2023年9月14日、三井物産株式会社は、JAXAによる「米国の民間宇宙ステーションに接続する日本モジュールのコンセプト設計を行う事業」の事業者選定入札に応募し、事業者として選定されたと発表した。
このモジュールは、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の後を継ぐものであり、同社はその保有・運用の事業化について、10社以上のパートナー企業とともに検討する。
本記事では、日本の宇宙計画の概要を説明するとともに、パートナー企業のうちElevationSpace、アストロスケール、有人宇宙システム株式会社(JAMSS)の3社をピックアップ。それらの企業の特徴や役割についてご紹介します。
目次
ISS退役後の日本の計画
国際宇宙ステーション(ISS)は老朽化により2030年に運用を終了する予定であり、米国では複数の民間企業がその後継機となる商業宇宙ステーションの開発を進めている。
日本においては具体的な動きが未定となっているが、日本が宇宙を利用した活動を継続的にできるよう、以下の両方の選択肢で検討。
- 日本や日本の民間事業者が独自で、宇宙ステーション、モジュール又は実験設備等を所有した上で活動する
- 海外の民間商業ステーションが提供する利用サービスを調達して活動する
そこで今回は、この一つ目の選択肢を検討するために、JAXAは、日本独自の宇宙環境の構築を民間主導で検討するため事業を公募し、三井物産が事業者として選定されたということである。
三井物産はこれまで、ISS「きぼう」から超小型衛星を軌道投入するサービスの販売事業を通じて、きぼうの利用拡大に貢献してきた他、2022年度には、JAXAが公募した、ISS退役後の宇宙環境利用について、宇宙への輸送から地球へ帰還するまで一連のビジネスモデルを検討するプロジェクトにも参加している。
このように、同社はこれまで獲得してきた知見・ノウハウを活用し、日本モジュールの開発仕様やスケジュール策定、費用算定等に取り組む。
今回の日本モジュールの開発においては、必要な技術を多く搭載する新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)の一部を改修開発することで事業化する方向だ。
パートナー企業3社をピックアップ
パートナー企業には、長年日本の宇宙業界を牽引してきた三菱重工業や、宇宙におけるライフサイエンスの研究開発を行う資生堂など、宇宙産業における技術力と知見を持つ企業が揃った。
今回は、その中からピックアップした3社を紹介する。
ElevationSpace
ElevationSpaceは、まさにISS「きぼう」の後継となるサービスを開発中の企業。
具体的には、無人の人工衛星を用いて宇宙で実証・実験を行ったあと、衛星とともに帰還したサンプルを地上で回収できるという、世界初のサービスを開発している。
このサービスの特徴は、高頻度で打ち上げが可能であることや、有人のISSよりも安全基準のハードルが低いことがポイントである。
今回の同社の役割は、4月からJAXAと共創を開始していた事業でもある、日本モジュールからサンプル等を高頻度に地球に帰還させるサービスの事業検討。
同社が開発する無人小型衛星のエンジン技術や、大気圏再突入技術、地上で回収するカプセル技術などを、事業検討に活用する方針だ。【ElevationSpaceについての記事はこちら】
アストロスケール
アストロスケールは軌道上サービスの開発に取り組む、世界初の民間企業。
同社は、スペースデブリ対策として、衛星運用終了時のデブリ化防止、既存デブリの除去、衛星の寿命延長、故障機や物体の観測・点検などといった軌道上サービスを開発する。
今回の役割は、宇宙ステーションでの点検や修理、燃料補給といったサービスが今後の可能性として考えられていることを踏まえ、自社の軌道上サービスの知見を活かし検討を進めていく。
また、地球を周回する物体に接近する技術や、近傍運用、ドッキングといった技術を日本モジュールに活かしていくことも、同社自身の軌道サービスの将来への適用、発展の形として検討を進める方針だ。
有人宇宙システム(JAMSS)
JAMSSは1990年の創立以降、ISSきぼうや宇宙ステーション補給機こうのとりの運用管制をはじめ、宇宙飛行士や管制要員の訓練など、「有人宇宙」に関する事業で活躍してきた企業。
同社の運用管制員は、JAXAにあるきぼう運用管制室できぼうの状態を常時監視・制御・分析し、NASAや宇宙飛行士とリアルタイムで国際調整を行っている。
また、きぼうでの宇宙実験に関しては、実験機器のチェック、宇宙飛行士の実験訓練や手順書の作成など、実験実施から結果の回収に至るまで、トータルで宇宙実験をサポートし、数々の成功を収めてきた。
今回の役割は、これらの経験を活かし、日本モジュールの利用・運用コンセプトの検討を行うという。
さいごに
今回の事業では、三井物産とそのパートナー企業により、日本の技術が大集結することとなる。
宇宙ステーションやモジュールといった日本が宇宙空間で活動できる場所は、日本の宇宙産業の発展のためには外せないだろう。
日本モジュールに各社の技術や知見が融合することで、前例のないイノベーションが生まれ、未来の宇宙産業の発展を牽引していくことを期待したい。
参考
JAXAから米国商業宇宙ステーション接続型の日本実験棟後継機の概念検討の実施者に選定
エレベーションスペースがISS「きぼう」後継機検討事業で三井物産に協力、高頻度サンプル回収サービス検討パートナーとして参画