日本版スターリンク「J-LEO」とは|スマホと直接通信を支える低軌道衛星インフラを整備へ
©Space Connect

近年、低軌道衛星を活用した通信サービスが世界的に拡大するなか、日本でも「J-LEO」と呼ばれる低軌道衛星インフラ整備事業が進められている。

本記事では、J-LEOの概要や注目される背景、想定される活用分野などについて解説する。

J-LEOとは

J-LEOとは「日本版スターリンク」をつくる事業!?

J-LEOとは、総務省が進める「自律性確保に向けた低軌道衛星インフラ整備事業」のことである。

本事業の目的は、今後の社会経済活動を支える基盤となる低軌道衛星通信サービスについて、日本国内での運用・管理体制を確保すること。低軌道衛星コンステレーションにより、スマートフォンなどの端末と衛星を直接つなぐ衛星ダイレクト通信サービス(Direct to Device)を担う民間事業者に対し、衛星コンステレーションの構築に必要な衛星や地上設備の整備等を支援する。

衛星ダイレクト通信サービス(Direct to Device)の仕組み。スマートフォン、スマートウォッチ、車載機器・IoT端末が衛星と直接つながり、山間部・離島・海上など基地局が届きにくい場所でも通信できることを示す図。
衛星ダイレクト通信サービスの概要 ©Space Connect

こうした仕組みを国内で整備する点で、J-LEOは、いわば「日本版スターリンク」をつくる事業ともいえる。

SpaceXのスターリンク(Starlink)は、世界最大級の低軌道衛星コンステレーションを活用し、衛星経由のインターネット接続を提供する代表的なサービスである。低軌道衛星通信の実用化と市場拡大を世界的に後押ししてきた。さらに、既存のLTE対応スマートフォンを衛星経由で通信可能にする衛星ダイレクト通信サービスも展開している。

J-LEOは、こうした衛星ダイレクト通信を日本が自ら運用・管理できるようにするための事業であるのだ。

公募・審査方式の補助事業として進められている

J-LEOは、新規事業として令和7年度補正予算で1,500億円が計上された。あらかじめ決まった事業者に補助金を交付する制度ではなく、民間事業者から提案を募り、審査を経て採択事業者を決める公募型の補助事業となっている。

事業に求められる要件は以下の通り。

応募要件①日本の法律に基づく法人格を有し、国内に主たる事業所を有すること。
②本件事業の遂行に必要な技術的能力、実施体制及び財務基盤を有すること。
公募に係る予算最大1,480億円限 補正予算(1,500億円)
公募期間令和8年3月30日(月)- 令和8年5月29日(金)正午
採択(内示)令和8年6月末頃
一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会のHPから引用

基金設置法人は、一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)である。CIAJは、総務省からJ-LEOに係る補助事業者として決定を受けており、デジタルインフラ整備基金を財源として、実際に事業を行う民間事業者に経費の一部を助成する役割を担っている。

今後は、CIAJが応募書類を審査し、事業者を採択する流れで、内示の発表は2026年6月末と見込まれている。

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なぜJ-LEOの整備が急がれるのか

日本が自律的に使える衛星通信インフラの必要性

国がJ-LEOの整備を急ぐ背景には、低軌道衛星通信サービスの重要性が世界的に高まっていることがある。

現在、低軌道衛星通信の分野では、海外企業によるサービスが先行している。たとえばスターリンクは、現在約9600機の低軌道衛星を活用して通信サービスを提供しており、山間部や海上など、地上通信網が届きにくい場所でのインターネット接続手段として存在感を高めている。

こうした海外衛星通信サービスは、日本にとっても有用な選択肢ではあるが、一方で、重要な通信インフラを海外事業者に大きく依存することには課題もある。一つは、サービスの継続方針、通信エリア、通信の優先順位、運用上の判断などを日本側だけで決められない場合がある点だ。

これは平時であれば大きな問題にならなくても、戦時や安全保障上の緊急時には、通信インフラをどのように維持し、どの利用者を優先するかを海外企業に左右される恐れがある。

そのため、J-LEOでは、日本国内で運用・管理される低軌道衛星通信インフラを整備することが重視されている。海外サービスを排除するという意味ではなく、海外サービスも活用しながら、日本として自律的に使える通信インフラの選択肢を持つことに意味がある。

災害時通信インフラとしての重要性

J-LEOの整備が急がれるもう一つの大きな理由は、災害時の通信手段を強化する必要があるためである。

日本は地震、台風、豪雨、土砂災害などの自然災害が多い国であり、大規模災害が発生すると、基地局の停電、光ファイバーの断線、通信設備の損傷などによって、携帯電話やインターネットが使いにくくなることがある。

このような状況で、衛星を経由した通信手段を確保できれば、地上ネットワークが被災した地域でも、安否確認や緊急連絡、自治体・医療機関・インフラ事業者の情報共有に活用できる可能性がある。

特に、スマートフォンと衛星を直接つなぐ衛星ダイレクト通信が実現すれば、専用の衛星通信端末を持っていない人でも、一定の条件下で通信手段を確保しやすくなる。

もちろん、衛星ダイレクト通信だけですべての通信需要をまかなえるわけではないが、地上通信網が使えない場面で最低限の通信手段を確保できることは、災害対応において大きな意味を持つ。

災害時通信インフラとしてのJ-LEOの重要性を示す図。地震・台風・豪雨で基地局の停電、光ファイバー断線、通信設備の損傷が発生した際に、低軌道衛星コンステレーションが日本各地のスマートフォンや避難所を補完し、安否確認、緊急連絡、自治体・医療機関などとの情報共有を支える仕組み。
災害時通信インフラとしてのJ-LEOの重要性 ©Space Connect

経済安全保障上の意味

J-LEOは、経済安全保障の観点からも重要な事業である。

日本では近年、クラウド、ソフトウェア、情報サービスなどの海外サービス利用が拡大しており、海外サービスへの支払いが海外からの受け取りを上回る「デジタル赤字」が、日本の産業競争力や経済安全保障を考えるうえで重要な論点になっている。

この問題は、単に海外サービスを使うこと自体が悪いという話ではなく、優れた海外サービスを活用することは、企業活動や消費者の利便性を高める面がある一方で、社会や産業を支える基盤技術の多くを海外企業に依存し続けると、日本国内にデータ、ソフトウェア、運用ノウハウ、収益が蓄積されにくくなる

低軌道衛星通信も、この流れと無関係ではない。スマートフォンと衛星を直接つなぐ通信が普及すれば、衛星通信は一部の専門用途に限られたサービスではなく、社会を支えるデジタルインフラの一部になっていく可能性がある。

そのとき、衛星通信インフラを海外サービスだけに依存していると、これまで以上にデジタル赤字を出すことになり、経済安全保障上の問題になる可能性がある。

その意味でJ-LEOは、日本がデジタルインフラの自律性をどこまで確保できるかを問う事業でもあり、日本の通信基盤と産業競争力を守るという観点でも重要な意味を持っている。

報道で有力候補とされる2つの陣営

J-LEOでは、公募要領で採択数は1件とされている。採択された事業者またはコンソーシアムが、日本国内で運用・管理される低軌道衛星通信インフラの整備を担うことになる。

現時点で応募事業者名は公式には公表されていないが、報道ではKDDIとSpaceXのスターリンク陣営、楽天モバイルとAST SpaceMobile陣営が有力候補として取り上げられている。

これは公式発表ではなく報道ベースの内容であるため、最終的に別の事業者やコンソーシアムが採択される可能性もある。

KDDI×SpaceXのスターリンク陣営

KDDI×スターリンク陣営の特徴は、すでに日本国内で衛星とスマートフォンの直接通信サービスを開始している点にある。

KDDIは、SpaceXのスターリンクを活用した「au Starlink Direct」を提供しており、対応するauスマートフォンがスターリンク衛星と直接つながることで、au 5G/4G LTEのエリア外でも通信できる仕組みを整えている。

現在のサービスは、テキストメッセージの送受信、位置情報共有、緊急地震速報や津波警報、Jアラートの受信などが中心であり、音声通話や動画視聴のような大容量通信というよりは、圏外エリアや緊急時に連絡・情報取得を補う用途が中心である。

この陣営の強みは、実装スピードと衛星インフラの規模である。スターリンクはすでに大規模な低軌道衛星コンステレーションを構築しており、SpaceXは衛星の量産や打上げも自社で担っているため、サービス展開のスピードや衛星網の拡張力に強みがある。

一方で、スターリンクの衛星網は米国企業であるSpaceXが構築・運用しているため、J-LEOの採択対象として考えた場合、日本側がどこまで運用・管理に関与できるのかが重要な論点になる。

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楽天モバイル×AST SpaceMobile陣営

楽天モバイル×AST SpaceMobile陣営の特徴は、スマートフォンと衛星を直接つなぐブロードバンド通信を前面に出している点にある。

楽天モバイルは、衛星ダイレクト通信サービスを開発する米AST SpaceMobileと連携し「Rakuten最強衛星サービス Powered by AST SpaceMobile」の実現を目指している。

楽天モバイルとAST SpaceMobileは、2025年4月に日本国内で低軌道衛星と市販スマートフォンを直接つなぐビデオ通話試験に成功しており、衛星とスマートフォンを使った本格的なモバイル通信の実現に向けた動きとして注目されている。

この陣営の強みは、通信機能の将来性である。音声通話、ビデオ通話、データ通信を含む、より広い用途を見据えた衛星ダイレクト通信サービスの開発を進めている。

一方で、スターリンクと比べると、衛星コンステレーションの展開規模ではまだ途上にあり、日本全国で安定したサービスを実現するには、今後の衛星量産、打上げ、地上設備、運用体制の整備が重要になる。

楽天モバイル×AST SpaceMobile陣営は、スマートフォン直接通信の機能面で強い訴求力を持つ一方、その構想を全国規模の実用サービスへ広げるための整備スピードと事業継続性が焦点になる。

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さいごに

J-LEOは、日本が衛星通信インフラをどこまで自律的に持てるかを問う重要な取り組みだ。

通信性能だけでなく、日本国内でどこまで運用・管理できるのか、災害時や安全保障上の緊急時に実効性のある通信手段として機能するのか、そして事業として継続できる体制を構築できるのかが重要になる。

今後、採択事業者が決まれば、日本の衛星ダイレクト通信は実証段階から本格的なインフラ整備の段階へ進むことになる。J-LEOがどこまで実用的な通信基盤として成長できるのか、引き続き注目される。

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参考

自律性確保に向けた低軌道衛星インフラ整備事業 - 総務省

自律性確保に向けた低軌道衛星インフラ整備事業(J-LEO)- CIAJ

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