インターステラテクノロジズ、エンジン部品の燃焼試験に成功!国際競争力を持つロケットZEROとは!?
©インターステラテクノロジズ

2022年8月2日、インターステラテクノロジズ株式会社は、ロケット「ZERO」用60kN級エンジンの重要部品の一つ「ガスジェネレータ」(ガス発生器)の実機モデルでの燃焼試験に成功したと発表した。この試験は、北海道大樹町の北海道スペースポート(HOSPO)内専用射場「Launch Complex-0」にて行われた。

同社は、「誰もが宇宙に手が届く未来をつくる」をビジョンに掲げ、観測ロケット「MOMO」と超小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」を独自開発・製造している。この記事では、現在開発が本格化されているZEROとそのエンジンが、どのように設計されているのか紹介する。

インターステラテクノロジズとは?

インターステラテクノロジズは、低価格で宇宙への人工衛星等の輸送を目指す、ロケット開発ベンチャー企業。ホリエモンこと堀江貴文氏がファウンダーであることでも有名。北海道大樹町に本社を置き、東京支社と福島支社、室蘭技術研究所(室蘭工業大学内)の4拠点で開発を進める。

同社の観測ロケット「MOMO」は、国内民間企業単独での打ち上げとしては日本初の宇宙空間到達を達成。現在は、人工衛星を軌道投入するためロケット「ZERO」の開発を本格的に進めている。

小型ロケットの需要と国際競争力を持つロケットZEROの開発

近年、世界で宇宙ビジネスが盛り上がりを見せており、2040年には世界の宇宙産業は100兆円超の巨大市場に成長することが見込まれている。既にGPS機能、Googleマップなど宇宙からの人工衛星データは私たちの身近なところで活躍している。今後は衛星を使ったインターネット通信、人手不足の解消や食料の安定供給といった社会課題の解決に、衛星データの活用などの宇宙利用がさらに進むと予想されている。

同時に人工衛星の需要は拡大しており、多くの企業・研究機関が実用化を目指し、開発を進めている。しかしその一方で、人工衛星を宇宙空間に運ぶためのロケットの不足、輸送の際に高額な費用がかかるといった課題が生じている。

世界では2021年にロケットが140回程度打ち上げられているが、日本での打ち上げ回数は3回で、日本の人工衛星も海外での打ち上げを余儀なくされている。ZEROは、衛星をより安く、より高頻度に打ち上げることのできる世界の実現を目指している。

小型ロケットZERO
小型ロケット「ZERO」 ©インターステラテクノロジズ

ZEROは超小型人工衛星を宇宙空間(地球周回軌道上)に運ぶための小型ロケット(長さ25m、直径1.7m、総重量33t)。人工衛星を宇宙空間に運ぶロケットのうち、中~大型ロケットは小型人工衛星を大型衛星の相乗りで輸送するが、衛星が目的とする軌道に直接輸送できないことがほとんどで、打ち上げ時期やミッションへの自由度も低い。そこで、これらの課題を解決する小型ロケットの需要が高まっている。

例えるならZEROは、小型の荷物を大型トラックに相乗りさせる、あるいは小型チャーター便で目的地まで直接届けるかの”選択肢”を宇宙輸送でも実現することを目指しているというわけだ。

打ち上げコストの低さも注目ポイントの一つ。国内既存の人工衛星打ち上げロケットの価格は40~150億円と高額であるが、これに対しZEROは1機あたり6億円以下という圧倒的な低価格を目指す。

  • エンジンシステムなど複雑で高額なコア技術の自社開発
  • 設計から製造、試験・評価、打ち上げ運用までを自社で一気通貫させた国内唯一の開発体制
  • アビオニクス(電子装置)への民生品活用

などにより開発費用を削減。国際競争力のあるロケットの実現を可能としている。

また、東と南が海に開かれた世界有数の好立地、かつ大樹町の本社から7.5㎞の近距離の射場も世界的に見て大きな利点となっている。他にも、固体燃料ロケットと比較して振動が少なく人工衛星への負担が少ない液体燃料を採用、などなど同社の注目ポイントは他にもたくさんあるが、特に下記の3つの要素が注目ポイントであろう。

ZEROの注目ポイント3選
  1. 小型衛星チャーター便としての役割
  2. 圧倒的な低価格
  3. 世界的に好立地な射場

ZEROのロケットエンジン構想

ZERO ロケットエンジン構想図
ZERO ロケットエンジン構想図 ©インターステラテクノロジズ

インターステラテクノロジズがこれまで打ち上げてきたMOMOでは、推進剤をヘリウムガスで加圧してエンジンに送り込む「ガス押し式」が採用されていた。一方、初号機打上げに向けて開発を本格化させているZEROでは、よりロケットの大型化・大出力化に適した「ターボポンプ」を初めて搭載。

「ガスジェネレータ」で発生させたガスの力で、ターボポンプのタービンを1分間に数万回転と高速回転させる「ガスジェネレータサイクル」が新たに導入されている。ガスジェネレータは2016年から基礎研究を始め、その技術の一部はMOMOの姿勢制御にも活用されていた。

今回の試験の成功を受け、今後はエンジンの他の部品と組み合わせた複数の試験を経て、2023年度の「エンジン統合試験」へと進む予定だという。

3Dプリンターも使用!量産化と低コスト化を図ったガスジェネレータ設計

ZERO ガスジェネレータ
ZEROのガスジェネレータ ©インターステラテクノロジズ

ZEROのガスジェネレータは長さ約23cm、直径約12cm、重さ約2kgで、素材はステンレスおよび耐熱合金のインコネル製。高温高圧のガスを発生させることで、ロケットの”心臓部”に当たる「ターボポンプ」のタービン部分の動力源となる小型の燃焼器である(上図参照)。

量産化を見据え、削り出し加工ではなく鋳造を採用。燃焼室に推進剤を送り込む「インジェクタ」(燃料/酸化剤噴射器)には、金属3Dプリントが使われ、コストが低減されている。これまではガスメタンで試験を実施されてきたが、今回の試験では初めて、実際の打上げに採用する「液化メタン」が燃料に使われた。結果、ガスジェネレータが十分な性能を満たしていることが確認された。

ガスジェネレータ燃焼試験の試験映像 ©インターステラテクノロジズ

試験名称 :ガスジェネレータ燃焼試験
試験目的 :要求性能を満たしていることを確認すること
期 間 :2022年6月2日~8月2日(計16回)
場 所 :北海道スペースポート「Launch Complex-0」
燃焼時間 :最大20秒
試験結果 :規定のガス温度、圧力、流量および温度分布の均一化目標を達成

カーボンニュートラルに貢献!?環境にも優しいエンジンの燃料とは

液化メタンによるカーボンニュートラルへの貢献
© インターステラテクノロジズ

ZEROの燃料には低価格で性能が高く、環境にも優しい液化メタンを選定。メタンを燃料としたロケットは世界でも注目され、国外では大型開発が相次いでいる。メタンは二酸化炭素に次いで影響の大きい温室効果ガスであり、牛から出るメタンの排出量低減が課題となっている。

インターステラテクノロジズは、エア・ウォーター株式会社と協力し、牧場から買い取ったメタンガスで製造した液化バイオメタンをロケットに使うことを計画。これにより地球温暖化対策に具体的に貢献するとともに、酪農が盛んな北海道に本社を置く企業としてエネルギーの地産地消に寄与するという。

参考:

インターステラテクノロジズの超小型人工衛星用ロケットZERO、エンジン重要部品「ガスジェネレータ」の燃焼試験に成功ー燃料に採用する「液化メタン」を初めて使い、実機モデルでの試験実施

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