2025年1月15日、小型衛星コンステレーションの企画・設計から量産化、運用まで総合的なサービスを提供する株式会社アークエッジ・スペースが、2021年度より開発を進めてきた超小型衛星2機の打ち上げが成功し、運用を開始したことを発表した。
本記事では、同社が開発した衛星の特徴やミッション内容、さらにはその社会的インパクトについて詳しく解説する。
目次
アークエッジの6U衛星汎用バス
アークエッジ・スペースが開発し、今回打ち上げに成功したのは6U(10㎝四方の立方体6つ分)サイズの衛星に搭載可能な「汎用バスシステム」を使用した衛星である。
衛星のバス部とは、衛星が宇宙空間で正常に機能するための基本的な機器や構造部分。これには、電力供給、熱制御、姿勢制御、通信など、すべての衛星に共通するシステムが含まれる。
アークエッジ・スペースが開発した6U衛星汎用バスシステムは、衛星バス部とミッション部の2つの領域から構成。
ミッション部(カスタマイズ部)には3U分のスペースが確保されており、バス部とミッション部の接合部分には柔軟な設計変更を可能にするミッションインターフェース(MIF)が採用されている。
これにより、様々なミッション機器を柔軟に載せ替えることが可能となっている。
また、量産や複数衛星の自動運用も可能で、開発費用や時間を最小限に抑えながら、ニーズに応じて多様なミッションに対応することができるのだ。
衛星開発の背景・目的とミッション内容
アークエッジ・スペースの6U衛星汎用バス開発プロジェクトは、2021年度に経済産業省に採択され、2023年度以降はNEDO(立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成を受けて進められている。
この事業は、複数機の衛星を連携させて運用する超小型衛星コンステレーションの構築に向け、製造事業者が行う超小型衛星の汎用バスの開発・実証を支援するものである。
背景と目的
このプロジェクトの背景には、衛星コンステレーション運用への需要の高まりがある。
現在、技術革新や民生部品の活用により、高性能な小型衛星を低コストで生産できるようになったことで、衛星データの質・量が飛躍的に向上しつつある。
その結果、防災、インフラ維持管理、農林水産業、交通、物流、金融・保険等の様々な分野において、衛星データを活用した社会課題解決が期待されている。そして衛星データ量の拡大と新たな付加価値の提供を目指し、衛星コンステレーションの構築に向けた取り組みが世界的に進んでいるのだ。
日本においても、宇宙活動の自立性や競争力確保の観点などから超小型衛星コンステレーションの構築能力の確保は喫緊の課題となっている。
この課題解決には、多様なミッションに対応可能な超小型衛星を低コストで迅速に生産できる汎用的な衛星バスの早期実用化が鍵を握る。汎用バスは、人工衛星の基本機能を担うシステムであり、その標準化と効率化により、宇宙産業の基盤を強化することが可能であるのだ。
そこでこのプロジェクトが目指すのは、協調領域と言える衛星のバス開発への重複投資を排除し、量産体制を構築することによる衛星バスの低価格化の実現。
これにより、各社が競争領域であるミッション部の開発に注力できる環境を整え、日本全体として小型衛星産業の国際競争力を確保することを最終的な目的としているのである。
ミッション内容
アークエッジ・スペースは現在、6U衛星バスの基本設計、開発、量産試験を順調に完了し、打ち上げおよび軌道上実証のフェーズに移行。
このプロジェクトでは、10kg級の6U衛星を基盤とした標準汎用バスシステム、量産システム、複数衛星の自動運用システムを構築しており、2025年度までに7機の衛星からなる多目的コンステレーションの軌道上実証を目指している。
軌道上実証においては、以下の4種類のモデルを活用。
- 基本モデル:3U強の縦型ミッションスペースを確保しており、宇宙部品の軌道上実証等に利用可能
- リモートセンシングモデル:衛星リモートセンシング向けに姿勢制御能力を向上したモデルで、光学・多波長、近赤外線など様々な地球観測に活用可能
- 大型アンテナ搭載モデル:展開アンテナを搭載でき、VDES (海洋向け通信衛星) の軌道上実証で活用
- 光通信対応モデル:光通信向けに捕捉追尾制御等のより高度な姿勢制御ができるモデル
6U衛星汎用バスシステムの基本機能と標準搭載のIoT通信機能を備えた「基本モデル」のほか、この基本モデルをベースに、ミッション変更等を行った派生形3つが存在。それぞれ有効性と実用性の検証が行われる予定だ。
同社はこの事業で得られる知見を活かし、国内外の政府・研究機関、民間事業者に6U衛星のプラットフォームを提供することで、SDGs目標の達成をはじめとする、地球規模の課題解決や持続可能な宇宙産業の創出に貢献することを目指している。
本格的運用開始へ
アークエッジ・スペースの6U衛星バスシステムは、軌道上実証のフェーズで順調に成果を挙げている。
第1機目となるAE1b(YODAKA)は、2024年12月にISS(国際宇宙ステーション)から放出され、初期通信を確立した。続いて、2025年1月15日には2機目、3機目となるAE1c、AE1dがスペースXのファルコン9ロケットによって打ち上げられ、それぞれ初期通信を確立した。
これにより、多様な軌道投入方法が実用可能であることが確認されるとともに、7機からなる多目的衛星コンステレーションの軌道上実証のうち、3機が運用を開始した。
以下に各衛星の特徴を紹介する。
AE1b(YODAKA)
AE1b(YODAKA)は、宇宙をテーマに地域活性化を目指す「花巻スペースプロジェクト UP花巻」の一環として打ち上げられた。
このプロジェクトは、合同会社SPACE VALUEとSpace BD株式会社が企画し、岩手県立花巻北高等学校の生徒たちがミッション機器の開発に携わった。人工衛星の名前は、花巻市出身の作家・宮沢賢治の作品「よだかの星」に由来している。
ミッションには宇宙教育の要素も盛り込まれており、生徒たちはアークエッジ・スペース本社での衛星事業の説明を受けたほか、YODAKAに搭載される送受信機の組み立て作業にも参加した。
また、地上からYODAKAに短歌の上の句(5・7・5)と下の句(7・7)を別々に送信し、それを組み合わせてオリジナルの短歌を作成するユニークな取り組みも予定されている。
AE1c
AE1cは、6U衛星汎用バスの「基本モデル」を採用した衛星である。
このモデルは、基本機能と標準的なIoT通信機能を備えるとともに、3U分の縦型ミッションスペースを確保している。ミッション部には、顧客が提供したコンポーネントを搭載しており、軌道上での実証を行う予定だ。
AE1bに続く2機目の「基本モデル」の運用により、ホステッドペイロードサービスの安定展開に向けた運用データの蓄積とサービス品質の向上が期待される。
AE1d
AE1dは、6U衛星汎用バスの「大型アンテナ搭載モデル」を採用した衛星である。
このモデルでは、海洋向け衛星通信システム(VDES:VHF Data Exchange System)の展開アンテナを用いた実証が行われる予定であり、VDES受信機の要素技術も同時に検証する。
VDESは、船舶との双方向デジタル通信を可能にする次世代の海洋情報インフラであり、船舶の安全航行や海上のデジタル化を促進する重要な技術として機体されている。
さいごに
いかがでしたか。
3機の衛星の運用開始は7機からなるコンステレーション構築に向けた重要な一歩である。
このプロジェクトにより、衛星開発を目指す事業者はミッション部分の設計や開発に注力することが可能となり、衛星開発・利用のハードルが大きく下がるだろう。
それは、これまで参入が難しかった事業者に新たな可能性を提供するだけでなく、日本全体として所有する衛星の数を増やし、衛星サービスの多様化や拡充を促進する。
アークエッジ・スペースが牽引するこの取り組みは、日本の宇宙産業に新たな地平を切り開き、世界市場における競争力を高める重要な鍵となるだろう。
同社は今後、2025年までに残り4機の衛星の製造・打ち上げを行い、7機のコンステレーション運用を実施する予定だ。
これからの展開に期待が集まる。