2023年11月28日、日本電信電話株式会社(以下、NTT)、株式会社NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ株式会社、スカパーJSAT株式会社は、Amazon社が提供する多数の低軌道衛星を利用した高速インターネット接続サービス「Project Kuiper」との戦略的協業に合意したと発表した。
現在、このKuiperやSpaceX社のStarlinkを始めとした低軌道衛星による通信サービスが注目されており、地上の通信事業者は衛星による通信サービスを提供する各社と戦略的な連携をとり、市場を争っている。
本記事では低軌道衛星による通信サービスの概要や日本の通信事業者の動向について紹介する。
これまでの衛星通信と低軌道衛星を利用した通信サービス
現在、地上で電波繋がらない地域は世界中にたくさんある。日本でも山間部や人の少ない地域、海上など、地上の通信で必要な光ファイバー回線を導入するのが困難なために電波の繋がらない地域は多い。
衛星通信はそんな課題を解決する、地球上のどこでも通信を可能にするサービスだ。
【※参考:人工衛星でどこでもスマホが使える世界に!】
衛星通信は衛星を介することで世界のあらゆる場所に通信サービスを提供する技術であり1965年より利用されてきたが、StarlinkやKuiperの提供する低軌道衛星を利用したサービスとの違いは通信の遅延時間だ。
これまでの衛星通信は高度約3万6000キロメートルを周回する静止衛星を利用していた。
静止衛星は地上から見て常に同じ位置にあり、特定の地域に対して継続的で安定したサービスを提供でき、さらに広範囲にわたる通信ネットワークを比較的少数の衛星で提供することが可能。
しかし、地上と静止衛星との距離が遠いため0.6秒以上の遅延が発生する。
これに対しStarlinkなどの低軌道衛星は高度2000キロメートル以下。地球と衛星との距離が近いため、通信の遅延時間を短縮できる。
一方、低軌道衛星は地球を周回しており、様々な国の上空を通過するため地上のあるアンテナと低軌道衛星が通信できる時間は短い。さらに一基あたりの通信可能なエリアも狭いというデメリットもある。
しかし、衛星を多数打ち上げてそれぞれを連携させることでこれらの課題を解決。よって、高速インターネットやリアルタイム通信に適した通信サービスを提供できるのだ。
日本の通信事業者の動向は?
どこでも利用できる高速インターネットの実現を目指して様々な企業が衛星開発に取り組むとともに、それら衛星通信企業とこれまで地上での通信サービスを提供していた企業との戦略的な連携が進んでいる。
ここからは、日本の企業の動向について紹介する。
KDDI
KDDIは2021年9月にStarlinkの通信衛星をau回線として利用するための契約をSpaceXと締結。
いち早くStarlinkに目を付け、衛星通信サービスを開始している企業である。
Starlinkは高度約550㎞に位置しており、既に3700基以上が実際に稼働。受信速度は最大220Mbps、送信速度は最大25Mbpsほど。遅延も0.025秒とほぼない。これは、高画質の動画をサクサク見れる程の速さだ。
2022年12月にKDDIは静岡県の離島である初島にStarlinkのアンテナを設置し、サービスの提供を開始。
au契約者は無料、au契約者以外は1日あたり780円で利用できる「山小屋Wi-Fi」などのサービスとともにこれまで通信設備を設置できなかった地域にインターネットサービスを拡大している。
また、Starlinkをそのままインターネットアクセス回線として利用可能なサービス「Starlink Business」も展開。Starlink端末を設置すれば、Wi-Fi(半径50m)または有線でインターネットに接続することができる。
今年7月には海上利用も可能となったほか、2024年を目処に衛星通信とスマートフォンを直接つなぐサービスを始めると発表した。
NTT
NTTは2023年11月28日にAmazonと戦略的協業に合意。
Amazonのサービス「Kuiper」は2023年10月に衛星2基の打ち上げに成功しており、今後3236基の衛星を高度590~630㎞に打ち上げる予定だ。
2024年末には初期サービスを開始し、2026年7月までに3236基の衛星のうち少なくとも半分を運用するとしている。
Kuiperを利用すると、これまで通信サービスがなかった地域でもインターネットや通信を利用できるだけでなく、AWSのクラウドサービスにアクセスし、AIや機械学習などの最先端のテクノロジーも利用できるという。
NTTは協業の一環としてKuiperを日本の企業や政府機関・自治体に提供すると同時に、自社およびグループ会社においても活用するとし、さらにKuiperを利用した新たなサービス創出を支援して日本のビジネスイノベーションを促進するとしている。
ソフトバンク
ソフトバンクは通信速度や通信方式など特性が異なるサービスを提供することで、ユーザーの利用用途に応じた提案を行う戦略だ。
展開するサービスは3つ。
1つ目は2021年5月に日本での展開に向けた協業に合意したOneWeb。高度1,200㎞、648基の衛星を利用する計画で、受信速度は最大195Mbps、送信速度は最大32Mbpsの通信サービスを提供。遅延も静止衛星の約1/10に短縮。
さらに、ネットワークの混雑状況に関係なく通信の品質が最低限保たれるように保証されている。
2つ目は高速・低遅延の「Starlink Business」。KDDIのStarlink Business同様、端末を設置することでStarlinkを介してインターネットにアクセスできる。
3つ目は「HAPS」という高度20㎞の成層圏を飛行する無人航空機を利用した通信サービス。特殊なアンテナや端末を必要とせずに普段使用するスマートフォンを使用することができる。
楽天モバイル
楽天モバイルはアメリカのAST SpaceMobileと共同で「SpaceMobile」プロジェクトを推進。
専用のアンテナや機器を用いずにASTの低軌道人工衛星と市販のスマートフォンの直接通信の実現を目指す取り組みである。
2023年4月に世界で初めて市販のスマートフォン同士での衛星通信を利用した音声通話試験に成功。
具体的な通信速度やサービス開始時期については公表されていないが、4G LTEや5Gに対応できるという。
同社は今後、快適で利便性の高いサービスを実現するために取り組んでいくとのことだ。
さいごに
いかがでしたか。
衛星通信業界の発展は著しく速い。
トップを走るSpaceXに追いかけるOnewebとAmazon、そしてAST。これらの衛星通信企業の活躍が国内の通信事業者に与える影響は大きい。
それぞれの企業はどうなっていくのだろうか。今後の動向に注目である。
参考
楽天モバイルと米AST SpaceMobile、世界初となる低軌道衛星と市販スマートフォンの直接通信試験による音声通話に成功
Amazon の Project Kuiper と NTT、スカパーJSAT、戦略的協業に合意 高度な衛星ブロードバンドサービスを日本で提供