2024年打ち上げのSAR衛星:だいち4号、QPS-SAR、StriXを徹底比較!

2024年3月、レーダーを利用して地球を観測するSAR衛星に関するニュースが相次いでいる。

11日に三菱電機株式会社が国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「だいち4号」(ALOS-4)の実機を初公開。

12日には株式会社QPS研究所が同社の小型SAR衛星QPS-SAR7号機「ツクヨミ-Ⅱ」の打ち上げに関してSpaceXと契約を締結したことを発表。

そして、13日に株式会社Synspectiveの小型SAR衛星「StriX-3」の打ち上げが成功した。

本記事ではこの3つのSAR衛星を比較しながらそれぞれの特徴について解説します。

SAR衛星について

SAR衛星(合成開口レーダ衛星)は地球を観測する地球観測衛星の1種である。

電磁波の一種であるマイクロ波(波長1m以下)を地表に当てて、その反射を受信する。

太陽光を光源として撮影する光学衛星とは異なり、雲に覆われている場所や夜間における観測も可能

地表の形状や性質に関する画像情報を取得することができる衛星なのだ。

今回紹介するSAR衛星

今回紹介するSAR衛星は以下の3つ。

  • だいち4号(ALOS-4)/JAXA
  • QPS-SAR7号機「ツクヨミ-Ⅱ」/QPS研究所
  • StriX-3/Synspective

まず、だいち4号は、2014年5月に打ち上げた陸域観測技術衛星「だいち2号」の後継機。三菱電機株式会社が主要製造者として設計・製造を担当しており、JAXAと協力して開発を進めている。

次に、QPS-SAR7号機はQPS研究所の7機目の小型SAR衛星。

現在、宇宙空間で機能している同社の小型SAR衛星は2号機、5号機、6号機の3つ。7号機の打ち上げが成功すればこの4機を連携させた運用体制となる。

さいごに、StriX-3はSynspectiveの小型SAR衛星。

これまで同社は2つの実証機「StriX-α/StriX-β」と1つの商用実証機「StriX-1」の3機を宇宙に打ち上げており、今回のStriX-3が4機目の打ち上げであった。

同社は2024年度に複数の衛星を打ち上げて連携させて運用する計画で、StriX-3はその1つ目の運用機である。(「StriX-2」については近い将来に打ち上げ予定)

基本仕様

©Space Connect

それぞれの衛星の基本仕様は上図の通り。

SAR衛星の小型化

QPS-SARとStriXは小型のSAR衛星である。

従来、SAR衛星での観測で利用する電磁波は光に比べて波長が長く、十分な解像度を得ようとすると巨大なアンテナ、多量の電力を必要とするため小型化は不可能と言われていた。

しかし、QPS研究所とSynspectiveは小型化を実現。

QPS研究所は収納性が高く、超軽量の大型アンテナ(特許取得)を開発したことで小型化に成功した。

このアンテナは直径3.6mもあるが、直径80㎝、高さは15㎝ほどに小さく畳むことが可能。

宇宙空間ではばねの力により少しのたるみもない綺麗なおわん型のアンテナに展開し、強い電波を出すことができる

QPS-SAR7号機 ©株式会社QPS研究所

Synspectiveの小型SAR衛星では、アンテナを約80㎝四方に折りたたむことで小型化。

宇宙空間ではパネルが展開され、大型衛星と同等の5mの大きなアンテナとなる。

StriXはこの5mのアンテナによって観測面積を拡大

観測面積を広げるとそれに対応する発電・蓄電能力を確保する必要があるが、StriXは約2倍の太陽電池とそれに見合う大容量バッテリを搭載することで電力を確保している。

Synspectiveの小型SAR衛星 ©株式会社Synspective

軌道の選択

軌道については、だいち4号はM日置き(高度などにより変動)に同じ上空を同じ時刻に通過する太陽同期準回帰軌道を選択。

1機での運用でも地球全体を観測することができる軌道となっている。

QPS研究所は太陽同期準回帰軌道と、衛星の軌道が赤道面に対して斜めになっている傾斜軌道を選択。

1つの軌道に9機の衛星を投入して4つの軌道で地球を取り囲み、地球全体をカバーすると同時に観測頻度を高めることが可能だ。

Synspectiveは1日置きに同じ上空を通過する傾斜回帰軌道と毎日同じ時間に同じ上空を通過する太陽同期回帰軌道を選択。複数の軌道を組み合わせて全球をカバーする。

この軌道配置は連日同じ時刻に同じ場所での観測データを得ることができたり、何月何日の何時何分というようにピンポイントでのデータを取得したりすることができるのが特徴だ。

観測技術・能力

©Space Connect

※分解能:どれだけ細かな物体を見分けられるかを示す能力

SAR衛星が使用する電磁波の種類と撮影方法

SAR衛星は、使用する電磁波の波長の長さに種類がある。

LバンドはSARで用いられる電磁波の中でも長い波長帯(約24㎝)であり、植物を通過して地面まで電磁波が届くため、より地面の情報が得やすい。

一方、Cバンド(約6㎝)やXバンド(約3㎝)Xバンドは波長が短いため、より解像度の高い画像を得ることができるが、木の葉や枝などにより電磁波が散乱する可能性がある。

次に、SAR衛星は観測する場所を絞ることで取得する画像の解像度を高めることが可能。

表のストリップマップモードはアンテナの向きを固定し、衛星の進行に沿って帯状に観測するが、スポットライトモードでは進行と逆方向にアンテナをゆっくり動かすことで観測するエリアを狭める。

同じエリアからより多くの情報を取得することで、画像の解像度を高めることができるのだ。

それぞれの衛星の観測技術の特徴

だいち4号は、だいち2号と同じⅬバンドのSARを搭載する。

また、新たに採用する「デジタル・ビーム・フォーミング技術」により、特定の方向に特定の電磁波を送信し、計測した反射信号を高速にデジタル処理することで同時にいろいろな方向を観測。

だいち2号の分解能はそのままに、観測幅を高分解モードで約4倍に拡大した。

(通常、同じ時間内で観測を行う場合、観測面積を大きくすると分解能は低くなる)

一方、2つの小型衛星QPS-SAR7号機とStriX-3はXバンドの電磁波を使用。

観測幅はだいち4号よりも小さいが、分解能が高く、計測モードによっては1m未満のものも見分けることができる。

特に、QPS-SARの分解能46㎝のデータは日本の民間衛星で最高の値であるのだ。

それぞれのSAR衛星は何に役立つのか

だいち4号

だいち4号は、発災後の状況把握のみならず、火山活動、地盤沈下、地滑り等の異変の早期発見、土木・インフラ管理、作物の生育状況把握など農業での活用、森林伐採の監視、海氷の監視による船舶の安全運航支援などに貢献。

数センチメートルの精度で地表の動きを捉えることができ、災害時の道路や構造物の変位を早期発見可能で、点検・管理のコスト低減、効率化が期待できる。

観測幅が高分解能モードでも200㎞と広い(東京駅から新潟県海沿いの上越市までくらいの距離)ため、線状降水帯などの豪雨被害や大規模地震、複数の火災噴火など被災地が広範囲にわたる場合においても一度に観測可能。

さらに、観測頻度も従来のだいち2号は同じ場所を年に4回観測できる程度だったが、だいち4号はその約5倍(高分解能モード)で、同じ場所を約2週間に1回程度観測できるため、異変を早期に発見できるようになるのだ。

また、だいち4号には合成レーダーと同時に観測することで広範囲な海洋監視に貢献するAIS(船舶自動識別装置)「SPAISE3」の受信機も搭載。

船舶自動識別装置とは国際条約で大型船舶などに搭載が義務付けられており、船の衝突防止や運行管理を目的として、周辺の船や人工衛星、地上アンテナとお互いの位置や針路などの情報をやりとりする装置だ。

「SPAISE3」は日本電気株式会社とJAXAが協力して開発を進めており、こちらもデジタル・ビーム・フォーミングの手法を採用。

特定の方向に特定の電磁波を発信して識別することができるため、だいち2号に搭載されていた「SPAISE2」よりも、船舶密集エリアの1つ1つの信号を識別することが可能となっている。

QPS-SAR

QPS研究所は、高分解能・高画質で観測できるSAR画像を提供。

2027年度までには24機体制、最終的には36機を宇宙に配備することを目指しており、世界中のほぼどこでも特定地域を平均10分間隔で観測できる「準リアルタイムデータ提供サービス」を目指す。

地上ではなく宇宙空間上で画像化する装置や衛星間通信などの最新技術を導入することで、地球を撮影してからデータが地球に届くまで通常半日から一日かかるところを観測後に高速配信することを可能にする。

これにより、土地や建物などの「静止体」だけでなく、車や船舶、人や家畜などの「移動体」をデータとして蓄積。

有事の際の状況確認はもちろん、交通状況から特定の国や地域の経済を予測したり、作物の生育具合からその作物や関連製品の将来の市場価値を予測したりすることもできるようになるのだ。

StriX

Synspectiveは2024年に6機、2020年代後半に30機による運用を計画。

いつ世界のどこで災害が起きても約数十分から1時間以内でデータを取得して分析し、災害対応の意思決定に資する情報提供が可能になる。

また、日々、同一地点を同一条件で観測でき、そのデータを複数時期で比較できるため、時間の経過による変化ではない、災害による変化等を観測することができる。

災害対策としては、広域の地盤変動を㎜単位で検出することで、街や道路、トンネル、橋などの社会インフラを地滑りや地盤沈下といったリスクの評価、洪水被害状況の迅速な評価、土砂災害や家屋倒壊、火山噴火に伴う火山灰堆積など、自然災害時の被害・変化状況の把握等をおこなうサービスを提供。

それだけでなく、風速と波の高さを観測することで洋上風力発電の設計や運営の最適化、バイオマス量の測定や伐採検知、CO2吸収量産出など森林・植生の維持・管理向けサービスも提供している。

まとめ

ここで、今回紹介した3つの衛星について特徴をまとめると、以下のようになる。

だいち4号

  • 観測幅が高分解モードでも200㎞と非常に大きいため、一度に広いエリアを観測。
  • 1機の運用で、同じ上空を2週間に1回観測。
  • Lバンド帯の電磁波の使用により、地面の情報をより取得しやすい。

QPS-SAR7号機

  • 超軽量の大きなおわん型のアンテナにより小型にもかかわらず強い電波を出力可能。
  • 観測面積は小さいが、日本の民間で最高の分解能46㎝を達成。
  • 宇宙空間に36機打ち上げて連携させることで、あらゆる地域を10分間隔で観測できる準リアルタイムデータ提供サービスを目指し、そこで移動体のデータを蓄積する。

StriX

  • 小型衛星であるが、アンテナを工夫して大型と同等の観測幅を実現。
  • 連日同じ時刻、同じ場所での観測データや、何月何日の何時何分というようにピンポイントでのデータを取得可能。
  • 同じ場所のデータを、時刻を揃えて複数枚で比較できるため、災害によって起きた変化を特定することができる。

さいごに

いかがでしたか。

SAR衛星には様々な種類があり、それぞれ異なる特徴がある。

多様な衛星が打ちあがることで、地上で展開されるサービスの幅も広がっていくのだろう。

だいち4号は2024年中にH3ロケットによる打ち上げを目指されており、QPS-SAR7号機は2024年4月以降の打ち上げを予定している。

また、StriX-3は打ち上げ後の軌道投入に成功した後に試験のための通信が正常に機能し、アンテナ展開も確認された。

これらの衛星の今後の活躍が楽しみである。

参考

創業後3年弱で初号機を打ち上げ!Synspectiveの衛星「StriX」の秘密とは

QPS研究所小型SAR衛星7号機の打上げに関して米国SpaceX(スペースエックス)社と契約を締結

三菱電機鎌倉製作所で先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)機体公開が実施されました

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