【5分で解説】温暖化対策に貢献!?日欧協力の観測衛星『EarthCARE』について
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日本と欧州が協力して開発を進める地球観測衛星『EarthCARE(愛称:はくりゅう)』の打ち上げが2024年5月29日午前7時20分(日本時間)に行われる。

それに伴い、本記事では『EarthCARE』のミッションと注目ポイントについてわかりやすくご紹介する。

『EarthCARE』のミッション

EarthCARE(Earth Cloud Aerosol and Radiation Explorer)は、地球全体の雲やエアロゾル(大気中に存在するほこりやちりなどの微粒子)の観測を目的とした地球観測衛星である。

雲やエアロゾルは、地球に入出するエネルギー(熱)の量に影響することがわかっている。

これらを観測することで地球温暖化問題への対策に繋げることが同衛星の狙いである。

温暖化対策の鍵は予測精度の向上

誰しも一度は聞いたことがある地球温暖化問題。

森林や農耕地の砂漠化や台風・ハリケーンの強大化など、その影響は地球の気候に着実に現れている。

実際に、IPCCは2011~2020 年の世界平均気温は、1850~1900 年と比較して1.09 度前後上昇していると報告。そして現在も温暖化は日々進行している。

この問題を対策する上で重要になるのは、気候変動を予測するための適切なデータを取得することだ。

適切なデータが取得できれば、台風の強度の予測に応じて堤防の高さを調整するなど、自然災害に対して対策を講じることができる。

しかし現在、同じ二酸化炭素の排出量を想定した場合でも、21 世紀末までの気温上昇の予測は 2.8~4.6度と、ばらつきが大きい。

気温上昇はたった0.5℃違うだけでも地球に与える影響の差は大きく、例えば、水面の高さは1.5℃の温度上昇であればまだ数10㎝くらいの上昇で済むが、2.0℃では色んな氷河が崩壊して10m程上昇する可能性がある。

将来の気候変動を正確に予測して対策をするためには、気温上昇の予測精度を高めることが必要なのだ。

雲やエアロゾルが気候変動の鍵!?

気温上昇予測のばらつきの大きな要因の1つとして、雲やエアロゾルが温暖化に与える影響についての情報の不足が挙げられる。

雲は地球から放射された熱を閉じ込めることで地表面を温める効果がある一方で、宇宙からの太陽光を反射して、地球を冷やす効果もある。

この温室・冷却効果の程度は、雲の厚さや高さ、構成する雲粒の大きさ、形、水分量に依存。

また、エアロゾルも同様に太陽光を反射・吸収する作用がある上、エアロゾルの有無で雲の性質も大きく変化する。

『EarthCARE』 は、地上設備や気象衛星では観測できなかった雲全体の内部構造やエアロゾルを地球規模で観測することで、地球全体の気候変動の把握、地球温暖化の解決へと導くのだ。

衛星のシステム概要

衛星の基本情報は下図の通りである。

軌道は太陽同期準回帰軌道で、赤道に対してほぼ垂直に交わる形で地球を周回。

地球全体を観測することが可能であり、25日ごとに地球におけるほぼ同じ地点の上空を同じ時刻に通過する。

EarthCAREの基本情報 ©Space Connect

4つの装置で地球を同時に観測

同衛星は、「レーダ」「ライダ」「イメージャ」「放射収支計」という観測方式の異なる4種類の装置を搭載。

これらのデータを同時に取得し、それぞれの情報を組み合わせてプロダクトとして提供する予定である。

搭載する4つの観測装置は以下の通りだ。

雲プロファイリングレーダ(CPR)

日本が開発。設計・製造を日本電気株式会社が担当している。

レーダを使って雲や弱い雨の鉛直方向の構造や、雲の上昇・下降運動を観測する。

レーダは台風のような厚い雲の内部までも捉えることができる。

大気ライダ(ATLID)

欧州宇宙機関(ESA)が開発を担当。

衛星からレーザー光線を大気に照射することにより、大気中の微粒子(黄砂やPM2.5等)や、薄い雲の鉛直構造を観測する。

多波長イメージャ(MSI)

欧州宇宙機関が開発を担当。

イメージャと呼ばれるカメラのような装置を使用し、雲や大気微粒子(黄砂等)の水平方向の構造を把握する。

広帯域放射収支計(BBR)

欧州宇宙機関が開発を担当。

放射計と呼ばれる装置を使用し、太陽光の反射や地球からの熱放射の総エネルギー量を計測する。

日本が開発のレーダに注目!

EarthCAREで注目したいのは、やはり日本が開発した雲プロファイリングレーダ(CPR)だ。

注目ポイントは以下の2つ。

世界最大級で高精度の衛星用アンテナ

CPRに用いる大型アンテナは、衛星搭載観測センサとして世界最大の直径2.5m

さらに鏡面精度(表面が理想の形状からどの程度ずれているか)も60µm以下であり、これは東京ドームの大きさに換算すると約6mmの誤差で製造していることに相当。

大型化と高精度化という相反する要求を同時に実現し、電波を効率的かつ正確に送信・受信可能できる。

世界で初めて衛星から雲の動きを測定

CPRは、衛星搭載用レーダとして、世界で初めてドップラー速度計測を行うことが可能。

この計測により、秒速約7㎞ものスピードで動く人工衛星から秒速1m程度の雲の上下の動きを測定する。

雲の中の運動は雲粒子の生成に関連しているため、CPRの観測データはEarthCAREの目的である雲の生成プロセスを理解するのに貢献するのである。

さいごに

いかがでしたか。

EarthCAREは15年以上続いてきたプロジェクトであり、東日本大震災、コロナによるロックダウン、ロシアウクライナ戦争による打ち上げロケットの変更など様々な困難を乗り越えてきた。

同衛星は世界で初めて地球全体の雲やエアロゾルを観測できるツールであり、気候・気象学者や科学者など、様々なところから期待されている。

EarthCAREの今後の活躍に注目である。

打ち上げ情報

EarthCAREは、アメリカのSpaceX社のロケット「ファルコン9」にて、2024年5月29日午前7時20分にカリフォルニア州のヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられる予定である。

当日は、JAXAが公式YouTubeチャンネルにて打ち上げライブ中継を放映。

今回は特別ゲストとしてロケットアイドルVtuberである宇推くりあ氏が出演する。

宇推氏はロケット解説者としてファルコン9ロケットの打ち上げについて解説するとのこと。

興味のある方はぜひご覧いただきたい。

参考

EarthCARE/CPR 特設サイト

地球の温度上昇予測に大きなばらつきがあるのはなぜか?―答えは、雲―

EarthCARE 概要説明書

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