宇宙ベンチャー企業がAI技術で「地球外生命体」を探査!?その方法とは
©Space Connect

2024年4月2日、人工衛星データを活用したサービスを提供する株式会社スペースシフトが、これまで衛星データ解析分野で培ってきたAIの開発技術を活かして「地球外知的生命探査」に挑戦することを発表した。

本記事では、一見、全く別の領域のように思われる衛星データ解析によるビジネスがどのように地球外生命探査に利用されるのかご紹介します。

地球外知的生命とその探査

地球外生命探査は、宇宙で生命が存在する可能性を追求する取り組みだ。

地球外生命はその存在可能性がかつてより広く議論されており、宇宙の広大さや多様性、生命が存在するための条件がある天体の存在などから、生命が地球以外の場所にも存在する可能性は高いとされている。

これまで科学的な証拠は断片的であり具体的な証明はされていないものの、観測等に基づく方法で現象を調査し、理論を構築するための研究が進められているのだ。

地球外知的生命の探査方法

現在の主な地球外知的生命の探査方法は以下の3つ。

  • 他の星からの信号の探査(SETIプロジェクト)
  • 遠方の惑星の大気の分析(エクソプラネットの研究)
  • 太陽系内での生命の兆候を探す探査任務(火星探査機など)

1つ目の他の星からの電波信号の探査を行うSETI(Search for Extraterrestrial Intelligence)プロジェクトは、地球外の知的生命体からの信号を捉えることを目的とした取り組みである。

高度な技術と科学的手法により、地球外知的生命が発する可能性のある信号や通信を地球上で検出することを試みている。

2つ目の遠方の惑星(太陽系外惑星、エクソプラネット)の大気の分析には宇宙望遠鏡が使用される。

生物だけが生成できる化学物質を探すことが可能で、2023年にはエクソプラネットの研究により、地球から120光年離れた「K2-18b」と呼ばれる惑星の大気に地球では海洋生命が生成する硫化ジメチル(DMS)が存在する可能性が示唆された。

3つ目の太陽系内の天体の調査には探査機も使用される。

これまで、観測やサンプル採取を行うため土星の衛星「タイタン」や火星などの天体に探査機が送り込まれているほか、今後、木星の氷の衛星「エウロパ」にも探査機がたどり着く予定である。

地球外生命の通信の監視に注目

上記の探査方法のうち、スペースシフトが実施するのは「他の星からの信号の探査(SETI)」である。

一般的にSETIで使用されるのは地球上及び宇宙に設置された、宇宙空間からのさまざまな電磁波を捉える望遠鏡や受信機だ。

電磁波とは電気と磁気の力によって空間を伝わるエネルギーの波であり、波の周波数によって特徴が異なる。スマートフォンの電波、光、放射線、赤外線もすべて電磁波の一種。

宇宙空間にも天体等から発せられた様々な電磁波が飛び交っており、電磁波を解析することで発信源の特徴等を予測することができる。

SETIでは、望遠鏡や受信機が捉えた様々な周波数の電磁波の中から、地球外知的生命が使用している可能性のあるものを検知し、調査を実施。

SETIのこれまでの取り組みとしては、世界中のパーソナルコンピューターをインターネット上でリンクさせて仮想スーパーコンピューターをつくり、膨大な電磁波データを分析するSETI@homeや、プロジェクト開始の2005年当時に一般に公開されているものでは世界最大の兵庫県立西はりま天文台にある望遠鏡「なゆた」を用いた研究などが有名である。

スペースシフトの地球外生命を探す方法とは?

スペースシフトの技術

スペースシフトは2009年12月に設立した宇宙ベンチャー企業だ。

世界中の様々な地球観測衛星から得られたデータをAIを用いて解析することで、人間を超える認識能力で多くの情報を引き出すためのソフトウェアを開発。

インフラ管理、防災・減災、農業モニタリング、環境保全など、様々な分野に衛星データを活用することで、持続可能な社会の実現を目指している。

同社はこれまで、人工衛星データを解析するための様々なAIを開発してきた。

例えば、衛星画像を用いた船舶や建造物を「物体検知」するAI技術。

観測対象物ごとに衛星画像を学習させた独自のAIアルゴリズムによって、衛星画像から目的の対象物やその種類を効率的に検出・判別することができる。

そして今回、地球外知的生命を探査するのに使用する主な技術が「変化検知」のAI技術である。

衛星データを「電波」から解析する技術を応用

スペースシフトの「変化検知」は、都市における建物や農作物の生産状況、災害時の被害範囲など特定の物体や地域の“変化”を抽出することができるAI技術。

SAR衛星と呼ばれる、発射した電波が地上で反射して返ってきたものを測定することにより地球観測を行う衛星のデータを分析することで地上の変化を抽出する。

このとき、すでに画像化されたものを解析するのではなく、元データとなる電波の波形そのものから変化検知を実施。ゆえに、その電波の解析技術をSETI (地球外生命が使用する電波の探査)の分野に応用できるのだ。

同社のSETI では、世界各国で運用されている電波望遠鏡の公開データを利用。

AI に天体由来の信号や観測ノイズ、地球からの人為的な信号など様々な要素を学習させ、既知の信号との変化を抽出することで、これまで発見することのできなかった、地球外知的生命からの信号を見つけ出せないかと考えている。

このようなAIを使った取り組みは 2018 年ごろから行われているが、スペースシフトはAI の専門家を多数擁する強みを活かし、より高度なAIによる検知を目指すという。

©株式会社スペースシフト

この活動は熊本大学の高橋慶太郎博士の協力を得て実施するとのこと。

現在同氏の研究室では「宇宙から地球を見たときに、どのような人為的な信号が観測されるのか」などの検証が実際の電波望遠鏡を用いて行われている。

スペースシフトはこれらの観測・検証結果を学習させたAIを開発することで、これまでは見逃されてきた信号パターンを検知可能とし、より高精度なSETIの実施や、SAR衛星データを用いた従来の画像化処理を経ない物体検知技術のアイデアの応用などを計画しているという。

さいごに

いかがでしたか。

株式会社スペースシフト 代表取締役CEOの金本成生氏は以下のようにコメントしている。

幼少の頃から、宇宙に興味を持ち、なぜ宇宙が存在するのか、宇宙の仕組みはどうなっているのかを今も解き明かしたいと思っています。そのような興味から、宇宙ビジネスを志し、衛星データの解析ビジネスを行っています。この度、SETIの専門家である熊本大学高橋博士のご協力も得ることができ、地球外知的生命の存在の確認、また、まだ人類が到達できていない優れたテクノロジーに関する情報にふれることができるのではないかと今からワクワクしています。弊社にはAIを活用して、SAR衛星データなど、見えないものを解析する技術を開発してきた実績があります。その技術を活かして「人類は本当に宇宙で孤独なのか」という全人類的な課題にチャレンジします。

株式会社スペースシフト 代表取締役CEO 金本成生氏

一見、全く別の領域のように思われる衛星データ解析によるビジネスが、地球外生命探査に利用されるのは非常に興味深い。

今後の同社の活躍に注目である。

参考

株式会社スペースシフトは衛星データ解析AIの開発技術を生かして地球外知的生命探査に挑戦します!

地球外生命体、「あと数年」で見つかると言われている理由は?

「SETI@Home」の挑戦は終われど、宇宙人の探索はこれからも続く

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