打ち上げ前に知りたい「H3ロケット3号機打ち上げの注目ポイント」
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JAXA(宇宙航空研究開発機構)と三菱重工業株式会社が開発する日本の新しい基幹ロケット「H3ロケット」3号機の打ち上げが、2024年6月30日(※2024年6月21日7:00時点)に実施される。

本記事では、同ロケットのミッションや搭載する「だいち4号」の概要、飛行計画など、打ち上げ前に知っておきたい内容をまとめました。

H3ロケットとは

H3ロケットは、日本の主力ロケット「H2Aロケット」の後継機となる大型ロケットだ。

開発の狙いとして、大きなものは以下の2つ。

  1. 日本の人工衛星を自国での打ち上げ可能にする「自立性」を確保し、衛星打ち上げ費用の海外流出を防止
  2. 国外の衛星事業者からも選ばれる「国際競争力」を確保して商業衛星を受注し、産業基盤を強化

従来のH2Aロケットは打ち上げ成功率を誇るものの、衛星を受注してからその衛星に合わせて製造する“特注品”であったため、打ち上げ頻度が少なく、打ち上げコストも高い。

それに対して、H3ロケットは「柔軟性」「高信頼性」「低価格」の大きな3つの特徴を持つ。

まず、製造過程の変更等により打ち上げ頻度を高めることで打ち上げスケジュールの柔軟性を確保。

また、様々な重さ、大きさの衛星の打ち上げに柔軟に対応できるよう、ブースターエンジンの数やフェアリング(衛星を搭載する先端部分)の形を変えられる設計とした。

打ち上げ価格は最小数のブースターエンジンの場合で約50億円(H2Aロケットの半額程度)を目指しつつ、打ち上げ成功率約98%を誇るH2Aロケットの信頼性を維持することを目標としている。

H3のこれまでと3号機のミッション

H3ロケットはこれまで試験機1号機、試験機2号機の打ち上げが実施されており、3号機はそれに続く3回目の打ち上げとなる。

JAXAのH3ロケット試験機1号機対策本部によると、1号機の打ち上げは2023年3月7日に実施し、失敗が報告されている。そのことにより搭載していた地球観測衛星「だいち3号」を惜しくも喪失した。

H3試験機2号機は1号機と全く同じ形態(ブースターエンジンの数やフェアリングの形状)をもってだいち3号と同等の質量特性を持つダミー衛星を搭載。2024年2月17日に実施した打ち上げは成功を収めた。

今回打ち上げられる3号機のミッションは、試験機1号機、2号機と同じ形態をもって「だいち4号」を打ち上げること、そしてロケットの機能・性能が正常に発揮されたことを確認することである。

だいち4号の概要

H3ロケット3号機に搭載される「だいち4号」は、2014年5月に打ち上げた陸域観測技術衛星「だいち2号」の後継機。

三菱電機株式会社が主要製造者として設計・製造を担当しており、JAXAと協力して開発した。

だいち4号 引用元:文部科学省 HP内資料

「だいち4号」は地球観測衛星の1種であるSAR衛星(合成開口レーダ衛星)で、電磁波の一種であるマイクロ波(波長1m以下)を地表に当てて、その反射を受信。

太陽光を光源として撮影する光学衛星とは異なり、雲に覆われている場所や夜間における観測も可能だ。

地表の形状や性質に関する画像情報を取得し、発災後の状況把握や火山活動、地盤沈下、地滑り等の異変の早期発見、土木・インフラ管理、作物の生育状況把握など農業での活用、森林伐採の監視などに貢献。

数センチメートルの精度で地表の動きを捉えることができ、災害時の道路や構造物の変位を早期発見可能で、点検・管理のコスト低減、効率化が期待される。

だいち4号の特徴

だいち4号の大きな特徴は以下の2つ。

高分解能のまま観測幅を拡大!

だいち4号は、だいち2号と比較して分解能はそのままに、観測幅を約4倍の200㎞(高分解モード)に拡大

(通常、同じ時間内で観測を行う場合、観測面積を大きくすると分解能は低くなる)

200㎞というと、東京駅から新潟県日本海沿いの上越市間に匹敵するほどの距離であり、線状降水帯などの豪雨被害や大規模地震、複数の火災噴火など被災地が広範囲にわたる場合においても一度に観測できる。

観測頻度も向上

観測頻度については、だいち4号は同じ場所を約2週間に1回程度観測可能。(高分解能モード時)

従来のだいち2号は同じ場所を年に4回観測できる程度であり、だいち4号はその約5倍。

そのため、従来よりも異変を早期に発見できるようになるのだ。

※だいち4号と、日本のベンチャー企業が開発するSAR衛星(QPS-SAR、StriX)との比較はこちら

今回の打ち上げの見どころ

では、実際にどのようにしてH3ロケット3号機は「だいち4号」を宇宙に届けるのか。

まずは、H3ロケットの形態と各コンポーネントについて説明する。

H3ロケット3号機の形態

H3ロケット1~3号機の形態 引用元:文部科学省 HP内資料

H3ロケット3号機の形状は上図の通り。

第1段エンジンは、過去の技術を集約し新たに開発された「LE-9」。その上にLE-9を動かすための燃料タンク(液体水素、液体酸素)が積まれている。

横にあるのはロケットの追加の推進力となる固体ロケットブースター「SRB-9」。これは、搭載する荷物の総重量によって本数を調整できる。

第1段エンジン燃料タンクの上には第2段エンジン「LE-5B-3」と同じく燃料タンク。LE-5B-3はH2Aロケットにも使用されていたエンジンである。

一番上にあるのは衛星を守るフェアリング。長さの短い形状のものが使用されており、3号機の場合、中には「だいち4号」が搭載される予定である。

H3ロケット3号機の飛行計画

H3ロケット3号機の打ち上げは、以下のような手順で行われる。打ち上げから17分程度で「だいち4号」は宇宙空間に放出されるのである。

経過時間事象高度速度
㎞/s
0分00秒リフトオフ00.4
1分56秒ブースターエンジン「SRB-3」を分離44(成層圏)1.5
3分30秒衛星フェアリングを分離(外殻部分)120(宇宙空間)2.1
5分03秒第1段エンジンの燃焼を停止2783.6
5分11秒第1段エンジンを機体から分離3243.5
5分24秒第2段エンジンの燃焼を開始6133.5
16分25秒第2段エンジンの燃焼を停止6137.5
16分45秒「だいち4号」を高度約613㎞の太陽同期準回帰軌道(※)に放出

※両極付近を通過し、地球全体を観測できる軌道。同じ地点を通るときはそれぞれ同じ時間帯となる。
6467.6
1時間46分27秒軌道を離脱するため、第2段エンジンの燃焼を再開6467.5
1時間46分42秒第2段エンジンの燃焼を停止、
機体をインド洋上に制御落下
6467.1
H3ロケット3号機の飛行計画

さいごに

いかがでしたか。

「だいち4号」を搭載したH3ロケット3号機の打ち上げは、ライブ中継も実施される。

打ち上げの約70分前から、打ち上げ後約20分までの中継となっている。

配信URLは、近日中に特設サイトにて公開予定だ。

H3ロケット3号機 打ち上げ概要

  • 打ち上げ予定日:2024年6月30日
  • 打ち上げ予定時間:12時6分42秒~12時19分34秒(日本標準時)
  • 打ち上げ場所:種子島宇宙センター 大型ロケット発射場

参考

H3ロケット3号機 プレスキット

宇宙開発利用部会 配布資料

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