わずか18か月で「ロケットエンジンの最高峰」技術に成功!?Stoke Spaceとは
©Space Connect

2024年6月11日、アメリカのロケット開発企業であるStoke Space社がフルスロー2段燃焼(FFSC:Full-Flow, Staged-Combustion)ロケットエンジンの最初の燃焼試験に成功したことを発表した。

フルスロー2段燃焼エンジンは開発が最も難しいが、その効率の高さや性能の良さからロケットエンジンの最高峰とも言われている技術である。

Stoke Spaceはこのエンジンをわずか18か月で設計、製造した。

本記事では、フルスロー2段燃焼エンジンの特徴や、同エンジンを使用するメリットについてご紹介する。

圧倒的技術力!Stoke Spaceとは

Stoke Spaceは2019年に元Blue Originのエンジニアであるアンディ・ラプサ氏とトム・フェルドマン氏によって設立された宇宙ベンチャー企業。

100%再利用可能な、毎日打ち上げることができるロケット『Nova』の開発により、従来よりも手頃な価格での宇宙輸送サービスの実現を目指している。

100%再利用可能ロケット『Nova』

Stoke Spaceが開発するロケット『Nova』は、円筒状のブースターエンジンの上に円錐型のカプセルのような宇宙船が搭載された「2段式」の、完全に再利用可能なロケットである。

同ロケットは、先日に打ち上げ試験に成功し大いに話題となったSpaceX社の完全再利用可能ロケット『Starship』と同様の地球帰還システムだ。

まずは下段のブースターエンジンに点火し、ある程度上昇したら途中で上段の宇宙船から下段のブースターエンジンを切り離す。

ブースターエンジンは降下し、燃料を地上に向かって噴出して減速しながら、垂直に着陸する。

一方、宇宙船はブースターが切り離された後、自身に搭載されたエンジンで宇宙空間を移動し、目的のミッションを果たした後地球に帰還する。

このように、Novaはブースターエンジンと宇宙船のそれぞれを無事に地球に帰還させることで、全体として100%再利用可能なロケットとなるのである。

さらに同社は、Novaの耐久性や信頼性を高めることで、打ち上げ、着陸した翌日には再び飛行可能とすることを目指している。

これまでの開発状況としては、2023年9月に、上段の宇宙船の垂直離着陸テストフライトに成功。

高さおよそ9mまで打ち上がった後15秒飛行し、予定の場所に着陸。宇宙船の離着陸や飛行に必要な、様々なシステムが実証された。

©Stoke Space

エンジン技術の最高峰!「FFSCエンジン」

Stoke Spaceが開発するフルスロー2段燃焼(FFSC)エンジンは、Novaの下段であるブースターエンジンに搭載予定のエンジンだ。

液体燃料を使用するエンジンの形式の1つで、最も効率的でかつ安全性と耐久性も高いが、最も開発が難しく、開発コストも高い

現在はSpaceXのStarshipロケットに搭載されているエンジン「Raptor」にのみ使用されている技術であり、他には中国なども同エンジン技術の開発を進めている。

FFSCエンジンの開発が難しい理由

フルフロー2段燃焼エンジンの開発が難しい理由は、その構造の複雑さにある。

液体ロケットエンジンには様々な種類があるが、共通するのは燃料と酸化剤を高圧の燃焼室に送り込み、燃焼させて発生した高温のガスを高速でノズルから噴射させることで推力を得るという仕組み。

この際、燃料や酸化剤を燃焼室に送り込むために、タービンを回すことで駆動する「ターボポンプ」と呼ばれるものが使用される。

タービンは高温ガスによって駆動し、エンジンの種類はこのタービンを回すための高温ガスをどのように得るかで決まるのだ。

一番簡単な液体ロケットエンジンの仕組み

液体ロケットエンジンのうち一番簡単なのは、メインの燃焼室とは別の小さな燃焼室で少量の燃料と酸化剤の混合物を燃焼させ、得られた高温ガスでタービンを駆動する、ガス・ジェネレーターサイクルである。

この方法は、燃料と酸化剤の供給を制御することが比較的容易であるが、タービンを駆動するための高温ガスはメインの燃焼室には送られない。

そのため、実際にエンジンの推力のために使用される燃料の量は搭載している燃料の量よりも少なく、エンジンの効率が低くなってしまう。

FFSCエンジンの仕組み

フルフロー2段燃焼エンジンは、搭載している燃料と酸化剤の全量を推力のために使用可能な、エンジン効率の高い技術だ。

メインの燃焼室の他に小さな燃焼室を2つ持ち、小さな燃焼室の一方では燃料ほぼ全量と少量の酸化剤を燃焼させて燃料リッチの不完全燃焼ガスを生成し、燃料側のポンプを駆動。

もう一方では少量の燃料とほぼ全量の酸化剤を燃焼させて酸化剤リッチの不完全燃焼ガスを生成し、酸化剤側のポンプを駆動する。

ターボポンプを駆動させたそれぞれの不完全燃焼ガスはどちらもメインの燃焼室に送り込み、これらを燃やして推力を得る。

フルフロー2段燃焼エンジンの仕組み

この方法によって、燃料と酸化剤の全量を推力を得るために用いることができる上に、メインの燃焼室の燃焼圧力を高くできるため、得られる推力が大きくなるのである。

また、構造上、爆発が起こりにくい仕組みにもなっているため安全性も高い

さらに、エンジン運転時の配管の温度を下げるように設計することもできるため、耐久性も向上するのだ。

FFSCエンジンを採用する理由

前述のように、フルフロー2段燃焼エンジンは性能が高く、かつ安全で耐久性にも優れているがデメリットもある。

デメリットの1つは、2つの小さい燃焼室とメインの燃焼室、合計3つの燃焼室が必要であるため、配管が複雑になり開発が難しくなること。

2つ目に、エンジン全体の重量が増加し、製造コストもかさむことだ。

使い捨てロケットの場合は、一本ごとの開発・製造コストが高くなればなるほど打ち上げ費用もそれだけ高くなる。

それでも、Stoke Spaceがフルフロー2段燃焼エンジンを採用する理由は、同エンジンが再利用可能ロケットと非常に相性が良いからである。

再利用できるロケットの場合、一本あたりの製造コストの影響はそれほど大きくない。

フルフロー2段燃焼エンジンの開発・製造コストの高さよりも、その耐久性によって使用回数が増えることや燃焼効率の良さの方が重要であり、結果的に低コスト化に貢献するのだ。

さいごに

いかがでしたか。

今回は、フルフロー2段燃焼エンジンの技術と、Stoke Spaceの取り組みについてご紹介した。

一概には言えないものの、ロケットエンジンの開発には5年から10年程かかることが多く、今回の同社の18か月という開発スピードは驚異的な速さだと言えるだろう。

SpaceXのラプターエンジンも、最初の燃焼試験まで4年程を費やしている。

Stoke Spaceは、2024年の間に宇宙軌道への打ち上げに向けてロケットのエンジンと機体の設計を改良しながら、実際の軌道打ち上げに向けた準備を進める予定とのこと。

同社の目標は、毎日打ち上げ可能な再利用ロケットを実現し、宇宙輸送をより手頃な価格で提供することである。

これにより、宇宙へのアクセスがより容易になり、宇宙ビジネスや科学研究の発展にも大きく貢献するだろう。

今後もこの技術がどのように発展し、宇宙輸送の未来にどのような影響を与えるのか注目である。

参考

Stoke Space HP

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