株式会社cosmobloomが、2024年3月27日より学術系クラウドファンディングacademistにて「宇宙太陽光発電の実現に向け膜構造の宇宙利用を加速させる!」と題し、支援募集を開始した。
同社は2023年4月に設立した、立ち上げメンバー全員が超小型人工衛星の設計・開発・製造・試験・運用の一連を経験している宇宙ベンチャー企業である。
本記事では、同社の事業や技術について簡単にまとめました。
cosmobloomとは
cosmobloomは日本大学理工学部航空宇宙工学科宮崎研究室(現JAXA 宇宙構造システム研究室)を前身とした、膜やケーブルといった極めて柔軟な構造(ゴッサマー構造)を用いた宇宙構造物に係る解析・設計・開発を担う企業だ。
強みはこのゴッサマー構造の解析技術。
研究室時代に開発された、構造物が受ける動的な荷重や影響に対する応答を計算する数値解析ツール「NEDA」は、2010年にJAXAが打ち上げた超薄膜の帆を広げ太陽光圧を受けて進む小型ソーラーセイル実証機「IKAROS」の膜面展開シミュレーションに利用された。
IKAROSはソーラーセイルを主な推進装置として利用する世界初の惑星間航行に成功した実証機であり、NEDAはその成功に貢献した実績あるツールなのだ。
同社は、NEDAと宇宙機開発の経験を用いて、ゴッサマー宇宙構造物の解析・設計・開発を検討している顧客へのソリューションを提供。
また、ソーラー電力セイルや宇宙太陽光発電システムなどの「次世代の宇宙構造物システム」を社会実装し、「すべての人が希望を持てる世界の実現」を目指している。
cosmobloomの技術
宇宙で活躍!ゴッサマー構造とは
上記にもあるように、ゴッサマー構造とは、膜やケーブルといった薄くて軽い柔軟な部材から成り立つ構造のことである。
軽量性、展開性、収納性に優れており、一度に運べる質量や体積に限界のあるロケットでの輸送の際も小さく折りたたんで宇宙空間に運ぶことが可能。大型の宇宙構造物を実現するために非常に重要な技術であり、宇宙機の構造様式として注目されている。
しかし、構造の柔軟さゆえに空気や重力などの影響を強く受けるため地上実験が難しい、宇宙空間での挙動を予測するための数値シミュレーションにおける計算が難しいなど、その実現は容易ではない。
宇宙構造物としてはとても有効な反面、様々な技術的課題があるため、現在でも地上実験の方法や数値計算の方法について世界各国で研究がなされているのだ。
前身の研究室は宇宙におけるゴッサマー構造のパイオニア!
cosmobloomの前身である宇宙構造システム研究室は1991年に日本大学理工学部の構造材料系の研究室として中村研究室が立ち上がったところから始まるという。
研究を開始した当初よりゴッサマー構造について研究を行ってきており、cosmobloomの共同創業者でCTOを務める宮崎康行氏がNEDAを開発した。
また、その他の研究としては、以下のようなものが挙げられる。
- 空気やガスを充填して膨らませることで形状を維持する「インフレータブルチューブ」を用いて必要な時に素早く大きな構造物を展開する技術
- 回転を利用して膜状の構造物を展開する技術
- 内部特性を利用して、外部から力を加えることなく目的の場所で自動的に伸縮させる技術を用いた平面構造・三次元構造の設計・開発・評価
現在は、ゴッサマー構造を応用した大型膜面アンテナや、宇宙望遠鏡で観測対象を観測しやすくするために特定の光を遮断するスターシェードシステムなど、将来の大型宇宙構造物の実現に向けた研究を行っているという。
また、同研究室では超小型人工衛星の開発が黎明期であった2000年代初めより学生が主体となって超小型人工衛星の開発を行っており、現在までで計4機を開発・運用。
現在も、自己展開構造を用いたレクテナ(電磁波を電気エネルギーに変換するアンテナ)の宇宙実証に向けた実機開発に参画しているという。
以上のように理論、計算、実験、開発、実証のすべてを行っているのが、cosmobloomの前身である宮崎研究室なのだ。
cosmobloomが開発するサービス
同社が強みとする「ゴッサマー構造」の技術で開発する主なサービスは以下の3つ。
超小型衛星に搭載可能な大型アンテナ
膜面アンテナは従来のアンテナに比べ優れた収納性・軽量性を持っており、同社はこれまでにない超小型人工衛星にも搭載可能な大型アンテナを開発している。
同社が開発中の膜面アンテナは、収納時は20㎝×20㎝の面積に収まるほどの大きさであり、展開時に直径200㎝のアンテナを構成。
8Uや12U、16U(1U=1辺が10㎝の立方体)といった超小型人工衛星に搭載可能な収納サイズとなっている。
また、アンテナを任意に組合わせることで、より大きなアンテナを実現することも可能。
例として、モジュールを7つ組み合わせた場合、約60㎝×60㎝の収納面積で、最大直径約5mの平面アンテナを構築することができる。
同社は、この膜面アンテナによってこれまでよりも超小型人工衛星で高性能な通信を可能にすることを目指している。
世界最小クラスの軌道離脱装置
同社は、cosmobloomは3Uや6Uといった超小型人工衛星に搭載可能な、世界最小クラスの膜面式の軌道離脱装置を開発。
収納時は8.1㎝×9.6㎝×2.5㎝に収まるほどの小ささであり、超小型人工衛星のミッション機器の搭載を阻害しない大きさを実現している。
これだけの小ささながら、展開時には2.86m2の面積を展開することが可能。
大きな面で空気抵抗を受けることで衛星の速度をより大きく下げ、衛星を軌道から離脱させることができるのだ。
ゴッサマー構造を含む展開構造の解析・設計支援
独自に開発した構造物の応答を計算する数値解析ツール「NEDA」を用いて、ゴッサマー構造をはじめとした宇宙構造物の構造解析を実施。
開発・設計した構造物の剛性は十分か、宇宙空間ではどのような挙動を示すか等、地上で検証が困難な構造物の評価が可能である。
cosmobloomでの解析後、顧客の要望に合わせた解析レポートやデータを共有。
また、解析結果を用いてゴッサマー構造をはじめとした宇宙構造物の設計支援も行っている。
宇宙太陽光発電の実現を目指す!?
cosmobloomが将来的に目指すものの1つが、宇宙太陽光発電システム(SSPS:Space Solar Power System)だ。
宇宙太陽光発電システムは古くから構想されている大型宇宙構造物の一つで、宇宙空間で太陽光発電を行い、発電した電力をマイクロ波やレーザー光として地上へ送電し、さらに地上でそれらを電力へ変換。
次世代の再生可能エネルギーとして、実現するためにこれまでも多くの手法が検討されてきた。
現在構想されている宇宙太陽光発電の1つは、1GW級の電力を発電することを想定しており、宇宙空間に数km級の巨大な平面を形成する必要がある。
そのような巨大な構造物はいくつかのモジュールに分けて複数回打ち上げ、宇宙空間で組み立てることになるが、そのモジュールも非常に大きな柔軟展開構造となることが想定されているという。
また、地球から約3万6,000㎞離れた静止軌道上で組み立てることを想定しているため、有人での構築は困難を極める。
そのため、無人での構築が必須となり、柔軟展開構造を有するモジュールを結合する技術にも非常に大きな課題が存在している。
同社はこの課題に立ち向かい、宇宙太陽光発電システムを実現することで、クリーンエネルギーによる循環型社会の実現を目指しているのだ。
さいごに
いかがでしたか。
同社のクラウドファンディングでは宇宙太陽光発電に向けた初めの一歩として、超小型衛星に搭載可能な膜面アンテナの開発を目指している。
まずは小さなサイズの膜面に、アンテナと発電の機能を持たせることで、宇宙太陽光発電に向けた一歩とするだけでなく、複数の超小型衛星を連携させる衛星コンステレーションでの通信にも応用可能なアンテナを提供する方針だ。
詳細はこちらのリンクから。興味のある方はぜひご覧いただきたい。