【宇宙業界で仕事をする人にインタビュー#02】コンサル業界からASTROGATEのCOO/CSOに就任
©ASTRO GATE株式会社の画像を使用

近年の宇宙産業の急速な拡大に伴い、ヒト・モノ・カネの流動化が業界の課題となっている。

「ヒト」に関して言えば、この業界は専門的な知識を必要とするというイメージが強いものの、実際には様々なバックグラウンドを持つ人材が求められている。

2024年12月、宇宙ベンチャー企業のASTRO GATE株式会社は、株式会社野村総合研究所(NRI)で若くして多数の宇宙関連プロジェクトを手掛けてきた原田悠貴氏を、最高執行責任者(COO)兼最高戦略責任者(CSO)として迎えることを発表した。

本記事では原田氏へのインタビューを通じて、これまでのキャリアパス、ASTRO GATEへの入社を決めた理由、そして今後の展望についてお話を伺った。

法学部から宇宙業界へ:原田さんのキャリアの始まり

宇宙への興味がキャリアの原点

大学では法学部に通っており、宇宙業界との関わりは全くと言っていいほどありませんでした。しかし、子供のころから宇宙が大好きで、就職活動を進めるうちに宇宙を仕事にしたいという思いが強くなっていきました。

宇宙業界を選んだ理由は2つあり、1つは産業の将来性です。

「宇宙」は「地球」と同じように場所の概念なので、農業、建設から保険、金融などあらゆる産業が宇宙と掛け合わせられます。そのため、宇宙は今後の産業の根幹となり、市場規模も大きく拡大していくと考えていました。

2つ目は純粋に好きという気持ちです。たとえ他の業界に行くより給与面等の条件が厳しい場合でも、宇宙を仕事にしたいと思っていました。

そこで宇宙業界を第一志望として就職活動を進めていたところ、NRIの座談会で宇宙業界に携わるコンサルタントと出会う機会がありました。文系出身でも宇宙を仕事にできることを知り、宇宙業界で働きたいという思いがさらに強くなり、NRIへの入社を目指すようになりました。

NRIで宇宙を中心に、様々な産業のプロジェクトを経験

宇宙産業を中心に、様々な産業のコンサルティング業務を行いました。NRIでは、若手から同時に複数のプロジェクトを担当します。

宇宙産業のコンサルティング市場はまだそれほど規模は大きくなく、宇宙関連のプロジェクトは限られていたこともあり、宇宙産業だけでなく、不動産、金融、ICT、サステナビリティなど、幅広い業界のプロジェクトを手がけました。

実は、NRIには宇宙専門の部署はなく、宇宙関連プロジェクトは部署横断型で、宇宙の専門知識を持つ社員や宇宙に関心のある社員が集まり、チームが構成されます。私は4つの部署を経験しましたが、「宇宙をやりたい」という強い希望があったため、どの部署でも宇宙関連プロジェクトに携わる機会をいただきました

宇宙関連プロジェクトの内容は多岐にわたり、内閣府や経産省などの宇宙政策に関わる官公庁のリサーチ業務支援から、大手企業の宇宙産業参入戦略の立案まで幅広く担当したほか、宇宙をテーマにしたイベントにも積極的に参加し、宇宙産業に携わる方々や産業への参入を目指す方々との交流も深めてきました。

多くのコンサルファームは1つずつプロジェクトを担当するシングルアサイン方式を採用していますが、NRIは複数を掛け持ちするマルチアサイン方式のため、宇宙分野の専門性を高めることができました。それと同時に様々な業界に携わることができたため、各業界と宇宙業界を比較し、より宇宙業界への理解も深められたのではないかと思っています。

イベント出展中の原田悠貴氏
イベント出展中の原田悠貴氏 ©ASTRO GATE株式会社

まず良さというより他産業との明確な違いなのですが、安全保障に密接に関わっている点が挙げられます。宇宙産業は科学技術の最先端を行く産業であり、その技術力は国家の地位を左右するほどの影響力を持っているのです。

例えば、地球観測衛星による他国の偵察や戦場地域の支援計画の立案が可能ですし、高度な衛星通信技術により、敵国によって地上の通信インフラが破壊されても、同盟国や自国部隊との連絡を取ることができます。また衛星以外でもロケットの技術はミサイルに応用可能ですし、月面への輸送技術を持つことによって月面開発競争において他国より優位に立つこともできます。

つまり、宇宙技術はその秘匿性や重要性の観点から重要な外交カードとなるのです。そのため政府も、補助金などの制度を整備し、宇宙関連技術の開発と実用化を推進し、国家として宇宙関連技術を保有しようとしています。

このように国家間交渉レベルで重要性を持つ産業は稀少で、特に宇宙産業は防衛・安全保障との結びつきが強いため、自国防衛の観点からもとして一層の強化が必要だと考えています。

安全保障分野における宇宙空間の利用 ©防衛省

それから、人材面での魅力も特筆すべき点です。非常にエネルギッシュで、積極的に物事を推進できる方々が多いと感じています。

現在の宇宙業界は黎明期にあり、ポジションによっては当たり前のように英語が使う必要があるなど、高度なスキルが求められます。

そんな環境で活躍する方々は年齢に関係なく強い熱意とパッションを持つ方が多く、目を輝かせながら仕事に取り組んでいる姿が印象的ですね。

ASTRO GATEのCOO/CSOに就任した理由

ASTRO GATEとの出会いとその魅力

きっかけは代表の大出氏からお誘いをいただいたことです。ASTRO GATEの起業前から何度かお誘いをいただきましたが、当初は自分のキャリアパスについて、別業界への特化や起業など、様々な選択肢を検討していたため、お断りしていました。

しかし、様々な業種の方々から話を伺い、日本としての宇宙産業の直近数年の立ち位置や私個人として業界や国に貢献できるかという観点から熟考し、今この時期に自分が飛び込むべきは宇宙産業だと確信するに至りました。

宇宙産業ほど自分の中に情熱を喚起する産業は他になく、さらに、この黎明期にある宇宙産業において、若手の立場で業界の核心部分に入りこめているという貴重な経験を持ちながら、他業界に移るのは惜しいと感じたのです。

もちろん、それ以上に自分のリソースを投下して産業全体をより加速させていくべきだと感じていたのもあります。私は「目標思考」と「行動力」によって、目標達成への最適な道筋を立て、心理的なハードルを取り除きながら、迅速に実行に移すことができるのが強みであると思っています。

現在、宇宙業界ではヒト・モノ・カネが不足している中、国全体が一丸となってスピーディーに宇宙ビジネスを推進していく必要があり、このような時代だからこそ、私の強みを最大限に活かせると確信しました。

そんな決心をしたちょうどそのタイミングで、再び大出氏から声をかけていただきました。ASTRO GATEが挑戦している『世界中のスペースポート(宇宙港/射場)の企画運営』という事業の面白さと、それを確実に実現すると感じさせられる推進力やビジネスモデルに惹かれ、入社を決意しました。

世界最大の宇宙カンファレンス”International Astronautical Congress”開催中のミラノにて 原田悠貴氏(右)とASTRO GATE株式会社 CEO 大出大輔氏
世界最大の宇宙カンファレンス”International Astronautical Congress”開催中のミラノにて 原田悠貴氏(右)とASTRO GATE株式会社 CEO 大出大輔氏 ©ASTRO GATE株式会社

「産業への貢献度」と「唯一性」が魅力に

※原田さんが宇宙業界の中でもASTRO GATEを選んだ理由は、「産業への貢献度」と「唯一性」。ASTRO GATEの事業紹介と併せて以下の記事で詳しくご紹介しているのでぜひご覧ください!

今後の展望

まずは、コア事業である世界中のスペースポートの運営をしっかり行っていきます。

スペースポートは宇宙産業におけるサプライチェーンの根幹となるものです。そのため、関連する事業者を巻き込みながら、スペースポートを核としたビジネスを加速させていきたいです。

また、10年後を見据えると、ロケット事業者の増加に伴い、輸送の効率化と市場競争に伴う価格の低下が進むと予測しており、新たな射場を開発し、打ち上げ場所を求める事業者を最適な射場へと橋渡ししていきたいと考えています。

現在でも「ロケットを打ち上げたいが射場がない」という声を海外事業者中心に多く頂いておりますし、今後、事業者と打ち上げ可能なロケットが増えるにつれ、射場不足はさらに深刻化すると予想されます。

世界的に見ても射場の数はまだ少ないため、新たな射場を開発して事業者を繋げることで輸送の効率化が進み、宇宙関連事業者が掲げる「宇宙を身近にする」「宇宙を生活圏にする」といったビジョンの実現に、私たちも貢献できると確信しています。

民間スペースポートオペレータとロケット企業が国内で初めて打ち上げ業務契約を結び、打ち上げ実験を行った際の写真 (左:大出大輔氏、右:AstroX株式会社 小田翔武氏)@福島県南相馬市
民間スペースポートオペレータとロケット企業が国内で初めて打ち上げ業務契約を結び、打ち上げ実験を行った際の写真 (左:大出大輔氏、右:AstroX株式会社 小田翔武氏)@福島県南相馬市 ©ASTRO GATE株式会社

ASTRO GATEとしては、単純に世界中のスペースポートを手掛けるだけでなく、スペースポートを通じて経済圏を発展させていきたいと考えています。

国によってはスペースポート事業が国を挙げての一大プロジェクトとなります。特に発展途上国では、新たな産業創出の文脈で宇宙産業を振興するきっかけとしてスペースポートを立ち上げることもあります。ASTRO GATEとしてそういった国家プロジェクトに関わり、日本はもちろんのこと、諸外国の発展に貢献することも視野に入れています。

ですので、単なる計画立案で終わるのではなく、計画から運営、その後の街づくりや産業発展まで全てのフローを支援し、関連する事業者を巻き込みながら国と地域の産業を盛り上げていきたいと考えています。

産業は一般的に、投資をして研究開発する段階から実用化・量産化へと進むにつれ、垂直統合型のビジネスから水平分業型へと移行する傾向にあります。

射場に関して言えば、現在はロケット事業者が自社で射場を整備することが多いのですが、打ち上げ頻度が増えてくると、射場の運営まで担うのは負担が大きくなります。そうなると必然的に外注化が進むでしょう。

私たちは、この産業の細分化を支援し、サプライチェーンの拡大を促進していきます。様々な事業者が参入し、それぞれの専門性を活かして協業できる環境づくりをサポートしていきたいと考えています。

ASTRO GATEでは世界中のスペースポートを手掛けて宇宙産業を盛り上げ、経済圏を発展させていくことを目指しますが、私個人としての最終的な目標は宇宙産業を通しての世界平和です。ASTRO GATEを通じて、宇宙産業を盛り上げて地球と宇宙の往来を活発化させ、人々の視野を宇宙へと広げることで多少なりともこれに貢献できると思っています。

少々大きな話になりますが、現在、地球では戦争や紛争をはじめとする様々な争いが起きています。これは、人々の視点が自分たちのコミュニティや共同体の中に限定されがちだからだと、個人的に考えています。

自分たちのコミュニティと、異なるコミュニティの意見が食い違えば、対立が生まれやすいものです。現在、そうしたコミュニティや共同体の最大単位は国家や国家間の同盟等です。

しかし、私たちの視点を宇宙や惑星にまで広げ、「私たちは同じ地球人だ」という意識を持てれば、地球上の争いは減少し、より平和な暮らしが実現できるのではないでしょうか。論理の飛躍があるのは理解していますが、なってみないと分からないものです。

そして、この最終目標を達成するためには、宇宙をもっと身近に感じてもらう必要があります。

宇宙産業の発展によって地球と宇宙の往来を活発化させ、宇宙をより生活圏に近づけることで、国境を越えた人々の交流が今以上に生まれるはずです。そこで互いの価値観を知り、親密になり、仲間意識が芽生える。そんな未来が実現できたら、とても素晴らしいことだと思います。

それから、率直に言えば「自分も宇宙に行きたい」という思いがあります。子どものころからの宇宙飛行士という夢を、民間宇宙飛行士として、いずれ実現させたいと考えています。

Multi-GNSS Asia Annual Conferenceにて
Multi-GNSS Asia Annual Conferenceにて ©ASTRO GATE株式会社

「宇宙」は「地球」と同じように場所の概念であり、あらゆる産業と掛け合わせることができます。宇宙×不動産、宇宙×金融、宇宙×防災など、すべての産業が宇宙との融合の可能性を秘めているのです。

私はこの概念を「XSpace(クロススペース)」と呼んでいます。

これは、産業やビジネスとテクノロジーの掛け合わせをDXやクロステックと呼ぶように、その宇宙版という位置づけです。

この概念は5年から10年の間に現実のものとなると私は実感しており、現在のDX部署のように、多くの企業に「宇宙部署」が設置されるようになると考えています。

さらに、宇宙はDXのようにソフト面だけでなく、ハード面も含む産業であるため、交通、輸送、物流をはじめとする様々なビジネスに直接的な影響を与えます。そのため、XSpaceの重要性は今後ますます高まっていくと確信しています。

NRIでは様々な企業のXSpaceを支援してきました。今後もそれらの経験を活かしながら、多くの企業のXSpaceを支援していけたらと思っています。

さいごに

いかがでしたか。

この記事を通じて、原田氏のこれまでのキャリアや考え、そしてASTRO GATEが描く未来像に触れることで、宇宙産業の可能性や魅力を感じていただけたのではないだろうか。

宇宙は、決して遠い世界ではなく、むしろ、私たちの日常やさまざまな産業と密接に結びつく「次なるフロンティア」として、その重要性が増している。

原田さんが語る「クロススペース」という概念のように、宇宙がより身近なものになり、産業や社会に新たな価値をもたらしていく時代が訪れるだろう。

法学部からコンサル業界に就職し、宇宙産業を中心に様々な業界を見てきた原田さん。これからは宇宙業界に特化し、夢に向かってキャリアを進める。これからのASTRO GATEと原田さんの活躍に期待したい。

この記事が、宇宙に興味を持つきっかけや、新たな挑戦を後押しする一助になれば幸いである。宇宙業界の仕事に興味のある方はぜひこちらをご覧ください

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