
アストロスケールホールディングス(以下、アストロスケール)は、スペースデブリの除去や人工衛星の点検、寿命延長、燃料補給などの軌道上サービスを実現するため、国内外の企業や政府機関、大学との連携を進めている。
本記事では、アストロスケールグループが公表したMOU※等の契約先や協業内容、その後の進展について整理する。
MOUとは「Memorandum of Understanding」の略称で、日本語では一般的に「覚書」と訳される。将来的な協業分野や共通目標を確認するために締結されるものであり、MOUを締結した時点で、具体的な発注や売上が確定するとは限らない。
アストロスケールが締結したMOU一覧
2026年7月までに公表されている、アストロスケールグループが締結したMOUは12件、締結先は企業・大学・政府機関などを合わせて15者であった。
以下の一覧には、アストロスケールまたは締結先が「MOU・覚書」のいずれかを明記して公表した案件を掲載している。
| 締結時期 | 締結先 | 国・地域 |
|---|---|---|
| 2017年11月 | Surrey Satellite Technology Limited(SSTL) | 英国 |
| 2020年5月 | ノーサンブリア大学 Chris Newman教授 | 英国 |
| 2021年7月 | 三菱重工業 | 日本 |
| 2021年11月 | ニュージーランド政府MBIE | ニュージーランド |
| 2021年11月 | Virgin Orbit | 米国 |
| 2022年12月 | 郵船ロジスティクス みずほ銀行 キッズステーション | 日本 |
| 2024年8月 | Airbus Defence and Space | 英国 |
| 2025年3月 | Digantara | インド |
| 2025年3月 | Bellatrix Aerospace | インド |
| 2025年9月 | HEO | オーストラリア |
| 2026年1月 | Exotrail | フランス |
| 2026年2月 | 三井住友ファイナンス&リース SMFLみらいパートナーズ | 日本 |
1. SSTL
2017年11月に英国のSurrey Satellite Technology Limited(SSTL)と締結したMOUでは、デブリ除去をはじめとする軌道上技術や小型衛星分野で、共同提案や事業機会の開拓を進めることに合意。
最初の取り組みとして、アストロスケールはデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」で使用する模擬デブリ衛星とアビオニクスをSSTLへ発注した。MOUの締結と同時に、具体的な供給契約へ進んだ事例である。
ELSA-dは2021年3月に打ち上げられ、模擬デブリへの接近や磁気を使用した捕獲などを軌道上で実施した。※1
2. ノーサンブリア大学
2020年5月に、英国のノーサンブリア大学で宇宙法と政策を専門とするChris Newman教授と締結したMOUでは、人工衛星の運用終了に関する基準や慣行の研究を進めることが定められた。
両者は、石油・ガスや原子力産業における廃止措置の制度や取り組みを調査し、その知見を衛星産業へ応用することを目指した。調査対象には、法制度や政策、廃止措置に必要な資金の確保、許認可制度への運用終了措置の組み込みなどが含まれる。
デブリ除去を普及させるには、接近・捕獲技術に加え、衛星の運用終了を前提とした制度や事業の仕組みも必要になる。このMOUは、技術開発だけでなく、法律、政策、事業モデルの側面から持続可能な宇宙利用を進める取り組みである。※2
3. 三菱重工業
2021年7月に三菱重工業と締結したMOUでは、デブリ除去に関する共同開発や技術協議を進めることが定められた。
アストロスケールが持つデブリ除去を含む軌道上サービスの技術と、三菱重工業がロケット打上げ輸送サービスで培った実績や知見を生かし、宇宙環境の改善に向けた協力の可能性を検討する。アストロスケールは、この協業を通じて技術開発だけでなく、デブリ除去サービスのビジネスモデル構築や法規制に関する検討も進める方針を示した。※3
4. ニュージーランド政府
2021年11月にニュージーランド政府のビジネス・イノベーション・雇用省(MBIE)と締結したMOUでは、宇宙の安全性と持続可能性に関する協力を進めることが定められた。
協業の対象には、スペースデブリの発生抑制・除去や軌道上サービス全般が含まれ、長期的に持続可能な宇宙利用に向けた共同研究や技術開発を検討する。
最初の取り組みとして、Rocket Labおよびオークランド大学のTe Pūnaha Ātea–Auckland Space Instituteと協力し、1機のサービサーで低軌道にある最大3つの大型デブリに対応するミッションを調査する計画が示された。
調査では、ミッションの技術要件や政策上の課題、必要な費用を明らかにし、複数のデブリを対象とする商業除去サービスの実現可能性を検討する。対象には、大気圏へ再突入しても一部が燃え尽きず、地上へ到達する可能性がある物体が想定されている。※4
5. Virgin Orbit
2021年11月にVirgin Orbitと締結したMOUでは、同社の空中発射ロケット「LauncherOne」を利用した打ち上げや、即応型の軌道上サービス、スペースデブリ除去、政策・規制面での協力を検討することが定められた。
アストロスケールが今後10年間に計画していた多数のミッションのうち、最大10件をLauncherOneで打ち上げる構想に加え、軌道上サービスを目的とした共同ミッションも検討されていた。
また、アストロスケールの宇宙機をロケットへ搭載できる状態であらかじめ準備し、LauncherOneの宇宙港に保管することで、必要に応じて迅速に打ち上げるサービスの事業性も調査する計画であった
しかし、Virgin Orbitは2023年に米連邦破産法11条の適用を申請し、主要資産を売却した。そのため、MOUで示された打ち上げや共同ミッションは実現していない。※5
6. 郵船ロジスティクス・みずほ銀行・キッズステーション
2022年12月に郵船ロジスティクス、みずほ銀行、キッズステーションの3社と締結したMOUでは、商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」を支援するマーケティングパートナーシップを構築することが定められた。
3社はADRAS-Jプロジェクトへの支援を通じて、スペースデブリ問題や宇宙の持続可能性に関する認知拡大に協力した。軌道上サービスの技術を共同開発するものではなく、異業種の企業がアストロスケールの活動を支援するMOUである点が特徴である。
ADRAS-Jは2024年2月に打ち上げられ、軌道上に残るH-IIAロケット上段へ接近した。対象の周囲を飛行しながら状態や運動を観測し、最終的には約15mまで接近することに成功した。※6
7. Airbus Defence and Space
2024年8月にAirbus Defence and Spaceと締結したMOUでは、英国における軌道上サービス産業の発展と、宇宙空間における循環型経済の構築に向けて協力することが定められた。
主な協業分野は次のとおりである。
・スペースデブリの確認、捕獲、除去
・衛星の保守、修理、改修
・ランデブー・近傍運用
・宇宙空間での組み立てと製造
・衛星への燃料補給と寿命延長
デブリ除去の分野では、アストロスケールの将来ミッションにAirbus製ロボットアーム「VISPA」を活用する可能性についても、継続して検討する方針が示された。
その後の2025年3月、Airbusはアストロスケール英国の第2世代ドッキングプレートを100個以上受注した。両社のMOUとの直接的な関係は公式発表で明記されていないものの、軌道上サービスに向けた協力が具体的な製品採用にも広がった事例と位置付けられる。
ドッキングプレートを衛星へ打ち上げ前から取り付けておくことで、将来、軌道上サービス機が磁気機構やロボットアームを使って衛星を捕獲しやすくなる。MOUで示されたVISPAの活用や衛星の修理、寿命延長などについても、引き続き協業の検討対象となっている。※7
8. Digantara
2025年3月にインドのDigantaraと締結したMOUでは、両社の技術や知見を組み合わせ、インドをはじめとする各国で軌道上サービスの事業機会を開拓することが定められた。
Digantaraは、人工衛星やスペースデブリなどの宇宙物体を検出・追跡し、取得したデータを解析する宇宙状況把握技術を手掛ける企業である。
両社は、アストロスケールの軌道上サービスとDigantaraの宇宙物体の観測・追跡・解析技術を組み合わせ、宇宙状況把握やデブリ除去などの分野で協業を検討。
Digantaraが宇宙物体の位置や動きを把握し、その情報をもとにアストロスケールが対象へ接近して点検や除去を行うことで、観測から軌道上での対応までを一体化することを目指す。※8
9. Bellatrix Aerospace
2025年3月にインドのBellatrix Aerospaceと締結したMOUでは、両社の技術を組み合わせ、インドや日本を含む各国で軌道上サービスの事業機会を開拓することが定められた。
Bellatrix Aerospaceは、衛星用の電気推進機や環境負荷を抑えた化学推進機、軌道間輸送機「Pushpak」などを開発する宇宙企業である。
両社は、Bellatrix Aerospaceの推進・軌道移動技術と、アストロスケールのデブリ除去や衛星サービス技術を生かし、能動的デブリ除去や持続可能な軌道上移動などの分野で協業を検討する。
このMOUは、アストロスケールのインド市場展開を後押しするとともに、Bellatrix Aerospaceの日本市場への参入を支援する相互的な提携である。※9
なお、同時期に協力が発表されたMEMCO Associatesは、アストロスケールのインドにおける現地パートナーとして、市場開拓や関係構築を支援している。MOUの締結先ではないため、後述する提携企業の項目で紹介する。
10. HEO
2025年9月にオーストラリアのHigh Earth Orbit Robotics(HEO)と締結した3年間のMOUでは、宇宙物体の監視と軌道上サービスを連携させるため、両社の協力を拡大することが定められた。
HEOは、宇宙空間から人工衛星やスペースデブリなどを撮影し、その状態や特徴を分析する「非地球撮像」を手掛ける企業である。
両社は、それまで低軌道を中心としていた協力範囲を、静止軌道と静止トランスファー軌道へ拡大した。これらの軌道には、政府、防衛、通信などに利用される重要な衛星が運用されている。
MOUでは、宇宙物体の点検や状態把握、サービス対象となり得るデブリ候補の整理、安全で効率的な軌道上サービスに向けた運用方法の検討を進める。HEOの撮像・解析技術とアストロスケールの軌道上サービス技術を組み合わせ、宇宙領域把握から軌道上での対応までをつなげることを目指す。※10
11. Exotrail
2026年1月にフランスのExotrailと締結したMOUでは、運用を終えた低軌道衛星を安全に軌道離脱させる能力の構築に向け、戦略的パートナーシップを進めることが定められた。
Exotrailが高い軌道移動能力を持つ宇宙機「spacevan」の製造、統合、運用を担い、アストロスケール仏国がランデブー・近傍運用や捕獲システムに関する技術を提供する。両社は、低軌道衛星を制御しながら安全に軌道離脱させる実証ミッションを、2030年より前に実施することを目指している。
2026年4月には、衛星軌道離脱ミッションを共同開発する契約を締結した。MOUの締結から約2カ月で、具体的な開発契約へ進んだ事例である。(提携内容は、次章でも再度解説)※11
12. 三井住友ファイナンス&リース・SMFLみらいパートナーズ
2026年2月に三井住友ファイナンス&リースおよびSMFLみらいパートナーズと締結したMOUでは、人工衛星の二次利用マーケットの創出に向けた協業を進めることが定められた。
検討対象には、アストロスケールが開発する軌道上サービスとリースを組み合わせたサービスや、人工衛星のオペレーティング・リース事業の開発などが含まれる。
従来の人工衛星は、打ち上げ後に一定期間運用し、役割を終えることを前提としてきた。一方、軌道上で衛星を点検し、修理や燃料補給、寿命延長などを行うことができれば、運用終了後も残る価値を評価し、別の用途や利用者へ引き継げる可能性がある。
このMOUは、アストロスケールの軌道上サービス技術とSMFLグループの金融・リースに関する知見を組み合わせ、人工衛星を長期的な価値を持つ資産として活用する事業モデルを検討するものである。※12

MOU以外の主な提携・共同開発
アストロスケールは、MOU以外にも共同開発、技術協力、契約、資本・業務提携など、さまざまな形式で外部企業や宇宙機関と協力している。
主な取り組みは以下の通りである。
| 発表時期 | 相手方 | 取り組みの形式 | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| 2018年12月 | 欧州宇宙機関(ESA) | 技術協力協定 | ELSA-dの衝突回避、追跡、地上管制など |
| 2024年7月 | Eutelsat OneWeb | 契約 | ELSA-Mによる運用終了衛星の捕獲・除去 |
| 2024年8月 | JAXA | 契約 | ADRAS-J2による大型デブリの捕獲・除去 |
| 2025年3月 | BAE Systems | 共同研究・技術協力 | 衛星の軌道上改修とアップグレード |
| 2025年3月 | MEMCO Associates | 共同事業契約 | インド市場の開拓や事業運営支援 |
| 2025年5月 | 本田技術研究所 | 共同開発 | 衛星用給油ポート接続システム |
| 2025年7月 | Fusic | コーポレートパートナーシップ | スペースサステナビリティ活動の支援 |
| 2026年4月 | Exotrail | 戦略的パートナーシップ | 低軌道衛星の軌道離脱サービス |
| 2026年5月 | スカパーJSAT | 資本・業務提携 | 衛星点検、修理、寿命延長、新規事業開発 |
この表はMOU以外の協力関係をすべて網羅したものではなく、軌道上サービス事業との関係が深く、その後の事業展開を理解するうえで重要な取り組みを抜粋して、掲載している。
1. ESA|ELSA-dの運用技術
2018年12月に欧州宇宙機関(ESA)と締結した技術協力協定では、デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」の運用や観測に関する協力を進めることが定められた。
協定に基づき、ESAはELSA-dのサービサー衛星に対する衝突リスクの評価や回避運用の提案、サービサー衛星とターゲット衛星の追跡支援、地上管制ソフトウェアに関する助言などを行うこととした。
一方、アストロスケールは、両衛星にレーザー測距用の反射器を搭載し、GPS測定データをESAへ提供するほか、ELSA-dのカメラを使って小型デブリの検出方法を検証する観測機会を設けた。
この協定は資金の受け渡しを伴わず、双方がデータや専門知識を提供する技術協力である。その後も両者の協力関係は続き、衛星除去ミッション「ELSA-M」や、軌道上で衛星を改修・アップグレードする「IRUS」など、別のプロジェクトにも広がっている。※13
2. Eutelsat OneWeb|衛星除去ミッション
2024年7月にEutelsat OneWebと締結した契約では、衛星除去ミッション「ELSA-M」の軌道上実証に向けた最終フェーズを進めることが定められた。
ELSA-Mは、捕獲に対応したインターフェースをあらかじめ搭載するEutelsat OneWebの通信衛星へ接近し、ドッキングした後、制御しながら軌道離脱させる計画である。※14この実証は、欧州宇宙機関(ESA)とEutelsatによる「Sunrise Partnership Project」の一環として、英国宇宙庁の支援を受けて実施される。実際の顧客衛星を対象に、運用を終えた衛星を除去する商業サービスの実現性を示すミッションである。
2026年3月には、Isar Aerospaceの「Spectrum」ロケットでELSA-Mを打ち上げる契約が発表された。顧客衛星を対象とした実証と打ち上げに関する具体的な契約まで進んでいる点が特徴である。
3. JAXA|大型デブリ除去ミッション
2024年8月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)と締結した契約では、商業デブリ除去実証(CRD2)フェーズIIとして、大型デブリの捕獲・除去に向けた技術実証を進めることが定められた。
CRD2は、軌道上に残る日本由来の大型デブリを対象に、除去技術を実証するとともに、民間企業によるデブリ除去事業の創出を目指すプロジェクトである。
フェーズIでは、アストロスケールが開発・運用した「ADRAS-J」が、軌道上に残るH-IIAロケット上段へ接近し、近距離撮影や対象の周囲を飛行する周回観測を実施した。
続くフェーズIIでは、現在開発中の「ADRAS-J2」が同じロケット上段へ接近し、ロボットアームで捕獲した後、けん引しながら軌道離脱させる計画である。
CRD2フェーズIIの契約額は、税込み約132億円である。具体的な技術実証の内容と対価を伴う契約であり、アストロスケールの大型デブリ除去事業における中核プロジェクトの一つである。※15
4. BAE Systems|衛星の軌道上改修・機能向上
2025年3月にBAE Systemsとの協力で完了した6カ月間の実現可能性調査では、人工衛星を軌道上で改修・アップグレードするサービス「IRUS」の構想が検討された。
IRUSでは、アストロスケールのサービス衛星がBAE Systemsの衛星へ接近し、交換可能なモジュールをロボットで更新する。劣化した部品の交換や新たな機能の追加によって、打ち上げ後も衛星の性能を高め、運用期間を延ばすことを目指している。両社は、2030年までに軌道上実証を行うことを長期目標としている。※16
2026年1月には、アストロスケール英国が欧州宇宙機関(ESA)からIRUSのフェーズA契約を獲得した。8カ月間の調査で、電池や太陽電池パネル、搭載コンピューターなどの交換を想定し、軌道上改修サービスの技術的な実現可能性と事業性を検討する。
アストロスケール英国がサービス衛星の設計を主導し、BAE Systemsは将来の軌道上サービスの顧客として参加する。
5. MEMCO Associates|インド市場の開拓
2025年3月にインドのMEMCO Associatesと締結した共同事業契約では、インドにおける軌道上サービスの市場開拓や事業展開で協力することが定められた。
MEMCO Associatesは、宇宙、鉄道、防衛などの分野で、技術営業や事業開拓、プロジェクト管理を手掛ける企業である。アストロスケールとの協力では、インド市場における事業機会の開拓や、政府機関・宇宙関連企業との関係構築、現地プログラムの運営などを支援する。
その後、アストロスケールはインド政府宇宙庁傘下のNewSpace India Limited(NSIL)と、大型衛星デブリを接近・観測する「ISSA-J1」の打上げ契約を締結した。
MEMCO Associatesはアストロスケールのインドにおける現地代表として、NSILとの関係構築や契約締結に向けた調整を支援している。※17
6. 本田技術研究所|衛星用給油システムの開発
2025年5月に本田技術研究所と発表した共同開発では、軌道上の人工衛星へ燃料を補給するための給油口接続システムを開発することが定められた。
給油を行うサービス衛星は、対象衛星へ接近した後、両衛星の位置や姿勢のずれに対応しながら、給油口へ確実に接続する必要がある。

共同開発では、Hondaがロボティクス研究で培ったメカトロニクス技術と、アストロスケールが持つランデブー・近傍運用・ドッキング技術を組み合わせる。Hondaは、給油口へ接続する機構や、その動きを制御する技術の開発を担う。※18
共同開発したシステムは、アストロスケールが2029年をめどに計画する低軌道での化学燃料補給実証で使用される予定である。この実証ミッションは、その後「REFLEX-J」と命名された。
7. Fusic|コーポレートパートナーシップ
2025年7月にFusicと締結したコーポレートパートナーシップでは、スペースサステナビリティの実現に向けたアストロスケールの取り組みを、Fusicが支援することが定められた。
Fusicは、Webシステムやクラウド基盤、人工知能などの技術を手掛ける企業であり、パートナーシップの締結前から、クラウド分野でアストロスケールを支援していた。
今回の発表では、新たな軌道上サービスの共同開発や具体的な発注内容は示されていない。技術やサービスの個別開発を目的とする契約ではなく、アストロスケールの活動を企業として継続的に支援する提携である。※19
8. Exotrail|低軌道衛星の軌道離脱サービス開発
2026年4月にExotrailと締結した開発契約では、運用を終えた低軌道衛星を安全に軌道離脱させるミッションを共同開発することが定められた。
この契約は、2026年1月に締結したMOUに基づく戦略的パートナーシップを具体化したものである。
Exotrailが高い軌道移動能力を持つサービス衛星「spacevan」の製造、統合、運用を担い、アストロスケール仏国がランデブー・近傍運用やドッキング、捕獲システムに関する技術を提供する。
両社は、宇宙空間での移動、対象衛星への接近・捕獲、運用終了後の処理に必要な技術を組み合わせ、2030年までに低軌道衛星を安全に除去できる能力の確立を目指している。※20
9. スカパーJSAT|資本・業務提携
2026年5月にスカパーJSATと発表した資本・業務提携では、スカパーJSATがアストロスケールへ出資し、軌道上サービスに関する協力と新規事業の開発を進めることが定められた。
協業の対象には、アストロスケールが主導する人工衛星の点検、修理、寿命延長などの軌道上サービスが含まれる。静止衛星への燃料補給についても、衛星群の運用効率や柔軟性を高める有望な事業機会として示されている。
スカパーJSATは、長年にわたる衛星運用の経験に加え、多数の通信衛星や地上インフラ、世界的なネットワークを持つ。これらの事業基盤とアストロスケールの軌道上サービス技術を組み合わせ、実際の衛星運用者の需要を反映した商業サービスの構築を目指す。
MOUによる協力分野の検討にとどまらず、出資を通じた資本関係を伴う提携であり、軌道上サービスの商業化に向けた重要な取り組みである。※21
MOU・提携から見えるアストロスケールの事業戦略
軌道上サービスに必要な技術を外部連携で構築
軌道上サービスを実現するには、対象物への接近・捕獲技術だけでなく、ロボットアーム、衛星推進、宇宙物体の監視、打ち上げ、地上運用など、幅広い技術が必要になる。
アストロスケールは、Airbusのロボットアーム、Bellatrix Aerospaceの推進系、HEOやDigantaraの監視技術、Exotrailの軌道間輸送機など、外部企業が持つ技術との連携を進めている。
すべての技術を自社内で開発するのではなく、自社が強みとするランデブー・近傍運用や捕獲技術を中心に、必要な機能を外部から組み合わせる戦略である。

技術開発と並行して市場・制度を形成
デブリ除去では、技術が完成しても、誰が費用を負担するのか、他者が所有する物体を誰の許可で除去するのかといった問題が残る。
そのため、ニュージーランド政府とのMOUやノーサンブリア大学との研究では、技術だけでなく、政策、法制度、費用、衛星の運用終了に関する基準も対象となった。
軌道上サービスは市場形成の途上にあり、技術開発と並行して、必要な制度や費用負担の仕組み、商習慣を整える必要がある。政府機関や研究者との協力は、将来の市場環境を形成するうえで重要となる。
MOUを共同開発や受注につなげる
MOUは将来の受注を保証するものではなく、実際にVirgin OrbitとのMOUのように、締結時に示された計画が実現しなかった事例も存在する。
一方、SSTLではELSA-d用衛星の供給契約、Airbusでは100個を超えるドッキングプレートの採用、Exotrailでは軌道離脱ミッションの開発契約へ進んだ。
そのため、MOUの件数だけでアストロスケールの売上や受注を評価することは適切ではなく、締結後に共同研究、製品採用、実証、受注へ進んだかを継続的に確認する必要がある。
さいごに
アストロスケールグループは、2026年7月までに、公表ベースで12件のMOUを締結している。
初期のMOUはデブリ除去技術や衛星の運用終了に関する研究が中心であったが、近年は宇宙領域把握、衛星推進、軌道間輸送、衛星の寿命延長、人工衛星リースなどへ対象が広がっている。
SSTL、Airbus、Exotrailのように、MOUから製品供給や開発契約へ進んだ事例も出てきており、今後は、DigantaraやBellatrix Aerospaceとのインド市場開拓、HEOとの宇宙監視、SMFLグループとの人工衛星リースなどが、具体的な契約や実証ミッションへ進むかが注目される。
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参考
※7:AirbusとのMOU、ドッキングプレート採用に関する公式発表
※10:HEOとのMOUに関する公式発表
※11:ExotrailとのMOUに関する公式発表、開発契約に関する公式発表
※14:アストロスケールUK、ELSA-M軌道上実証の最終段階の契約を獲得
※16:アストロスケール英国、 BAE Systemsと軌道上改修とアップグレード技術開発で循環型宇宙経済の基礎を築く
※18:宇宙の軌道上での人工衛星給油口接続システムをアストロスケールと共同開発
※19:アストロスケールとFusic、コーポレートパートナーシップを締結














