H3ロケット7号機、HTV-Xを搭載で10月21日に打上げへ
©Space Connect

宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)は、H3ロケット7号機による新型宇宙ステーション補給機「HTV-X1」を2025年10月21日(火)に打ち上げると発表した。

本記事では、H3ロケット7号機の注目ポイントと搭載される新型補給機「HTV-X」のミッション概要について紹介する。

H3ロケット7号機の特徴

H3ロケットとは

H3ロケットは、H-IIAロケットの後継として三菱重工業とJAXAが開発する次世代の大型基幹ロケット[※1]である。

開発の目的は、自国の衛星を確実に打ち上げる「自立性」の確保と、国外顧客を惹きつける「国際競争力」の強化にあり、「安価で信頼できるロケット」として年7回以上の安定的な打ち上げを狙いつつ、民間需要の獲得を目指している。

従来のH-IIAは衛星ごとの特注生産に依存し、コスト高と打ち上げ頻度の制約が課題であった。これに対し、H3は世界市場を視野に入れ、以下の特長を備えている。

  • 柔軟性:複数の機体形態を用意し、用途に応じた打ち上げ能力と価格を提供。組立や射場整備を効率化し、受注から打ち上げまでのリードタイムを大幅に短縮。
  • 高信頼性:H-IIAが誇る約98%の成功率を継承し、「確実に打ち上がるロケット」を目指す。
  • 低価格:民生品を積極活用し、ライン生産に近い方式を導入。最小構成では従来の約半額となる50億円規模の打ち上げ費用を実現する。

[※1]基幹ロケット:国の宇宙開発や産業活動を支えるため、衛星打ち上げや探査ミッションなど国家レベルの重要な打ち上げ任務に広く利用される主力ロケットのこと

7号機は最大能力形態の初打上げ

H3ロケット7号機では、シリーズで最も打ち上げ能力が大きい「H3-24W」形態が初めて投入される。この名称は「LE-9エンジン2基」「固体ブースタ4本」「ワイド型フェアリング」を組み合わせた構成を表しており、簡単に言えば、H3ロケットのフル装備版といえるだろう。

これまでの試験機(1~5号機)は「H3-22S」形態(LE-9エンジン2基、固体ブースタ2本、ショートフェアリング)で打ち上げられてきた。7号機では固体ブースタを倍の4本に増やし、大型フェアリングを採用することで、新型宇宙ステーション補給機HTV-X」に対応可能な打ち上げ能力を備えている。

H3-24W形態の特徴
H3-24W形態の特徴 ©宇宙航空研究開発機構(JAXA)

今回の打ち上げでは、HTV-Xの要求に合わせた設計最適化が行われた。新開発のワイドフェアリングには、打ち上げ直前まで貨物を搭載できる大型アクセスドアを設置。加えて、分離時の衝撃を抑える専用分離部も導入されている。

こうした改良は、「ユーザーフレンドリーなロケット」を掲げるH3の設計思想を体現するものといえる。

HTV-Xのミッションに注目

HTV-Xの概要と特徴

HTV-Xは、国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送を担った補給機「こうのとり」(HTV)の後継機として開発された。

1|輸送能力と利便性が進化

HTV-Xは、輸送能力を従来比約1.5倍の約5.8tへ拡大し、冷凍庫や実験装置など電源を必要とする貨物の輸送にも対応可能となった。

また、最終貨物搭載の締切を打ち上げ80時間前から24時間前に短縮したことで、生鮮食料品や実験サンプルなど鮮度が重要な物資の輸送が可能に。種子島宇宙センターでの組立工程も効率化され、より柔軟な輸送体制を実現している。

HTVとHTV-Xの違い
HTVとHTV-Xの違い ©宇宙航空研究開発機構(JAXA)

2|ISSの先を見据えた技術実証機能

HTV-Xは、ISSへの物資輸送を終えた後も最長1年半にわたり軌道上に滞在し、技術実証プラットフォームとして活用できることも大きな特徴の1つだ。新型推進系や宇宙機器の実証、地球観測や通信技術の検証など、多様な実験が可能であり、ISS退役後の低軌道活動や将来の探査計画への足がかりを見据えた設計になっている。

他にもISS計画に参加していない新興国(ジュニアパートナー)への支援や、米国主導の月周回拠点「ゲートウェイ」計画への物資補給も視野に入っており、日本の国際的役割を拡大する存在としても期待されている。

HTV-X 1号機のミッション内容

HTV-X 1号機は、ISS補給任務終了後に約3か月間の「技術実証フェーズ」へ移行する。実施予定の主な実証は以下の通りである。

超小型衛星放出『H-SSOD』

高度約500kmから小型衛星を放出。ISSより高高度からの投入により、運用期間延長や新たな利用需要の開拓を目指す。1号機では日本大学の「てんこう2」を放出予定。

世界初のレーザーで測距実験『Mt. FUJI』

JAXAが開発した小型リフレクター「Mt.FUJI」を搭載し、地上からレーザーを照射して反射光を観測。宇宙機の位置や姿勢を精密に測定する世界初の実証となる。

展開アンテナ『DELIGHT』と宇宙用太陽電池『SDX』の実証

将来の宇宙太陽光発電に向け、以下の大型構造物の展開・計測試験を実施。

  • DELIGHT:展開型軽量パネル(DLP)を軌道上で展開し、その挙動や構造特性をカメラで計測。パネルに搭載された軽量平面アンテナを通じて地上からの電波受信レベルを測定し、展開機構およびアンテナ機能の実用性を検証する。
  • SDX:超高効率三接合太陽電池(PHOENIX型)および国産ペロブスカイト太陽電池を搭載し、軌道上での発電性能を実証する。

さいごに

H3ロケット7号機は、最大能力を持つ「H3-24W」形態と新型補給機「HTV-X」の初実証が重なる節目の打上げである。成功すれば、日本は大型補給機を安定して輸送できる力を示すとともに、HTV-Xを通じてISSへの物資輸送だけでなく、軌道上での技術実証や将来の国際探査支援にも貢献することになる。

ポストISS時代を見据えた国際宇宙活動において、日本が確かな役割を担うためにも今回の打上げは重要なものとなるだろう。

打上げ情報

  • 打上げ予定日:2025年10月21日(火)
  • 打上げ予定時刻:午前10時58分ごろ(日本標準時)
  • 打上げ予備期間:2025年10月22日(水)~2025年11月30日(日)
  • 打上げ場所:種子島宇宙センター 大型ロケット発射場
  • ペイロード:新型宇宙ステーション補給機「HTV-X1」(搭載ロケット:H3-24W)

参考

H3ロケット7号機による新型宇宙ステーション補給機1号機(HTV-X1)の打上げ(JAXA, 2025-08-25)

HTV-X1号機 ミッション(JAXA, 2025-08-25)

H3ロケット、日本初「固体ブースターなし」で打ち上げ!低価格モデル実証で柔軟性獲得へ(SPACE CONNECT, 2025-08-25)

HTV-X ミッション(JAXA, 2025-08-25)

2025年度 ロケット打上げ計画書(JAXA, 2025-08-25)

新型宇宙ステーション補給機1号機(HTV-X1) × H3ロケット7号機(JAXA, 2025-08-25)

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