2024年11月12日、スペースワン株式会社は、複数の事業者と打ち上げ輸送サービス契約を締結したことを発表した。同社は12月14日に、カイロスロケット2号機によって計5機の衛星を打ち上げる予定である。
本記事では、今回同社と契約を締結した事業者と、打ち上げる衛星のミッションについてご紹介する。
目次
スペースワンとカイロスロケット
スペースワン株式会社は、小型衛星用の宇宙輸送サービスの開発・事業化を行う企業である。
同社はキヤノン電子株式会社と、株式会社IHIエアロスペース、清水建設株式会社、株式会社日本政策投資銀行等の共同出資により設立された。
2019年に小型ロケットを打ち上げる自社専用射場の建設地に和歌山県串本町を選定し、日本初の民間企業が建設する射場の工事に着工。射場の建設と小型の固体燃料ロケット「カイロス」の開発を進めてきた。
そして2024年3月13日に、同射場「スペースポート紀伊」にて、内閣衛星情報センターの「短期打上型小型衛星」を搭載したカイロスロケット初号機の打ち上げを実施。
軌道投入は叶わなかったものの、国内のロケットベンチャーによる衛星打ち上げへの挑戦は初となり、大きな注目を集めた。
2号機で打ち上げる衛星
カイロスロケット2号機では国内外から受注した計5機の衛星を打ち上げる。そのうち1機の衛星の情報については現時点では非公開となっている。
ここからは、同ロケットにて衛星を打ち上げる企業とその衛星について紹介する。
Space Cubics
合同会社 Space Cubics は、宇宙用コンピュータの開発を専門とする企業。
民生コンピュータの開発者と JAXA 職員がタッグを組んで立ち上げた初の「共同設立型 JAXA ベンチャー」であり、宇宙空間をはじめとする過酷な環境で動作するコンピュータの開発に特化している。
特徴は以下の3つ。
- コスト削減と信頼性:一般的に放射線耐性が高い部品が搭載されたコンピュータは高価格でありながら宇宙での全てのトラブルを解決できるわけではないが、Space Cubicsは低コストで宇宙機器に必要な高い信頼性を持つ製品を提供
- 耐障害性:ほとんどの高信頼性コンピュータには耐障害性機能が標準で備わっていないが、Space Cubicsはコンピュータの複数台同時稼働やデータの複数個所保存し、障害が起きても速やかにデータを復旧
- 使いやすさ:Space Cubicsはソフト/ハードウェアのカスタム開発やコンサルティング等、宇宙用コンピュータと宇宙開発に関するトータルサポートを提供可能であり、ユーザーはミッションに必要な機能の開発だけに専念可能
同社は自社製品の Cubesat 用コンピュータ「SC-OBC Module A1」をはじめ、衛星、宇宙探査機、宇宙用ロボット、といった様々な機器向けにコンピュータを開発した実績がある。
今回は3Uサイズ(10×10×30cm)のキューブサット「SC-Sat1」で、搭載コンピュータ「SC-OBC Module A1 」の耐障害性機能を実証するとのことだ。
Taiwan Space Agency(TASA)
Taiwan Space Agency(TASA)は、宇宙計画の実行、宇宙インフラの構築、宇宙産業の発展を推進する、台湾における唯一の公的宇宙機関。
現在、低軌道上では、光学リモートセンシング衛星「フォルモサット 5 号」、気象観測衛星「フォルモサット 7 号」および「トリトン」衛星を運用している。
今回どの衛星を打ち上げるかについては、現在の段階では公開されていない。
TASA は今後も、「フォルモサット 8 号」や「フォルモサット 9 号」のプロジェクト、低軌道通信実験衛星、および軌道ロケット計画など、さまざまな宇宙プロジェクトを推進し、台湾の宇宙技術力の強化と宇宙産業の発展に貢献していくとしている。
テラスペース
テラスペース株式会社は、2020 年に創業した、超小型衛星を開発する企業。低価格、短納期でご提供できる、汎用衛星の量産を目指している。
今回は、同社にとって初めての超小型衛星「TATARA-1」を打ち上げる。打ち上げ後は、以下の2つの「人工衛星の軌道上サービス」の実証実験を実施予定だ。
- 人工衛星軌道投入サービス:軌道上で超小型衛星を分離することで、ロケットからの放出だけでは賄いきれなかった多様な投入軌道ニーズに対応
- ホステッドペイロードサービス:依頼を受けた宇宙用部品、材料、デバイス等を搭載し、軌道上実証や運用を実施
人工衛星軌道投入サービスの実証については、衛星にはキューブサット用放出機ポッドを搭載しており、軌道上で動作実証を行う予定となっている。
また、ホステッドペイロードサービスの実証については、醍醐寺塔頭菩提寺より依頼を受けた「宇宙寺院 劫蘊寺(ごううんじ)」や、JAXA追跡ネットワーク技術センターが開発し、佐賀県が製造した衛星レーザ測距(Satellite Laser Ranging/SLR)用小型リフレクター「Mt.FUJI」など、複数の機器を搭載しており、宇宙用部品等の軌道上実証を行うとしている。
同社は今後、これら2つのサービスを年間1回以上の頻度で提供することを目指している。
広尾学園中学校・高等学校・ラグラポ
広尾学園は、2007 年以来、「世界水準の教育」を実現する中学高校一貫校として成長してきた学校である。
毎年、宇宙天文合宿を実施し、国立天文台、JAXA の先生方や元 NASA宇宙飛行士を招聘しての講演会を行ってきており、その生徒たちの中から海外大学で宇宙工学を学ぶ卒業生が生まれ、その後輩たちが今回カイロスロケット2号機で打ち上げる人工衛星プロジェクト「ISHIKI」に参加しているという。
「ISHIKI」は、宇宙開発や将来の日本を担う次世代の育成を目的とする衛星製作プロジェクトであり、広尾学園の高校生が実際の衛星製作から打ち上げまでの一連の作業を行う。そして、彼らを支援するのが株式会社ラグラポだ。
同社は「宇宙開発の現場で使われているノウハウを⼀般企業に浸透させる」ことを目的に、製品開発や経営マネジメント、衛星打ち上げサービス等宇宙開発に関わる様々な事業を行う企業。
実際の宇宙開発の経験を持つ専門家が所属しており、特に代表の高野 宗之氏は、三菱重工業株式会社において「H-IIA ロケット」の設計・打上げ業務や、宇宙航空研究開発機構(JAXA)において「国際宇宙ステーション補給機(HTV) (こうのとり)」の開発にも従事した経験を有している。
打ち上げ概要
カイロスロケットの打ち上げ概要は次の通り。
- 予定日:2024 年 12 月 14 日(土)
- 時間帯:11:00~11:20 頃
- 予備期間:2024 年 12 月 15 日(日)から 2024 年 12 月 27 日(金)
- 場所:スペースポート紀伊(同社建設射場)
ロケットの見学は完全予約制であり、当日の販売もなしとなっている。
「カイロスロケット2号機 打ち上げ応援サイト」によると、チケット、パーク&ライド付チケットは販売終了しており、キャンセルがあった場合は再販売を実施するとのこと。
また、入場チケット付き見学ツアー(日帰り、宿泊)は販売中となっている。
モデルロケット体験付きやロケット打ち上げの特別観覧席での見学ツアー、世界遺産「熊野」の体験付き等、様々なチケットがあるので、ぜひご覧になってはいかがだろうか。
さいごに
いかがでしたか。
今回打ち上げが成功すれば、国内ベンチャーとして初めての衛星打ち上げ成功となる。
国内ベンチャーが初めて衛星の打ち上げに成功することで、小型衛星の打ち上げ市場における日本の競争力も強化され、今後の技術革新やビジネスチャンスの広がりに期待が寄せられる。
スペースワンの挑戦に注目だ。