
防衛省は2026年3月28日、航空自衛隊府中基地で「宇宙作戦団」の新編記念行事を実施した。宇宙作戦団では、従来の「宇宙作戦群」から格上げされ、人員規模が2倍以上に拡大する。
本記事では、今回の体制拡充の概要とその背景、今後の展開について整理する。
目次
宇宙作戦団の新編と体制拡充
組織拡張の過程|宇宙作戦隊から宇宙作戦団へ
自衛隊における宇宙専門部隊は、2020年に発足した「宇宙作戦隊」が起点となる。当初は約20人規模の小規模部隊としてスタートし、主に宇宙状況監視(SSA)の基礎的な運用や、関連データの収集・分析体制の構築が進められてきた。
その後、2022年には「宇宙作戦群」が新編され、部隊としての指揮・統制機能が強化されるとともに、他部隊や関係機関との連携も含めた運用体制の整備が進められた。
今回の「宇宙作戦団」への格上げは、この流れを踏まえ、宇宙領域を一つの作戦分野として本格的に扱う段階に移行したことを示すものといえる。

人員規模の倍増と今後の拡大計画
今回の新編に伴い、人員規模は約310人から約670人へと大幅に増加し、特に、人工衛星やスペースデブリ(宇宙ゴミ)の監視といった宇宙領域把握(SDA:SpaceDomain Awareness)[*1]に関する能力を強化していく。
さらに2026年度中には、航空自衛隊を「航空宇宙自衛隊」へ改編するとともに、「宇宙作戦集団」を新たに編成する計画も示されている。これは、宇宙が作戦遂行上の重要な領域となっていることを踏まえ、宇宙作戦能力を一段と強化する狙いがある。
このように、今回の新編は人員増強にとどまらず、日本の宇宙防衛体制を段階的に強化していく流れの一部といえる。


なぜ宇宙監視能力を強化する必要があるのか
宇宙インフラの重要性
現在の安全保障環境において、宇宙は通信、測位、情報収集といった基盤機能を支える不可欠な領域となっている。
例えば、衛星通信は自衛隊の部隊間連絡や災害時の通信確保に活用されており、測位衛星は航空機や艦艇の航法、部隊の位置把握に欠かせない。また、偵察衛星や地球観測衛星は、他国の軍事動向の把握や災害状況の確認などに用いられている。
こうした宇宙利用は軍事分野に限られるものではない。民間でも、カーナビやスマートフォンの地図機能、物流車両の運行管理、金融取引の時刻同期、気象観測や災害対応など、社会や経済を支える幅広い分野で衛星インフラへの依存が進んでいる。
そのため、宇宙空間の安定的な利用が損なわれれば、防衛分野だけでなく、国民生活や経済活動にも大きな影響が及ぶ可能性がある。
宇宙インフラの脅威と宇宙監視能力
宇宙監視能力は、人工衛星などの宇宙インフラを脅威から守り、安定的に運用していくうえで欠かせない基盤である。
防衛省は、宇宙空間の安定的な利用を確保するためには、宇宙物体の位置や軌道だけでなく、人工衛星の運用状況や、その意図・能力まで把握する「宇宙領域把握(SDA)」[*1]が重要だとしている。特に、スペースデブリとの衝突リスクや、不審な衛星による接近・妨害といった脅威が広がる中で、宇宙監視の重要性は一段と高まっている。
① スペースデブリなど他物体との衝突回避
近年は、各国による衛星コンステレーションの拡大などを背景に、宇宙空間の混雑化が進んでいる。これに加え、中国やロシアによる対衛星破壊実験で大量のデブリが発生し、各国の衛星にとって衝突リスクが高まっていることも、防衛省は問題として挙げている。
こうした環境のもとでは、衛星やデブリの位置・軌道を継続的に監視し、危険な接近を早期に把握(SSA)[*2]することが、宇宙インフラの安定運用に直結する。
② 不審衛星の能力把握や対応
宇宙空間における脅威は、デブリだけではない。防衛省は、衛星攻撃ミサイル、キラー衛星、電磁波による妨害装置などの対衛星能力を開発している国もあるとし、宇宙空間で活動する衛星の意図や能力を把握する必要性を強調している。実際、防衛白書でも、不審な衛星の監視や、その意図・能力の把握は、宇宙領域把握(SDA)の重要な任務として位置づけられている。
このため、今後は「そこに何があるか」を見るだけでなく、「その衛星が何をしようとしているのか」まで見極める監視体制が重要になる。宇宙空間からの監視を含む多層的な体制を整え、得られたデータを統合・分析することで、不審な接近や妨害の兆候を早期に捉え、人工衛星の防護や運用継続につなげていくことが求められている。
宇宙安全保障の強化による民間企業への波及
航空自衛隊における宇宙作戦能力の強化は、民間宇宙企業の事業環境にも影響を及ぼす可能性がある。
例えば、アストロスケールは防衛省から複数の契約を受注しており、静止軌道における宇宙領域把握(SDA)の高度化に向けた機動的な衛星運用や接近・近傍運用等の実証に加え、自国衛星の監視・防御を支える把持機構の研究・開発も進めている。
アストロスケールは、デブリへの接近・観測を行う「ADRAS-J」を通じて、軌道上で対象物の状況を把握する技術を実証してきた。防衛省のSDAと同社の事業は近い領域にあり、監視とその先の対処を支える技術を持つ企業として、今後の存在感が高まっていく可能性がある。
さいごに
宇宙作戦団の新編は、自衛隊における宇宙領域の位置づけが段階的に引き上げられてきた流れの延長線上にある。人員拡充や体制整備が進む中で、日本の宇宙安全保障も基盤構築から実運用を見据えた段階へと移りつつある。
今後は、SDA衛星などの能力がどこまで実効性を持つのかに加え、「航空宇宙自衛隊」への改称といった制度面の変化が、現場の運用にどう結びつくかが焦点となりそうだ。
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注釈
※1 宇宙領域把握(SDA:SpaceDomain Awareness):宇宙状況把握(SSA)[*2]に加え、宇宙機の運用・利用状況及びその意図や能力を把握し、安全保障上の脅威等にも対処すること。
※2 宇宙状況把握(SSA:Space Situational Awareness):宇宙物体の位置や軌道等を把握すること。(宇宙環境の把握を含む)










