
米航空宇宙局(NASA)は2026年3月24日、月周回拠点「ゲートウェイ(Gateway)」の計画を凍結し、月面基地の建設に注力する方針を発表した。
本記事では、今回の方針転換の背景と、今後の宇宙開発の方向性について整理する。
目次
ゲートウェイ計画の凍結と戦略転換
月周回拠点から月面インフラ重視への転換
ゲートウェイは月周回軌道を回る拠点、いわば“月版の国際宇宙ステーション(ISS)”である。宇宙飛行士や物資を月面へ輸送するための中継拠点として設計されていた。
これまで米国を中心に国際協力の枠組みが構築されており、日本も機材提供などを前提にMOUなどの契約を行い関与を進めてきた。
しかし今回、その構想は凍結され、月面に直接インフラを構築する方針へと転換されることとなった。NASAは今後7年間で約200億ドル(約3兆円)を月面基地の整備に投じるとしており、限られた予算を月周回拠点ではなく、月面インフラに集中させる判断を下している。
またNASAは、ゲートウェイ向けに進めてきた機材や国際協力の枠組みについても、活用可能なものは月面基地や他の計画に生かす考えを示している。
背景にある政策・技術要因
ゲートウェイは従来、月探査を支える月周回拠点であると同時に、将来の有人火星探査に向けた技術実証や運用経験の蓄積の場としても位置づけられてきた。一方、トランプ政権が2025年に示した宇宙政策では、火星探査も引き続き重要目標に据えつつ、まずは2028年までの月帰還と恒久的な月面プレゼンスの確立を強く打ち出しており、NASAの重点も月面側へ寄る形となったと考えられる。
また、SpaceXのStarshipのような大型輸送手段の構想が進む中、月周回拠点を経由せずに月面へ直接アクセスする選択肢への注目も高まっている。加えて、NASAはGatewayの現在の構想について、主要目標の達成に必須ではないとの認識を示しており、結果としてGatewayの優先度は相対的に低下したとみられる。
月面基地構築の3段階プロセス
NASAは、月面基地の構築に向けて段階的なアプローチを採用する。本章では、以下の具体的な3段階プロセスを整理する。

① CLPSによる無人輸送と基盤技術の確立
初期段階では、「商業月面輸送サービス(CLPS)」を活用し、民間企業に月面輸送を委ねる。
ここでは、探査機器やローバーを送り込み、月面での移動手段や発電といった基盤技術の実証を行う。いわば「月面インフラの前段階」としての技術検証フェーズである。
このCLPSには複数の民間企業が参画しており、日本のispaceもその一員として月面輸送サービスの提供を目指している。
② 仮拠点の構築と有人活動の開始
次の段階では、月面に一時的な居住が可能な仮拠点を設置し、継続的な有人活動を開始する。
ここでは、JAXA×TOYOTAが開発を進める「有人与圧ローバー(ルナクルーザー)」の活用も想定されている。このローバーは月面での移動手段だけではなく、宇宙服を着用せず長期間の滞在を支える「移動型居住空間」としての役割も持つ。
この段階で、月面は「短期滞在」の場所から「長期活動」できる場所となる。
③ 恒久的な月面基地への移行
最終段階では、月面にインフラを整備し、恒久的な基地として運用する。
これにより、月は一時的な探査対象ではなく、継続的に利用される拠点へと変わる。電力供給、通信、輸送といったインフラが整備されれば、将来的には商業利用も視野に入るだろう。
さらに、月面での資源利用(ISRU:現地資源利用)の観点でも、水資源からの燃料生成や建材の現地調達が可能になれば、地球からの輸送コストを大幅に削減できる。
火星探査への展開
NASAは、月面開発と並行して火星探査に向けた技術開発も進める方針を示している。
具体的には、2028年までに原子力推進システムを搭載した無人宇宙船を火星へ送り、宇宙空間における推進技術の実証を目指す。
あわせて、ヘリコプター型の探査機を火星へ投入する計画も明らかにされた。これは火星表面における機動的な観測能力を高めるものであり、将来的な有人探査に向けた基盤技術の一つと位置付けられる。
さいごに
今回のNASAの方針転換は、宇宙開発の重心が「軌道上の拠点」から「月面の持続的利用」へと移行することを示すものといえる。
ゲートウェイ向けに進められてきた技術や機材についても、月面基地や関連計画への転用が検討されており、既存の開発成果を活かしながら、より実運用を見据えた体制へ再編が進む可能性がある。
日本でも現在、宇宙関連企業による採用が広がっている。宇宙業界での仕事に関心のある方は、業界特化型の人材マッチングサービス「スペジョブ」も参考にしてほしい。

参考
NASA Unveils Initiatives to Achieve America’s National Space Policy(NASA, 2026-03-25閲覧)








