シンク・ネイチャーによる「だいち2号」を活用した生物多様性を評価するサービスとは?
©シンク・ネイチャーの画像を使用

2023年12月13日、株式会社シンク・ネイチャーは、宇宙航空研究開発機構(以下:JAXA)が行う衛星データ(だいち2号:ALOS-2)を活用した事業化実証プロジェクトに選定されたと発表した。

この事業化実証は地球観測衛星である「だいち2号」のアーカイブデータを用いた事業の成立性を実証する取り組みだ。JAXAが2021年度から実施しており、民間主導の衛星データ利用の事業化を目指している。

本記事では、シンク・ネイチャーの事業背景と、同社による衛星画像の活用事例についてご紹介する。

シンク・ネイチャーとは

シンク・ネイチャーは、自然関連データとAIを活用して「自然の価値を見える化」することで、生物多様性を維持し、必要に応じて回復させるという課題に取り組む企業。

2019年に設立された、卓越した研究実績を持つ研究者が集まる琉球大学発のスタートアップである。

同社の強みの1つは日本最大の生物多様性ビッグデータだ。

論文、標本、郷土史等の記録から生物分布情報等をビッグデータ化しており、AI等の最先端技術を用いた予測やシナリオ分析を実施。

事業としては、行政向けには保全政策の立案サポート等を行うほか、企業向けにはCSR活動の効果検証や、生物多様性に配慮した事業の提案等を行っている。

シンク・ネイチャーが解決する課題

同社のキーワードの1つに「生物多様性」とあるが、現在、ビジネスにおける生物多様性への対応の機運が急速に高まっている。

その理由の一つに、2030年までに生物多様性の消失に歯止めをかけ、生物多様性を回復の軌道に乗せるネイチャーポジティブ(自然再興)と呼ばれる国際目標がある。

ネイチャーポジティブの図示 ©シンク・ネイチャー

この考え方が世界的に、そして日本国内にも少しずつ広まっている。

生物多様性が損失した場合、約44兆ドル(世界のGDPの半分)が崩壊の危機にあると言われるほど、経済も自然資本に大きく依存している。

企業はネイチャーポジティブに取り組むことにより、環境保護に貢献できるだけでなく、世界的に拡大している環境・社会・ガバナンスの3つの要素を考慮するESG投資の増加が期待できる他、ブランドイメージの向上企業価値の向上などのメリットが得られる。

一方で、これまでは生物多様性の消失や回復を数値的に定量するのが困難であるという課題があった。

シンク・ネイチャーは上記の難題を生物多様性ビッグデータと生態学(生物と環境、または生物同士の相互作用を理解しようとする学問)の理論を基に様々なデータ分析手法を駆使することで解決。

自然保全・再生の定量的な効果量測定を可能にし、30by30[*1]やOECM[*2](生物多様性の保全に関連する取り組み)の実効性の強化を提唱してきた。

今回は、だいち2号の事業化実証において「生物多様性へのインパクト評価のための鉱山露天掘り状況の空間可視化」というテーマを実施。

露天掘りは地表または地表近くの鉱石を採掘する方法で、大型機械で広い範囲の土地を掘削し、大量の鉱石を採掘する。

そのため、熱帯林などの森林生態系の地上部(植生)と地下部(土壌、根などのバイオマス)の全てを剥奪してしまい、自然へのインパクトが甚大であるのだ。

どのようなプロジェクト?

同社は今回のプロジェクトにおいて、多くの固有種や稀な生物種が生息するインドネシアのニッケル鉱山に焦点をあて、だいち2号のデータを用いて、ニッケル露天掘りによる生物多様性ロスを高精度で可視化するシステムを開発する。

だいち2号は、森林の増減や違法伐採の様子を監視できる衛星だ。可視光データ(一般的な衛星写真)のように色味を対象とするのではなく、森林などの多い地域も含む地表面の変化を観測

そのため、露天掘りおよびその周辺の森林等地域の変化に対する検出力が高いと期待されている。

そして、同社が有するビッグデータやデータ分析技術を基に、空間ごとの採掘圧(地層にき裂が生じる圧力)とその推移を生物多様性指標と重ねて、ニッケル採掘に伴う生物多様性の消失量、野生生物の絶滅リスク、生態系の炭素貯留機能の劣化量などの評価を行うのだ。

さらに、事業改善(掘削方法の変更や、開発エリアの自然回復に関するアクション考案など)、自然関連の情報開示に向けた準備など、鉱山開発をネイチャーポジティブに向かうアクションプランを探索するプロセスを実施。

これにより、環境への影響を抑えつつ、鉱山を開発するために必要なツールを開発するとのことだ。

さいごに

いかがでしたか。

非鉄金属の採掘は環境破壊のリスクが高まっており、それが自然環境に与える影響の把握も遅れている。

特に、ニッケルやリチウム​​などのレアメタルは、脱炭素取り組みに伴う急進的なEV化などによって、採掘量が増加しており、喫緊の課題だ。

今回のシンク・ネイチャーの事業はこの課題をダイレクトに解決する手段となるだろう。

同社は生物多様性のビックデータとその解析技術に強みを持っており、それらと衛星データを組み合わせることによって、今回のようなサービスの開発に至った。

衛星データはその他の様々なデータと組み合わさることで、より幅広いサービスが生まれていく。

今後もどのようなサービスが開発されていくのか、注目である。

注釈

[*1]30by30

2030年までに生物多様性の損失を食い止め、 回復させる(ネイチャーポジティブ)というゴールに向け、 2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標

[*2]OECM

国立公園などの保護地区ではない地域のうち、生物多様性を効果的にかつ長期的に保全しうる地域

参考

JAXA衛星データ(だいち2号)を活用した事業化実証に採択

シンク・ネイチャー HP

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