2023年9月5日、株式会社Space quartersは、スカパーJSAT株式会社が構想する次世代の静止軌道上サービスを担う超大型宇宙施設(ミッション名:Yamato)の建築手法の検討業務を同社から受注したと発表した。
このような大型宇宙施設が実現すると、通信・観測の高度化や、月・惑星および地球近傍の有人活動等が期待できるが、実はこのような大型施設を宇宙に建設するにあたって大きな課題点が存在する。
今回スカパーから案件受注を獲得したSpace Quartersは、この課題をどのように解決しようとしているのだろうか。
本記事では、同社が検討する建築手法を今回の課題点と共に紹介する。
Space Quartersについて
Space Quartersは、宇宙空間で電子ビーム溶接技術を用いた大型構造体の建築サービスを開発する企業。
この電子ビーム溶接とは、非常に高いエネルギーをもつ電子を集めて物体に衝突させると、そこから熱が発生して物体が溶けることで溶接する方法である。
2022年6月に設立された同社は、そのおよそ半年後に内閣府主催の宇宙を活用したビジネスアイデアコンテストS-Booster 2022にてスカパーJSAT賞を受賞。今回の案件受注先であるスカパーとはここで繋がっているようだ【S-Boosterに関する記事はこちら】
その後、フランス国立宇宙センター(CNES)より電子ビームを用いた宇宙建築に関する正式な研究案件を受託。
さらに、同様の事業で国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2023年度の公募に採択されるなど、現在勢いのある宇宙スタートアップ企業だ。
体積が20倍!?宇宙に大型構造物を再現する方法とは
従来の宇宙施設(宇宙ステーション)の建設方法は、地上でモジュール(部品)を組み立てた後、モジュールを別々で打ち上げ、宇宙飛行士やロボットアームによるボルトでの固定やドッキングを行うことで建設されてきた。
しかし、その方法では、ロケットに搭載可能なサイズ以上の宇宙ステーションの建設が不可能という課題が存在するのだ。
では、同社はどのように大型宇宙施設の建設を行うのだろうか。
建設の大まかな流れは以下の通り。
- 材料をロケットで宇宙に輸送
- 輸送された部品を、電子ビーム溶接で接続
- 品質検査・外部ユニットの取り付け
- 内部の圧力を上げて、内装を取り付け
- 運用とメンテナンス修理
このように宇宙施設の素材を宇宙に打ち上げ、宇宙空間で組み立てることによって大型構造物を実現。この方法で建設可能なモジュールの体積は現在のおよそ20倍にもなるという。
また、同社は、これらの建設をロボットシステムで行うこと計画しており、人間をスペースデブリ等の危険性に晒さないという配慮も考えているようだ。
溶接だけではない!?電子ビームの宇宙での可能性
今回、建設の場面で使用される電子ビームの技術だが、実は建設以外の場面でも活躍が期待されている。
例えば、高強度レーザーをスペースデブリに照射し、その力を利用することでデブリを減速させ、大気圏に突入させて除去する方法が提案されている。
また、防衛面においても、自国の衛星や宇宙機が他の人工衛星等からロボットアームや電磁波で攻撃を受けた場合、電子ビームによって衛星を守ることができるという可能性もある。
同社の技術によって、建設のみならず様々な面から宇宙産業の発展が期待できるだろう。
さいごに
いかがでしたか。
同社が検討する建築方法はとてもユニークであり、またそこで使用されるであろう技術の応用方法も大変興味深い。
現在、電子ビーム溶接は、地上では様々な国で使用されているものの、宇宙では実用化までに至った例は確認できていない。
よって、同社の技術が実現すれば、世界の中でも存在感を発揮していけるのではないだろうか。
Space Quartersの技術により、宇宙産業がより大きく発展していくことに期待だ。
参考
日本発宇宙建築スタートアップのSpace Quartersが、スカパーJSATが構想する次世代超大型宇宙構造物に対する建築検討業務を受注