Space BD、「タンパク構造解析サービス」でサンプルをISSへ。なぜ宇宙に?
©Space Connect株式会社

2022年12月21日、Space BDが、国内外の企業・研究機関の実験試料の、ISSへの輸送が完了したと発表した。

同社は、いわば「宇宙商社」。宇宙産業における総合的なサービスを展開している。

その1つとして、ISSの日本実験棟「きぼう」船内で顧客の試料をもとにタンパク質結晶の生成を行う事業を展開。

宇宙空間でのタンパク質結晶化試験は、あの「宇宙兄弟」でも取り上げられ、作中の宇宙飛行士が挑戦している。

宇宙空間でタンパク質結晶化試験を行うことは地球上での試験と比べてどのような違いがあるのだろうか

本記事では、この疑問について詳しく解説する。

Space BDのサービス

宇宙でタンパク質結晶を作成するメリットを述べる上で、まずはSpace BDの展開するサービスについて説明する。(タンパク質結晶については次の章で詳しく説明する。)

同社は、JAXAが10年以上にわたって推進してきた、「きぼう」での高品質タンパク質結晶生成事業の唯一の民間パートナーとして、国内外の企業・研究機関に、宇宙実験を組み込んだ「タンパク構造解析サービス」を提供する。

同サービスは、創薬研究で重要となる、ターゲットタンパク質構造情報の決定等を支援するサービス。

JAXAの宇宙実験を初期からサポートする株式会社丸和栄養食品との連携により、宇宙実験だけでなく、結晶化条件の検討宇宙輸送結晶の回収構造解析さらには分子設計に対する提案まで行う。

© Space BD
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このサービスでは、通常の新薬開発プロセスで膨大な時間を要す候補化合物の選定において、リードタイムを大幅に短縮し、コスト削減に貢献することができる。

なぜなら、高品質なタンパク質の構造情報に基づいて実験するからだ。

この高品質なタンパク質結晶を生成するために、ISSの微小重力空間の特性を利用しているのである。

宇宙でしか作れない!?高品質なタンパク質結晶

宇宙空間でタンパク質結晶の製造を行うことで、分子が規則的にきれいに並んだ「高品質」なタンパク質結晶を生成することが可能となる。

重力がない宇宙では、タンパク質分子が、結晶の中にゆっくりと正しく取り込まれることで、結晶の品質が向上する。

一方、地上では高品質な結晶をつくることが難しいのだが、それには2つの理由がある。

1つ目は、地上でタンパク質の結晶を作ると、作った結晶が重力方向に落ちてしまい、容器に衝突してしまう可能性があるためだ。

容器に衝突すると、容器からはがれずに取り出せなくなってしまったり、取り出す際に損傷したりしてしまう。

2つ目は、地上では重力の影響で対流が生じ、結晶のまわりに大きな乱れが生じるためである。

対流によって分子の動きが激しくなると、結晶にタンパク質が取り込まれるときに、次から次へとタンパク質が供給される。

すると、先に結晶に取り込まれたタンパク質がゆっくりと正しく並ぶ時間的な猶予がなく、本来結合すべきところではないところに結合してしまうなど、結晶の中に欠陥ができてしまうのである。

宇宙飛行士による作業風景(イメージ) ©JAXA NASA
宇宙飛行士による作業風景(イメージ) ©JAXA NASA

高品質なタンパク質結晶が必要な理由

タンパク質を結晶化する目的は、そのタンパク質の決まった固有の構造を知るためである。

特に、治療薬の開発では、タンパク質の構造を理解することが非常に重要だ。

異常が起きたタンパク質の形がわかれば、異常が発生しているタンパク質を抑制するための対策を考えることが可能になり、治療薬の開発を前進させることができる。

タンパク質の構造の解析には、X線結晶解析という技術が用いられる。この技術により、タンパク質結晶にX線を当て、そのX線がどのように跳ね返るのかを調べることでタンパク質の構造を解析することができる。

この解析方法によって、あたかもレンズで小さなものを見るのと同じように、タンパク質の細かい構造まで分析することが可能なのだが、より正確に構造を理解するためには、分析するタンパク質結晶自体が高品質であることが必要となるのだ。

このような背景から、高品質なタンパク質結晶を生成するために、宇宙で実験を行うのである。

さいごに

2回目の打ち上げとなる今回、Space BDは台湾・ブラジルのユーザーを含む国内外のユーザー計4社のサンプルを打ち上げた。

創薬を目的としたタンパク質結晶生成に加えて、教育プログラムの一環として岩手県立花巻北高等学校生徒が条件検討したタンパク質結晶化溶液が搭載。

高校生約20名が参加し、宇宙実験やライフサイエンスに関する興味関心の醸成に寄与した。

Space BD事業開発 山崎 秀司氏は以下のように述べている。

今回は弊社にとって2回目となる打上げになります。お客様から預かったサンプルをパートナーのJAXA様、丸和栄養食品様とともに米国射場にて作業を実施しました。今後も創薬研究をはじめとし、お客様の様々なニーズに応えられるよう、事業開発とサービス品質の向上に努めてまいります。

JAXAの長年にわたる経験・技術をもとに、Space BDは宇宙ビジネスの幅をどのように広げていくのだろうか。これからが楽しみである。

参考:

Space BDライフサイエンス事業で顧客サンプルのISSへの輸送完了

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