから離脱したと結論付けられている。

離脱した「みちびき5号機」は、第1段機体と同様に落下予想区域内に落下したと推定されている。
一方、第2段機体は第1回燃焼終了時点で一時的に軌道状態にあったものの、第2回燃焼が成立しなかったため、打上げから約4時間以内に地球へ再突入した可能性が高いとされている。

また、映像データからは、分離後の衛星表面において多層断熱材(MLI)の剥離やパネルの脱落を示唆する挙動が確認されている。
JAXAは、衛星分離信号は送出されたものの、物理的な分離検知が行われていない点を踏まえ、衛星側の一部構造がロケット側に残留、または断線した状態で離脱した可能性を示している。

故障の木解析(FTA)による原因究明の状況

FTAによる原因究明の状況を示した図。現時点で検討対象として残されている主な要因には、フェアリング分離時の衝撃や接触などの力学的エネルギー、推進薬や高圧ガス、火工品に起因する化学エネルギー、ならびに衛星搭載構造部材の強度不足が含まれる。
FTAによる原因究明の状況(出典:JAXA配布資料

JAXAは「フェアリング分離開始直後に観測された異常な加速度」をトップ事象として、FTAによる要因の絞り込みを進めている。
現時点で検討対象として残されている主な要因には、フェアリング分離時の衝撃や接触などの力学的エネルギー、推進薬や高圧ガス、火工品に起因する化学エネルギー、ならびに衛星搭載構造部材の強度不足が含まれる。

一方で、準静的加速度、音響、電位差、送受信電波などによる影響については、フライトデータおよび地上試験の結果から要因ではないと判断されている。
今回の事象が特定部品の単純な不具合なのか、設計上の余裕度に関わる問題なのかについては、今後の再現試験や追加解析の結果を待つ必要がある。

産業・政策面への影響

JAXAは2025年12月22日、理事長を本部長とする「H3ロケット8号機対策本部」を設置し、三菱重工業、内閣府、三菱電機と連携して原因究明を進めている。
今回の打上げ失敗は、2020年代に7機体制を構築することを目指す準天頂衛星システム整備計画に、少なからず影響を及ぼす。

H3ロケットは日本の自律的な宇宙アクセスを支える基幹ロケットであり、その信頼性の確立は、将来の政府ミッションや商業打上げの観点からも重要である。
今後は、特定される要因に対する設計面・運用面での是正を通じて、再発防止策を講じていくことが求められる。

さいごに

H3ロケット8号機の打上げ失敗は、フェアリング分離直後に発生した異常な加速度を起点とする、衛星搭載構造の損傷が連鎖的に影響した可能性が高い事象であった。
JAXAはフライトデータと映像解析に基づき、原因の範囲を着実に絞り込みつつあり、故障の木解析を通じて再現試験と是正策の検討を進めている段階にある。

今後、原因の特定と設計・運用両面での是正が着実に実行されるかどうかが、日本の自律的宇宙アクセス能力の信頼回復を左右する重要な分岐点となる。

なお、H3ロケット8号機の打上げ概要およびこれまでの経緯については、既報の解説記事に詳述しているため、併せてご参照いただきたい。

参考

JAXA,『H3ロケット8号機打ち上げ失敗原因究明状況』

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