
株式会社Synspective(以下、Synspective)とGMOサイバーセキュリティbyイエラエ株式会社(以下、GMOサイバーセキュリティbyイエラエ)は2025年12月8日、衛星システムのサイバーセキュリティ強化を目的とした共同研究を開始したと発表した。
本記事では、宇宙領域におけるサイバーリスクの特徴、今回の共同研究の狙い、そしてSynspectiveにとっての意義を整理する。
目次
宇宙のサイバーセキュリティ
宇宙拡大の開発とサイバーリスク
小型衛星コンステレーションの普及により、宇宙データの利用範囲は急速に広がっている。World Economic Forumは、宇宙産業の規模が2023年の約95兆円から2035年に約269兆円へ成長すると見込んでおり、宇宙を前提とした産業活動は今後さらに加速する見通しだ。
衛星が扱うデータは、防災、国土監視、インフラ点検など社会を支える領域に深く関わっており、その安全性は行政・企業の意思決定や防衛、経済活動にも影響する。
しかし、衛星が社会基盤として組み込まれるほど、攻撃対象としての価値も高まる。宇宙基本計画においても、衛星へのサイバー対策は重要な安全保障課題の一つとして位置づけられている。宇宙の成長とともに、サイバーリスクへの備えは避けられないテーマになりつつある。
衛星と地上における脅威構造の違い
宇宙システムは、地上のITシステムとは運用環境が大きく異なる。そのため、脅威の発生要因や攻撃手法、影響の現れ方にも特徴があると考えられる。
たとえば、衛星は地上局と常時通信しているわけではなく、通信のタイミングが限られる。このため、以下のような可能性がある。
- 不正アクセスや異常が発生しても、すぐには検知できない
- 問題が生じても宇宙空間では物理的な修理ができず、復旧までに時間を要する
- ソフトウェア更新に制約があり、攻撃を受けた際に短期間で防御策を適用することが難しい
また、複数の衛星が連動して観測を行うコンステレーションでは、個々の衛星の状態が全体のサービスに影響する可能性があると指摘される。具体的な影響の大きさはシステム設計によって異なるものの、観測データの品質や取得頻度に影響が出れば、防災情報や監視活動など地上の利用者にとっても無視できない問題となり得る。
このように、宇宙空間という特殊な環境で運用される衛星システムは、従来のITセキュリティとは異なる脅威構造を持つ。そのため、一般的な地上システム向けの対策だけでは不十分であり、宇宙特有の制約やリスクを踏まえた防御手法の検討が求められている。

共同研究について
GMOサイバーセキュリティbyイエラエとは
GMOサイバーセキュリティbyイエラエは、国内最大級のホワイトハッカー組織を擁するサイバーセキュリティ企業である。自動車、IoT、ドローンなど、物理機器とネットワークが結びついた領域に対する高度な攻撃検証を行ってきた。衛星は同様に「物理とデジタルが密接に結びついたシステム」であり、同社の知見が応用できる領域といえる。
研究テーマと取り組み
今回の共同研究に関する主な内容は以下の二つ。
- 衛星システムにおける想定すべき脅威とリスクの特定(脅威分析の実施)
- 衛星システム固有のセキュリティテストの策定と実施(対策手法の検討)
衛星システムにどのような脅威が想定されるのかを整理し、そのリスクに対して適切な対策が何であるかを検討する作業が進められる。また、衛星運用には地上とは異なる制約が存在することから、それらを踏まえたテスト手法や評価プロセスの開発も取り組みの一部として位置づけられている。
Synspectiveは衛星の開発から運用まで一貫して手がける企業であり、実際のシステム構造や運用上の課題に精通している。一方で、GMOサイバーセキュリティbyイエラエは攻撃手法の分析や脆弱性検証に強みを持つ。
両社が協力することで、理論だけではなく実運用を前提としたセキュリティ評価を行うための基盤が整えられていくと期待される。
Synspectiveにとっての意義
今回の共同研究は、Synspectiveが展開する衛星データ事業に対し、複数の側面から重要な影響をもたらす取り組みである。
1|観測データの信頼性向上
まず、観測データの信頼性向上という点が挙げられる。SAR衛星で得られるデータは、災害状況の把握や都市インフラの変位検知、地盤のモニタリングなど、精度と継続性が求められる領域や安全保障で利用される。
こうした用途では、データの取得そのものが安全に行われているか、外部からの干渉や改ざんがないかという観点が極めて重要になる。衛星の制御系や通信経路が安全に維持されていることは、観測データの信頼性の前提条件であり、セキュリティ強化はサービス価値を支える基盤そのものを補強することにつながる。
2|事業運用全体のリスク管理強化
この共同研究は事業運用の安定性という観点でも意義が大きい。Synspectiveは複数衛星を連携させるコンステレーション運用を目指しており、個々の衛星の状態がサービス全体に及ぼす影響をいかに管理するかが重要になる。
脅威分析やセキュリティテストの体系化により、衛星単位でリスクを把握し、どこに優先的に対策を講じるべきかを判断しやすくなる。これは、サービスの中断リスクを下げ、長期的に安定した提供体制を築くことにつながる。
さらに、衛星システムのセキュリティ評価は国際的にも重要性が高まっている分野であり、今後は調達要件やサービス選定の条件として明確に求められていく可能性がある。国内政策でも宇宙システムの強靱性確保が示されている中で、実運用に基づく評価知見を蓄積することは、Synspectiveの競争力向上にも直結すると考えられる。
さいごに
宇宙ビジネスは、衛星をどれだけ多く打ち上げるかではなく、安全に運用できるかが問われる段階に入っている。データサービスの信頼性は企業価値に直結し、サイバーリスクへの対応は中長期の競争力を左右する。
今回のSynspectiveとGMOサイバーセキュリティbyイエラエの協業は、衛星の安全運用に向けた重要な一歩といえるだろう。宇宙が社会基盤として定着する未来を見据えれば、セキュリティへの投資は避けて通れないテーマである。
参考
Synspective、GMOサイバーセキュリティbyイエラエと「衛星サイバーセキュリティ」に関する共同研究を開始(Synspective, 2025-12-12閲覧)




