H-ⅡAロケット最終号機、24年の歴史を締めくくるGOSAT-GWミッション完遂!
©Space Connect

2025年6月29日、種子島宇宙センターからH-ⅡAロケットの最終号機となる50号機の打上げが実施され、温室効果ガスや水蒸気などの観測を目的とした地球観測衛星「GOSAT-GW(愛称:いぶきGW)」が無事、所定の軌道に投入された。

本記事では、H-ⅡAロケット50号機の打上げ結果を振り返るとともに、その最後のミッションとなったGOSAT-GWが社会でどのように役立つのかを解説する。

打上げ結果の詳細

H-ⅡAロケット50号機の打上げは予定通り2025年6月29日午前1時33分03秒に実施された。

ロケットは安定した上昇を続け、計画通りに進行。打上げから16分07秒後には観測衛星「GOSAT-GW」が所定の軌道へと投入され、ミッションは成功を収めた。

その成功の背景には、長年にわたって培われてきた運用体制と対応力があった。

その一つの例が、打上げ前点検におけるわずかな異常の検出に対する、JAXAと三菱重工の迅速かつ冷静な対応である。

打上げ前点検において、第2段機体側の電気系統に規定内ながらも電圧変動が検出されたため、JAXAおよび三菱重工は、打上げを一時延期。このトラブルの原因を第2段電力分配器(PDB2)[*1]における端子の接触抵抗のばらつきによるものと迅速に推定し、作業不良や部品の不具合ではないことを確認した。

そのうえで、問題のPDB2を良品に交換し、機能点検を経て安全性を確保。また同種機器である第1段電力分配器(PDB1)に電圧変動がないことも重ねて確認した。

こうした慎重な判断と万全の準備が節目となるミッションを支え、H-ⅡA最終号機の打上げを成功へと導いたのである。

なお、今回の打上げにより、H-ⅡAは2001年の初号機から24年間で50の全ミッションを完了し、成功率は98%を記録。50号機は最終号機としての任務を確実に果たし、有終の美を飾った。

打上げ直後の記者会見で、文部科学省 研究開発局長の堀内義規氏は次のように語り、その歩みを振り返った。

H-ⅡAロケットは着実に実績を積み重ね、高い信頼性を示すことができましました。我が国の宇宙開発の歴史の中で記憶にしっかり残るロケットだったのではないでしょうか。

H-ⅡAは衛星を失うことなく所定の場所に入れ続けてくれたのはもちろん、また年間の打上げ計画を調整する際など、計画通りに打ち上げられる運用の確実性には助けられました。宇宙政策の面からも頼りになるロケットでありました。

また、JAXAの理事長を務める山川宏氏も、次のように思いを述べた。

GOSAT-GW(いぶきGW)がミッションの実現にむけ一歩を踏み出せたことに安堵しています。H-ⅡAロケット50号機は最終号機として役割を全うしてくれました。開発機関であるJAXAとしても非常に感慨深く感じています。

[*1]PDB2:外部電源および電池から供給される電力を、第2段エンジンおよび第2段機体内の搭載機器に分解する装置

GOSAT-GWの概要と期待される効果

H-ⅡAの最後の旅で届けられたのは、温室効果ガスと水循環の両方を広域かつ高精度で観測できる衛星「GOSAT-GW(いぶきGW)」だ。

GOSAT-GWは所定の軌道に投入された後、安定に飛行。太陽電池パドルも正常に展開され、所定の電力の発生が確認されている。今後、約3か月の初期運用を経て定常運用が実施される予定だ。

では、同衛星は今後どのようなことに役立つのか。ここからは、GOSAT-GWの概要と社会に与えるインパクトについてご紹介する。

GOSAT-GWとは

GOSAT-GWは、環境省、国立環境研究所(NIES)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で実施するプロジェクト。

2009年に打上げられた「いぶき」および2018年に打上げられた「いぶき2号」の温室効果ガス観測ミッション、そして2012年に打ち上げられた「しずく」の水循環変動観測ミッションを発展的に継続するものであり、これらの衛星の技術を引き継いだ以下の2つのセンサが搭載されている。

  • GOSATシリーズと呼ばれる温室効果ガスを観測する「温室効果ガス観測センサ:TANSO」
  • AMSRシリーズと呼ばれる海面水温など水循環に関する「高性能マイクロ波放射計:AMSR」
GOSAT-GWの概要 ~温室効果ガスを観測するTANSOセンサと地球の水循環を観測するAMSRセンサ
GOSAT-GWの概要 ©Space Connect

GOSAT-GWがもたらすインパクト

観測1:TANSOセンサ(GOSATシリーズ)

TANSOセンサは、地球全体の二酸化炭素(CO₂)、メタン(CH₄)、二酸化窒素(NO₂)の濃度を測定する装置だ。

これまで温室効果ガスの観測は地上観測に頼ってきたが、ガスの濃度は高度によって異なるため、地上観測のみで大気全体の正確な濃度を把握するのは困難であった。

こうした課題を解決できるのがGOSATシリーズである。GOSATは宇宙から地球を見下ろす形で観測することで大気全体の温室効果ガス濃度を把握。地球の大気全体の二酸化炭素とメタンの平均濃度を観測できる唯一の衛星として約16年間にわたり科学的データを提供し続けている。

その最新版となるのが、GOSAT-GWに搭載された「TANSO-3」である。主なミッションは以下の通り。

  • 地球全大気の二酸化炭素およびメタン濃度の継続モニタリング
  • 温室効果ガスを衛星データで観測し、各国の排出量を推定。パリ協定に基づき各国から国連に報告されている温室効果ガスの排出量と値の比較調査
  • 温室効果ガスの大規模排出源(都市圏、発電所、永久凍土など)の監視をすることにより、気候変動予測の精緻化

今回GOSAT-GWに搭載されたTANSO-3センサでは、観測手法が従来の”点”から”面”へと大きく進化した。

これまでは直径10㎞の視野を持つセンサが“個別の地点”を観測する形式であったが、GOSAT-GWでは広域観測モード(範囲911km・解像度10km角)と精密観測モード(範囲90km・解像度3~1km角)を使い分けながら、全球を面的に観測することが可能となったのである。

これにより、GOSAT-GWではGOSAT-2の数百倍程度に相当する観測データ数を取得。国・地域・企業の排出量をより正確に把握することができる。

GOSATシリーズの進化 ~点の観測から面の観測へ GOSAT-GWでは従来の数百倍のデータを観測
GOSATシリーズの進化(内閣府HP内資料より引用)

さらに、GOSAT-GWでは従来の二酸化炭素(CO2)、メタンに加え、新たに二酸化窒素(NO2)を観測。

NO2は化石燃料の燃焼によりCO2とともに排出されるため、これらを同時に測定することで、人為起源CO2の排出源特定や排出量の推定精度向上が期待される。

観測2:AMSRセンサ(AMSRシリーズ)

GOSAT-GWにはもうひとつ、気候変動の理解と日常生活への応用の両面で重要な役割を担う観測装置がある。それが、水循環の変化を捉えるAMSRセンサだ。

高性能マイクロ波放射計AMSRシリーズは、2002年から20年以上にわたり「地球上の水の動き」を観測し続けてきた。

海面水温、海上風速、土壌水分量、積雪深、海氷密接度といった“水の動き”のデータは、気象災害の予測精度を高め、地球規模の気候メカニズムを解明するうえで非常に重要であり、予報、漁業、航行支援、気候変動解析など幅広い分野に活用されている。

今回GOSAT-GWに搭載された「AMSR3」のミッションは以下の通り。

  • 水循環変動の把握と予測:気候変動に伴う水循環変動を把握し、社会生活への影響予測と対策に役立てる
  • 実利用分野への社会実装:
    • 気象:台風や集中豪雨などの予測精度向上
    • 水産:海象・気象情報サービス「エビスくん」での海面水温情報の提供
    • 航行支援:海氷密接度(対象海域における海面全体に占める海氷の割合)や海面水温の情報を提供し、船舶の安全運航に関わる海状・海氷情報作成や最適航路の選択に貢献

AMSR3では「しずく」に搭載された「AMSR2」から観測可能な波長帯が増強され、高緯度地域の降雪量・降水量の観測も可能となる。これにより、地球温暖化に伴う海面水位上昇の予測精度向上への貢献が期待されている。

さらに、高度4~7㎞というより高い高度の水蒸気も観測できるようになり、豪雨・台風の範囲や進路、盛衰などの予報精度が向上される予定だ。

さいごに

H-ⅡAロケットは静止衛星から地球観測衛星、国際協力プロジェクトまで、数多くの重要ミッションを支えてきた存在であり、その信頼性は国内外から高く評価されている。

そして、その後継機にあたるH3ロケットは、2024年に打ち上げられた2号機以降、4機連続で成功を収めており、次世代の基幹ロケットとしての地位を着実に築きつつある。

特に、次に打上げが予定されているH3ロケット6号機では、日本の液体ロケットとしては初となる補助の固体ブースターを搭載しない形態での打上げが計画されている。

6号機の打上げは、H3の柔軟な構成力が試されるミッションとなる。近々、「1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT:Capting Firing Test)」と呼ばれる大規模な地上燃焼試験が実施される予定だ。

今回の経験を含め、技術的な知見や教訓はH3に確実に継承されていく。H-ⅡAの遺産を土台として、日本の宇宙輸送は次の時代へと歩みを進めていくことになる。

参考リンク

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

フォローで最新情報をチェック

おすすめの記事