現代戦争の要!?人工衛星が狙われたらどう守るのか

2023年1月9日、日米両政府は、宇宙空間での攻撃に対して、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条を適用する方針を固めた。

これは日本の衛星が他国から攻撃を受けることを想定した対応であり、近年のロシアと中国人工衛星を攻撃する技術の開発が発展していることに起因している。

実際にサイバー攻撃も含め、他国の衛星に攻撃実験を仕掛けたと見られる例も多数報告されており、いつ本格的に攻撃が行われてもおかしくない状況だ。

民間利用としての人工衛星の需要が増してきている昨今において、これは由々しき事態である。

この流れに伴い、日本やアメリカをはじめ各国は、衛星への攻撃に対処するための技術開発が必要となるのだが、その対処法にはどのようなものがあるのだろうか

本記事では、このような点を論点にまとめている。

宇宙開発と軍事産業

そもそも宇宙開発が戦争と強く結びついていることはご存知だろうか。

ロケットの技術は第二次世界大戦を通して発展し、宇宙開発競争は第二次大戦後のアメリカとロシアの冷戦下において、両国が自国の国力を示すために活性化した。

宇宙開発における技術力の高さは、その国の軍事力と結びつくからである。

例えば、衛星技術は偵察機を飛ばすことなく他国をスパイすることを可能にし、人や衛星を宇宙のある特定の場所に運ぶロケット技術は核兵器運搬手段として利用できる。

このように民間企業による宇宙利用・宇宙ビジネスが進む現在も、宇宙技術は世界中で軍事的な用途で利用されている。

また衛星により着目すると、地球観測衛星は他国の軍事施設の偵察に、通信衛星は戦争中の通信手段に、測位衛星は武器システムの精度向上などに用いられている。

弾道ミサイルなどの発射を感知する早期警戒衛星というものもある。

このように衛星技術は、スマートフォンの位置情報や天気予報等、民事利用として、生活を便利にしてきた一方で、軍事的にも重要な役割を担ってきたのだ。

安全保障分野における宇宙空間の利用
安全保障分野における宇宙空間の利用(※1) ©防衛省

人工衛星への攻撃方法

ではどのように人工衛星を攻撃するのだろうか。大きく分けると以下の3種類となる。

  1. 地上や空中から衛星を狙う対衛星攻撃ミサイルやレーザー
  2. 他国の衛星を妨害・破壊するキラー衛星
  3. 衛星と地上局間の通信に仕掛けるサイバー攻撃

1.地上や空中から衛星を狙うミサイル・レーザー

ミサイルやレーザーは地上や空中から衛星を攻撃するために用いられる。

ミサイルは衛星を直接打ち落として破壊し、レーザーは衛星のセンサーなどを不能にする。

レーザーの出力が低ければ衛星は回復可能だが、高出力の場合は衛星のセンサーや回路に恒久的な損傷を与えることができる。

2.キラー衛星

キラー衛星は、宇宙空間で他国の衛星を攻撃するために使用される衛星だ。

標的の衛星に接近し、ロボットアームで捕獲したり、レーザーを照射したりして機能を喪失させる。

また、対象の衛星の近辺で自己を爆破し、その際生じた破片により目標を損傷させる衛星や、サイバー攻撃を行う衛星も存在する。

3.サイバー攻撃

サイバー攻撃は、対象の人工衛星とその地上局の通信に干渉する攻撃方法である。同攻撃には以下の4つの方法がある。

  • 人工衛星と地上局の通信の妨害(ジャミング)
  • 偽の信号を発信し、地上受信機を騙す(スプーフィング)
  • 人工衛星からのデータを傍受する
  • 衛星をハッキングし、その制御を奪う

これまでは、容易に必要な道具が手に入るジャミングやスプーフィングが主流であった。

2008年にノルウェーの地上局がサイバー攻撃を受けた例では、何者かがNASAの人工衛星「Landsat」との通信を12分間妨害。

2022年には、ジャミングやスプーフィングなどのサイバー攻撃が、ウクライナのインターネットサービスである「ViaSat」と「Starlink」に対して仕掛けられた。

宇宙空間の安定的利用に対する脅威
宇宙空間の安定的利用に対する脅威(※1)©防衛省

近年では、特にサイバー攻撃など攻撃者が特定されにくい攻撃方法や、自国の衛星を損傷させる可能性のあるスペースデブリを発生させない攻撃方法の技術開発が進められている。

人工衛星の守り方

では、これらの脅威に対して、人工衛星をどのように守っていくのだろうか。

宇宙状況監視システムの強化

相手国の攻撃を未然に防ぐ方法の1つが、宇宙状況監視(SSA)システムの強化だ。

地上設置型のSSAシステムに加え、スペースデブリや他国のキラー衛星等を監視するSSA衛星を複数機打ち上げ、さらに複数国で情報共有する。

これにより、危険な状況を未然に察知し、回避することが可能となる。

令和4年版防衛白書
令和4年版防衛白書(※2) ©防衛省

日本では、2018年に監視衛星の必要性が防衛大綱や中期防で初めて打ち出され、2022年10月に、監視衛星を2基態勢で運用する方針を固めた。

1基ではセンサーの角度によって警戒範囲に限界がある。日本上空を全てカバーするには複数の衛星が必要となる。

2026年度までに1基目を打ち上げることが固まっており、防衛省はまず1基目の運用を検証し、2基目の打ち上げ時期を調整する予定だ。

2基目の衛星には、中国やロシアのキラー衛星の活動を妨害する機能の付与を検討している。

コンステレーション

低軌道上で複数の衛星が連携して様々な機能を担う、衛星コンステレーションも防衛方法の1つとなる。

コンステレーションによる利点は2点。

複数の衛星が連携することにより情報収集能力が高まる点が1つ。これにより、例えばミサイルなどの攻撃を素早く察知し、迎撃することを可能にする。

もう1つは、被害を受けた人工衛星の代わりを他の衛星が担えるという点だ。

コンステレーションは、同じ機能を有する多数の衛星がそれぞれ速いスピードで地球の周りを周回する。

そのため、コンステレーションが大きいほど、失われた衛星の分を他の衛星が補うことが可能となる。

衛星・地上局の強化

衛星本体や地上局の能力を強化することも重要だ。

とりわけサイバー攻撃に対するセキュリティ強化は、極めて重要になってくるだろう。

さらに、衛星の場合はキラー衛星に対して反撃を行う武装型衛星の開発や、防御装置を装備した衛星の開発も、検討を進めていく必要がある。

地上局に関しては、設備を拡充させて、1つの地上局がダメージを受けたとしても別の地上局で衛星との通信を確保できるような仕組みが必要だ。

さいごに

宇宙事業のビジネス化が進む現在、万が一戦争が起きた場合、多くの民間企業もそのターゲットとなり、甚大な被害が及ぶ可能性が大いに存在する。

現に、Viasatは、ウクライナに侵攻中のロシアから攻撃を受けた可能性が高いと見られている。

また、宇宙空間で衛星がミサイルなどにより破壊された場合、スペースデブリが増加し、他の衛星と衝突する可能性が高まる。

各民間企業は、宇宙産業に携わる場合、戦争と軍事産業が密接に携わっていることを念頭に置きつつ、考えうるリスクに対して、しっかりと対策を練る必要があるだろう。

参考:

※1 防衛省の宇宙分野における取組

※2 令和4年版防衛白書

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