日本とアジア・オセアニア地域を対象とした内閣府主催の宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster2023」で最優秀賞を獲得したAstromineが、「株式会社Astromine」として、4月から活動開始する旨を明らかにした。
同社は日本独自の技術で、これまでにない小惑星探査の実現を目指すディープテックスタートアップ企業だ。
本記事では、“小惑星探査のプロ” Astromineが展開する事業の内容やビジネスモデルについてご紹介します。
Astromineとは
Astromineは、全人類のために小惑星を自由自在に扱える未来を切り拓くことを目指す新生スタートアップ企業。
法人設立前から小惑星に、毎月いける時代を創るとおっしゃていたことからすでに業界では注目が集まっていた。
主な事業としては、小惑星資源探査やそのデータ提供サービスのための複数の深宇宙小型探査機を用いた小惑星探査手段の提供を目指すとのことだ。
世界で活躍する小惑星のプロが設立
同社を設立するのは宇宙航空研究開発機構(JAXA)の一部である宇宙科学研究所(ISAS)の宇宙工学と惑星科学の2人の専門家。
その1人である宇宙科学研究所の准教授で宇宙工学を専門とする尾崎 直哉氏は、東京大学出身で、世界初の超小型深宇宙探査機PROCYON(プロキオン)の開発経験を持つ。
博士課程終了後はESA(欧州宇宙機関)、NASA、そしてJAXAで人工衛星や探査機が飛行するルートを計画する軌道設計に携わっており、JAXAではこれから打ち上げ予定の深宇宙探査技術実証機「DESTINY⁺」の軌道計画も担当している。
一方、惑星科学を専門とする兵頭 龍樹氏は同じく宇宙科学研究所の国際トップヤングリサーチフェロー(JAXAに招かれた世界トップレベルの若手研究者、准教授相当)。次世代の惑星探査ミッションの設計・推進に関わっている。
これまで、小惑星探査計画「はやぶさ2」やNASAの土星探査計画「カッシーニ」など、ESA、NASA、JAXAの三大宇宙機関の探査計画に参加。現在はJAXAのほかパリ大学にも所属している。
サービスの概要と必要性
彼らがAstromineを通じて提供するのは安価で高頻度な小惑星探査を可能にするサービスだ。
小惑星資源の価値は8兆円以上!?
JAXAは小惑星探査において世界をリードしてきた。
小惑星リュウグウを探査した「はやぶさ2」では、リュウグウに1000人が500年生きることができる水資源や、アミノ酸から金属に至るまで、多様な資源が含まれることが明らかにされた。
宇宙で水は人が生活する上で必須である上にロケットや探査機の燃料としても利用できるためとても貴重な資源だ。
リュウグウのような小惑星の資源は小さなものでも8兆円、ものによっては1000兆円以上の価値があるという。
民間月面探査が発展している現在、小惑星の宇宙資源を活用したいと考える企業は今後増加していくだろう。
小惑星探査の課題を解決
しかし、現在の小惑星探査には様々な課題がある。主な課題は以下の3つ。
- 高コスト:現在、日本の小惑星探査機開発コストは300億円規模
- 機会の不足:現在、日本の小惑星探査の頻度は5年から10年に1回程度
- 情報の不足:存在が確認されている100万個以上の小惑星のうち、直接探査された小惑星はたった20個未満
つまり、小惑星探査は高コストで機会も少なく、100万個以上発見されている小惑星の情報はほとんどわかっていないというのが現状。
大規模な小惑星探査ミッションを着実に遂行するには事前情報が必要であるにもかかわらず、小惑星の素性がわからないことが全世界の宇宙機関の中で課題となっているのだ。
そして、これらの課題の解決を目指すのがAstromineである。同社は以下の3つの実現を目指している。
- 探査機開発コストを従来のおよそ100分の1となる数億円で実現
- 従来のおよそ60倍以上である月に1回の頻度で小惑星へのアクセスを可能にする
- 小惑星資源に関する豊富なデータベースを整備
従来は望遠鏡の観測情報をもとにいきなり小惑星探査を実施しなければならなかったが、同社のデータベースにより事前情報を得られるようになる。
また、新たに発見された調査対象となる天体に、数週間で探査機を出動することも可能となるのだ。
日本独自の技術で実現
Astromineのサービスを実現するのに必須なのが、尾崎氏、兵頭氏が所属するJAXAが独自に有する、「フライバイサイクラー」という飛行ルートの設計技術だ。
フライバイサイクラーでは、相乗りで打ち上げた複数の探査機は最初の小惑星にフライバイ(小惑星の近くを通過すること)した後地球近傍に帰還。
地球近傍でスイングバイ(重力を利用して探査機の加減速や方向転換を行うこと)し、次の目的地となる小惑星に向かっていく。
この小惑星フライバイと地球スイングバイを繰り返すことでかつてない効率の良さで複数の小惑星を探査することが可能となるのだ。
探査機が1年かけて地球と小惑星を往復するような軌道上で、12機の探査機を運用することで、月に1度の小惑星探査が実現される。
この軌道設計は従来NASAの研究者ですら解決できなかった難しい問題であったが、JAXAは機械学習を駆使した独自の設計技術で解くことに成功。
これまでは小惑星を1つ1つ網羅的に探索していたものを機械学習によりモデル化し、全数探索を瞬時に計算するようなイメージだという。
尾崎氏いわく、日本は小惑星探査のための予算が比較的少なく、その中で面白いミッションを行うための軌道設計技術、特にスイングバイを利用した軌道設計技術が強みの1つとして発展してきたとのことだ。
官需と民需で異なるビジネスを展開
Astromineは、今後5年の望遠鏡技術の発展により小惑星の発見数は急増すると考えている。NEOサーベイヤーという地球に近い天体を把握するNASAの計画も2028年から運用開始予定だ。
同社はその中から探査可能な小惑星を事前にリスト化し、顧客の要望に合わせて探査を実施。
望遠鏡のデータからは小惑星の軌道と大まかな大きさの情報のみ得ることができるが、同社の探査機によって水の有無や鉱物組成、大きさ、形状、重心等を正確に明らかにすることができるという。
顧客はAstromineから提供されたデータから小惑星の素性を理解することで、より着実に小惑星の資源採取等のミッションを遂行することができるのだ。
また、地球衝突のリスクのある小惑星から地球を守るための小惑星の監視・調査(プラネタリーディフェンス)を行うという面でも、小惑星探査は非常に重要である。
小惑星と地球の衝突はおよそ10年に1度起こると言われており、地球に甚大な被害を与える可能性があり、プラネタリーディフェンスは年間何百億円という市場があるのだ。
Astromineは小惑星探査のためのデータ収集を実施しながら、事業の第一段階として官需を中心に、小惑星の形状や重心情報を売るプラネタリーディフェンスでビジネスを展開。
これにより利益を緩やかに上げながら、第二段階に同じインフラを用いて小惑星の資源や分布の情報、あるいは小惑星資源自体を売る民需中心の小惑星資源探査へと発展させていくとしている。
小惑星資源探査ビジネスは何十兆円の市場があり、莫大な利益を見込むことができる。
例えば、現在の技術で移動可能である10mサイズの小惑星には、地球から月まで輸送すると30兆円ほどかかる量(100人が1年間宇宙空間に住める程度)の水資源があるという。
同社は小惑星発見数が急増する2028年までに12機体制を構築し、1か月に1回の小惑星探査の実現を目指すとのことだ。
さいごに
いかがでしたか。
事業内容が分かりづらかった方は以下の動画も参考にしてもらいたい。
フライバイサイクラー技術は、尾崎氏が軌道計画を担当しているJAXAのDESTINY⁺計画でも実施予定とのこと。
同計画はイプシロンSロケットにより2025年度の打ち上げが予定されているとのことで、こちらにもぜひ注目していただきたい。