東証グロースへ上場、宇宙ベンチャー企業アストロスケールHDの戦略とは
©株式会社アストロスケールホールディングスの画像を使用

2024年6月5日、宇宙空間における軌道上サービスを展開する株式会社アストロスケールホールディングスが東京証券取引所グロース市場へ新規上場したことを発表した。

本記事では、アストロスケールHDの事業内容並びに今後の展望について紹介する。

宇宙産業の拡大とデブリ問題

宇宙利活用技術は、いまや私たちの生活に必要不可欠なものとなっている。

ナビゲーションシステムや天気予報、衛星放送、災害監視のほか、一次産業でも衛星データを活用。また、物流、金融市場、インターネット、安全保障等の社会基盤インフラサービスにも宇宙技術を利用している。

このように宇宙利活用市場は急拡大しており、とりわけ近年では、数十機から数千機という多数の小型衛星を一体的に運用する『衛星コンステレーション』技術の向上により、宇宙空間における人工衛星や宇宙機等の数が2030年までに大幅に増加すると予見されているのだ。

しかし、ここで問題となっているのがスペースデブリ問題である。

スペースデブリには役目を終えた人工衛星、人工衛星の打上げに使われたロケットの一部、それらの爆発や衝突で生じた破片などがあり、秒速約7〜8kmという非常に速い速度で地球を周回。

その数は年々増加し続けており、大きさが10cm以上のデブリは36,500個を超え、大きさが数cm級のものも含めると100万個近く、数㎜級まで含めると1億個以上存在している。

これらが衛星や宇宙機等に衝突すれば、大きさ数㎜のスペースデブリであっても壊滅的な被害を与える可能性がある他、新たなデブリの原因にもなってしまうのだ。

地球とスペースデブリ ©株式会社アストロスケールホールディングス

アストロスケールの事業概要

上記のような問題に対して、デブリを除去するなどの宇宙空間におけるサービスにより、人工衛星やロケット事業者の事業価値の向上及び、宇宙空間の持続的な利用への貢献を目指すのがアストロスケールだ。

デブリの除去技術確立から始まった同社だが、現在は宇宙空間の物体に対して、軌道変更・維持、燃料補給、観測・点検、再利用・交換、製造・修理といった軌道上トータルサービスを展開する会社に進化している。

事業の詳細

同社は、主要なサービスとして、RPO(Rendezvous and Proximity Operations:ランデブ・近傍運用)技術を土台に下記の4つのサービスを展開。

  1. End of Life (EOL) : 衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去
  2. Active Debris Removal (ADR) : 既に宇宙空間にあるデブリの除去
  3. Life Extension (LEX) : 修理や燃料補給等による衛星の寿命延長
  4. In-situ Space Situational Awareness (ISSA) : 故障機や物体の観測・点検

① 運用終了した衛星の除去(EOL)

EOLは、運用を終了した衛星のデブリ化を防止するための衛星除去サービス。

具体的には、捕獲機(サービサー)を打ち上げて、予め捕獲用のプレートを付けた顧客の故障機や寿命を迎えた衛星を捕獲し、地球大気圏に突入させることで燃焼し、除去するサービスである。

主な顧客は、衛星コンステレーションの運用事業者を想定。

衛星コンステレーションの事業者は、EOLによって運用を終了した衛星を軌道離脱させることで、以下のリスクを低減することができる。

  1. 故障機と自社の衛星との衝突によるサービス停止、衝突回避のための燃料消費による衛星の短命化などのリスクや、これらのリスクによってもたらされる収益減少。
  2. 運用事業者が故障機を放置した場合における、米国の監督当局による今後の打上げ制限。

② 既存デブリの除去(ADR)

ADRは、捕獲機を打ち上げて既存のデブリを捕獲し、地球大気圏突入によりデブリ除去を行うサービス。

既存のデブリについては予め捕獲用のプレートが搭載されていないことが一般的であり、その場合にはEOLとは異なり捕獲に捕獲用アームを使用することが必要となる。

主要顧客としては、政府や宇宙機関を想定。

これは、過去に排出されたデブリの大半が政府によるミッションに由来するものであることに加え、過去に民間事業者により排出されたデブリについては、その排出の責任を当該民間事業者に問うことは困難であるためである。

デブリは破砕すると捕捉も捕獲もできない小さなデブリが発生し、宇宙環境に大きな影響を与えるため、宇宙環境を保全し、宇宙空間に配置されている衛星群を持続的に利用するためには、既存デブリを早期に除去することが必要なのだ。

③ 寿命延長(LEX)

同社グループの寿命延長サービスでは、燃料が枯渇した衛星や、想定外の燃料消費により予定より早く寿命を迎える衛星、あるいは軌道がずれてしまった衛星を捕獲。

捕獲機となる衛星の燃料を用いる、もしくは燃料補給をすることで、衛星の運用期間の延長や別の軌道への遷移などのサービスを提供する。

想定顧客は、低軌道や静止軌道で衛星を運用する政府や民間企業。特に、静止軌道衛星の運用者だ。

地球から見て相対的に静止する静止軌道衛星は軌道を維持するために定常的に燃料を消費し、燃料が枯渇すると運用できない。

しかし、静止衛星は大型で高機能なものがほとんどで、後継機の開発や打ち上げに数百億円の投資が必要となるため、燃料補給を行うことで、比較的に安く運用を続けることができる可能性があるのだ。

LEXは、このような衛星運用事業者のニーズに応えるサービスである。

④ 観測・点検(ISSA)

同社グループの故障機や物体の観測・点検サービス(ISSA)においては、観測用衛星を打ち上げ、故障機やデブリに安全に近距離まで接近し、様々なセンサを用いて、対象物体のデータを取得する。

想定顧客は主に政府や宇宙機関。

故障衛星やデブリは位置情報を発信しないため、安全に接近することは極めて難易度が高いが、近傍で観測・点検を行うことで故障の原因解析への活用や相手物体の把握(例えば、大型デブリを除去する前に位置や回転状況、形状、表面状態などを確認すること)を可能にする。

また、ISSAにおける相手物体の把握は、ADR(既存デブリの除去)に必要なデータを事前取得する役割も果たすのだ。

実績と競争優位性

これまでに達成したプロジェクト

スペースデブリの除去サービスは、宇宙産業の中でも比較的新しい分野の事業であり、同社はこれまで、2つの大きな宇宙実証を世界に先駆けて成功させてきた。

その実証が、以下の2つである。

ELSA-d

ELSA-d(End-of-Life Service by Astroscale – demonstration)は、衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去(EOL)サービスに係る一連のコア技術の宇宙実証を目的として開発された。

サービサー衛星(捕獲機)とクライアント衛星(模擬デブリ)から成り立っており、デブリ除去に必要な一連の技術を搭載した世界初のデブリ除去実証である。

ここで培われた技術は、ADR、LEX、ISSA等他の軌道上サービスに必要な技術開発の基盤になっている。

ELSA-dでは、2021年3月に高度550kmの軌道へサービサー衛星とクライアント衛星を互いに固定した状態で打ち上げを実施し、同年8月25日にサービサーとクライアントを分離後、「試験捕獲」の実証に成功。

次に、「自律捕獲」の実証運用を2022年1月25日に開始し、サービサーからクライアントを分離後にサービサーに搭載されたセンサを駆使して自律的なアルゴリズムによって7時間以上にわたりクライアントから30mの相対位置を維持することに成功した。

その後、サービサーに搭載された8つのスラスタのうち4つが故障していることが判明したため、自律的なアルゴリズムによる捕獲の実証は実施されなかったものの、そのために必要な技術の宇宙実証には成功している。

1月25日の実証中にサービサー(捕獲機)から撮影した、クライアント(模擬デブリ)の様子 ©株式会社アストロスケールホールディングス

ADRAS-J

ADRAS-Jは、世界で初めて、実際にデブリに至近距離まで接近し点検・観測を行ったISSAサービスである。

JAXAのデブリ除去プログラム「CRD2」のフェーズIにおいて、同社の日本子会社である株式会社アストロスケールが2020年1月に契約総額約18億円で採択されて実施された。(その後、変更契約により約19億円に変更)。

ADRAS-Jは2024年2月18日に打ち上げられ、22日にデブリである過去のH2Aロケットの一部に接近開始。

後方数百kmまで接近し、同年4月9日には搭載した可視光カメラによりデブリを捕捉した。

次に、補足したデブリの情報を基に距離を詰め、デブリの後方数kmの距離まで接近し、赤外カメラにてデブリを捕捉。

そして、取得するデブリの形や姿勢などの情報を用いることで、4月17日にデブリの後方数百mへの接近に成功。実際のデブリの写真も撮影した。

今後はさらに接近し、デブリの状態や動きを把握するための近接作業を行う予定となっている。

ADRAS-Jのイメージ画像 ©アストロスケールホールディングス

今後も様々なプロジェクトを予定

同社グループは現在ADRAS-Jプロジェクトを進めているが、その他にも、6つの契約・選定済み/一部契約済みのプロジェクトと、交渉・協議中の7つの潜在的プロジェクト・ミッションがある。

以下では、その一部を紹介する。

ELSA-M

ELSA-Mは、ELSA-dの機能拡張版である。

ESAの通信システム先端研究である「Sunrise(サンライズ)」プログラムにおいて、衛星コンステレーションの運用事業者であるEutelsat OneWeb社に提供された資金に基づいて、イギリス子会社のAstroscale Ltdが受託し、2019年より同プロジェクトに参画した。

ELSA-Mは故障や運用終了により役目を終えたコンステレーション衛星を複数機除去可能なEOLサービサーであり、2026年に打ち上げを予定。

2020年12月以降打ち上げられたEutelsat Oneweb社の全ての衛星にELSA-Mが衛星を捕獲する際に必要なドッキングプレートが搭載されている。

また、他の衛星コンステレーション運用事業者も、ELSA-Mによる磁石捕獲が可能なドッキングプレートの事前の搭載を決定または検討しており、2024年3月末日現在、ドッキングプレートを搭載した衛星は軌道上に568機存在。

さらに、当社グループが受注済みのプロジェクトと交渉中のプロジェクトに関するドッキングプレートの想定打上げ数を合算した、2029年4月期末時点での累計打上げ数は3,500台を超える水準に至る可能性もあるという。

宇宙機を捕獲するためのドッキングプレート ©株式会社アストロスケールホールディングス

ADRAS-J2・COSMIC

現在実証中のJAXAのプロジェクトであるCRD2のフェーズⅡについても、同社グループが選定された。

フェーズⅠに続き、CRD2のフェーズⅡではデブリであるロケットの一部に接近後、捕獲して軌道を離脱させるADRサービスの実証実験を計画している。

これに関連して、同社グループはイギリスの宇宙庁(United Kingdom Space Agency:UKSA)のデブリ除去(ADR)プログラムCOSMICに関しても、概念設計や基礎設計を受注し、2024年4月に完了。

今後もCOSMICのプログラムを受注し、イギリス由来のデブリ除去を行うことを目指している。

LEXI-P

LEXI-Pは、寿命延長サービスに興味を示している衛星運用者向けのサービサーを開発するプロジェクトだ。

イスラエルに連結子会社であるAstroscale Israel Ltd.は2020年6月に、同国で寿命延長サービスを開発するEffective Space Solutions社の知的財産権を取得しており、同社のR&D拠点の従業員を承継。

この事業譲受により、同社グループは軌道上サービスに取り組むことが可能となった。

アメリカの子会社であるAstroscale U.S. Inc.は、特定の静止衛星運用者との間で寿命延長サービスの提供に関する契約交渉を行っており、2023年12月に、法的拘束力を有しないタームシートに合意・署名を実施。

また、寿命延長サービスに興味を示している他の静止衛星運用事業者とも協議を継続しており、2社との間で商業サービスに関する基本合意書(MOU)を締結している。

競争優位性

上記のようにアストロスケールは宇宙空間における軌道上サービスの開発に取り組んでいるが、同様の事業に取り組む企業は世界中に存在する。

その中で、同社の主な強みは2つ。

技術の確立

同社グループは世界初のデブリ除去実証衛星ELSA-dによる宇宙実証及び、デブリ観測衛星ADRAS-Jの打上げに成功しており、2024年3月時点において、同社グループ以外に、位置情報を発信しない物体に対する近傍運用技術の宇宙実証に成功した競合事業者は認識されていない。

さらに、同社グループは、宇宙空間におけるサービスのコア技術である近傍運用技術を自社開発しており、知的財産権を保有している。

グローバルでの密な連携

同社グループは日本、英国、米国、フランスといった宇宙産業における世界の主要地域に拠点を有しており、各地域で研究開発チームを組成し、契約を受注。

豊富な経験に加え、政府・宇宙機関や各地域の宇宙産業界等との広い人脈を兼ね備えた経営陣を擁し、各地域に根ざした企業として活動している。

加えて、各国・各地域の宇宙政策や法規制づくり等の政策形成への積極的な提言や関与を通じて、軌道上サービスの利用拡大を通じたミッションの実現に取り組んでいる。

さいごに

いかがでしたか。

ispace社、QPS社と続き、第一世代と呼ばれる宇宙ベンチャー企業の上場が近年目立ってきている。

アストロスケールは、今後、世界を牽引する宇宙ベンチャー企業の1つとして、日本を代表する企業になる可能性は高い。

より詳細な情報については、有価証券報告書をご覧いただきたい。

同社の今後の活躍に注目である。

参考

株式会社アストロスケールホールディングス 新規上場申請のための有価証券報告書

アストロスケール HP

東京証券取引所グロース市場への上場に関するお知らせ

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