
2026年6月12日、宇宙デブリ除去などの軌道上サービスを手掛ける株式会社アストロスケールホールディングス(以下、アストロスケール)は、2026年4月期通期決算を発表した。
本記事では、最新決算のポイントと事業の進捗について整理する。
目次
アストロスケールの概要
アストロスケールホールディングスは、宇宙空間に存在するスペースデブリ(宇宙ごみ)の除去や、人工衛星の軌道上サービスを開発する宇宙企業である。
低軌道では衛星コンステレーションの増加により宇宙ごみ問題が深刻化しており、将来的には宇宙交通管理やデブリ除去などの宇宙インフラサービスの需要拡大が予想されている。
アストロスケールはこうした課題に対応するため、以下の4つを主な事業としている。
- デブリ除去ミッション
- 衛星の軌道離脱サービス
- 衛星点検
- 燃料補給や修理
同社は日本、英国、米国、フランス、イスラエルなどに拠点を持ち、政府機関や宇宙機関と連携しながら宇宙サービス市場の開拓を進めている。

アストロスケールの決算内容|2026年4月期
アストロスケールが発表した2026年4月期通期決算は下図の通りである。

2026年4月期の通期決算内容
2026年4月期通期のプロジェクト収益は115.0億円となり、前期の60.8億円から89.0%増加した。売上収益は59.4億円で、前期の24.5億円から141.8%増加している。政府補助金収入も55.6億円となり、前期比53.3%増加した。
損益面では、売上総利益が0.19億円となり、通期で黒字化を達成した。一方、営業損益は99.7億円の赤字、税引前損益は66.9億円の赤字、当期損益は66.9億円の赤字となった。営業赤字は続いているものの、前期の営業損失187.5億円、当期損失215.5億円からは大幅に改善している。
今回の決算では、プロジェクトの進捗により売上収益が大きく増加した一方、政府補助金収入は一部の収益認識の遅れにより、会社予想をわずかに下回った。ただし、同社は通期のプロジェクト収益について、想定通り高い成長率を達成したと説明。事業に対する本質的な影響は軽微との認識を示している。
総じて今回の決算は、赤字は継続しているものの、プロジェクト収益の拡大、売上総利益の黒字化、営業損失の縮小が確認された内容といえる。
財務状況と受注残高
財務面では、2026年4月期末時点の現金及び現金同等物は約100.2億円となり、前期末の213.0億円から減少した。既存案件の開発進展、LEXI-Pへの先行投資、借入金返済などが影響している。
一方で、同社は2026年5月にCBおよび普通株式を組み合わせた資金調達を公表しており、発行諸費用を除いて約300億円の現金増加を見込んでいる。

資金調達の総額は306億円で、その内訳は、海外一般募集によるCBが100億円、第三者割当によるCBが163億円、普通株式の第三者割当が43億円である。ヒューリックとスカパーJSATが戦略投資家として参加しており、同社は継続受注案件の獲得を見据えた生産設備拡大などに資金を充当する方針を示している。
この点から、同社は研究開発段階から、継続受注を見据えた供給体制の整備へ移行しようとしていると考えられる。
アストロスケールの事業進捗
アストロスケールは、継続受注案件の獲得に向けて、防衛分野と民間分野の両面で事業開発を進めている。
同社は、これまで調査案件の獲得や実運用ミッションの開発、軌道上での技術実証を進めてきた。今後は、防衛分野や民間分野で継続受注案件を獲得し、少数の共通プラットフォームを活用することで、技術の再利用と収益性の向上を目指す方針である。
こうした方針のもと、足元では2027年4月期以降の打上げに向けて、複数の既存プロジェクトの開発や地上試験が進んでいる。今回の決算説明では、「APS-R」「ISSA-J1」「ELSA-M」「LEXI-P」の4つのプロジェクトについて進捗が示された。
APS-R|米宇宙軍向けの燃料補給実証ミッション
APS-Rは、アストロスケール米国が進める、米宇宙軍の衛星を対象とした燃料補給実証ミッションである。静止軌道にある米国国防総省の衛星に対し、2回の燃料補給を行う計画である。
同ミッションで使用されるAstroscale U.S. Refuelerは、ヒドラジン燃料の補給を行うサービサー衛星である。機体は約300kgで、再充填可能なヒドラジンタンクを搭載し、クライアント衛星への燃料補給を行う。軌道上で衛星に燃料を補給できれば、衛星の運用期間延長だけでなく、必要に応じて衛星を機動的に動かす運用にもつながる。
現在は、米宇宙軍の衛星への燃料補給実証ミッションに向けて順調に進捗しており、2027年4月期の打上げを見込むとされた。
ISSA-J1|退役衛星2機を観測する軌道上点検ミッション
ISSA-J1は、軌道上にある衛星デブリへ接近し、その状態を近距離で確認するためのミッションである。。
同ミッションでは、運用を終えた日本の衛星デブリ2機を観測対象とする。異なる軌道にある2つの衛星デブリに接近し、近距離で撮影する計画で、民間企業では世界初の試みとなる。
同ミッションは、文部科学省の中小企業イノベーション創出推進事業、いわゆるSBIRフェーズ3基金事業の一環として進められている。現在は、組立・統合・検証のプロセスが順調に進んでおり、パーツごとの地上試験も実施されている。打上げは、2027年4月期から2028年4月期にかけて見込まれている。
ELSA-M|運用が終了した衛星を軌道上で除去するミッション
ELSA-Mは、アストロスケール英国が進める、運用を終えた人工衛星を軌道上で除去するためのミッションである。ドッキングと除去に対応するインターフェースを搭載した衛星を対象に、衛星の運用終了時に除去を行うサービスとして、世界初のミッションとされている。
具体的には、運用を終えたEutelsat OneWebの通信衛星に安全に接近・ドッキングし、その後、軌道から除去する計画である。アストロスケール英国は2026年3月、ELSA-Mの打上げに関して、欧州の宇宙企業Isar Aerospaceと打上げ契約を締結している。打上げには、Isar Aerospaceのロケット「Spectrum」が使用される予定である。
現在は、熱真空試験などの地上試験が順調に進んでいる。また、段階的なリリース戦略により、RPO及び捕獲用飛行制御システムは完成間近とされている。打上げは2028年4月期が見込まれている。
LEXI-P|寿命延長サービスの初号機
LEXI-Pは、アストロスケール米国が開発を進める、静止軌道衛星向けの寿命延長サービス「LEXI(Life Extension In-Orbit)」の初号機である。
「LEXI」は、静止軌道上の衛星に対し、軌道維持、姿勢制御、軌道傾斜角の修正、静止軌道内での移動などを支援する。既存の衛星をより長く運用できれば、衛星事業者は新しい衛星への更新時期や設備投資計画を柔軟に調整しやすくなる。
現在は、ハードウェアとソフトウェアの両面で統合作業が本格化。また、サービス契約交渉については、正式な契約締結に向けた手続きが進んでいると説明されている。打上げは2028年4月期が見込まれている。
さいごに
今回の決算では、プロジェクト収益と売上収益が大きく伸び、売上総利益の黒字化も達成した。一方で、営業赤字は継続しており、同社は引き続き研究開発や既存プロジェクトへの投資を進める段階にある。
事業面では、APS-R、ISSA-J1、ELSA-M、LEXI-Pなど、2027年4月期以降の打上げに向けた複数のプロジェクトが進展している。これらは、燃料補給、軌道上点検、衛星除去、寿命延長といった軌道上サービスの実用化に向けた重要な案件である。
また、306億円の資金調達や戦略投資家との関係強化により、継続受注案件の獲得を見据えた供給体制の整備も進められている。今後は、各プロジェクトの打上げ・実証の進捗に加え、防衛分野や民間分野での継続受注につながる契約獲得が、同社の成長を判断するうえで重要なポイントとなる。
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