
地球観測衛星の分野では、光学衛星に加え、天候や昼夜の影響を受けず観測できるSAR(Synthetic Aperture Radar)衛星への注目が高まっている。
本記事では、SAR衛星の基本概念や仕組み、主要企業、今後の市場動向について整理する。
SAR衛星とは
概要
SAR衛星とは、電波(マイクロ波)を地表に照射し、その反射波を解析することで地表の状況を画像として取得する地球観測衛星である。
「Synthetic Aperture Radar(合成開口レーダー)」の略称であり、衛星の移動を利用して仮想的に大型アンテナを形成し、高い分解能の画像を生成する点が特徴となる。
光学衛星との違い

光学衛星とSAR衛星の最大の違いは観測電波の種類にある。光学衛星は可視光や近赤外などを利用するため、人間の視覚に近い画像が得られる一方で、雲や煙、夜間といった条件下では観測が困難となる。
これに対し、SAR衛星は波長の長いマイクロ波を利用するため、雲や降雨を透過して地表を観測できる。また、自ら電波を照射するため夜間観測も可能であり、時間・天候に依存しない観測能力を持つ。
一方で、SAR画像は反射強度をベースとしたデータであるため、光学画像のような直感的なカラー画像ではなく、専門的な解析が必要となる。
SAR衛星が開発された理由
SAR技術は主に軍事・安全保障用途を背景として発展してきた。偵察衛星においては、天候や昼夜に関係なく監視を継続できる能力が求められ、その要件を満たす技術としてレーダー観測が採用された経緯がある。
その後、地震や洪水などの災害監視、地盤変動の計測、海洋監視など民生用途にも応用が拡大し、現在では地球観測市場の重要なセグメントとして位置づけられている。
SAR衛星の仕組みを解説
SAR衛星の観測はカメラ撮影とは異なり、複数の工程を経て画像として生成される。下記では、SAR衛星の観測から画像生成までの流れを整理する。
- 電波を地表に当てて観測する
- 衛星の移動を使って高分解能を実現する
- 取得した信号から画像を作る

①電波を地表に当てて観測する
SAR衛星は、まず、自身のアンテナから地表に向けてマイクロ波と呼ばれる電波を照射する。
送信された電波は地表の建物や地形、植生、水面などに当たって散乱し、その一部が衛星へ戻ってくる。SAR衛星は、この反射波の到達時間や強度、位相などを記録することで、地表の位置や形状、物理的特性を推定する。
②衛星の移動を使って高分解能を実現する
通常、レーダー観測で高分解能を得るためには大型アンテナが必要となる。しかし、宇宙機に巨大アンテナを搭載することは構造・重量・展開機構の観点から現実的ではない。
そこでSARでは、衛星が軌道上を移動するという特性を利用する。衛星は飛行中、同一地域に対して連続的に電波を照射し続けるが、その間に異なる位置から取得された反射波データを統合することで、仮想的に長いアンテナを形成したのと同等の効果を得る。
この技術が「合成開口(Synthetic Aperture)」であり、SARの中核概念となる。合成開口処理によって、小型衛星でも高分解能の地表画像を取得できるようになり、近年の小型SAR衛星ビジネスの成立を支える基盤技術となっている。
③取得した信号から画像を作る
SAR衛星が取得するデータは、カメラ画像のような視覚情報ではなく、電波の反射信号である。そのため、地上で高度な信号処理を行い、地表の反射強度分布として再構成することで画像が生成される。
この処理では、反射波の位相情報やドップラー情報を利用して観測位置の精密な補正が行われ、結果として高分解能のSAR画像が得られる。生成された画像は、都市構造、地形、農地、水域などの判別に利用される。
世界的なSAR衛星企業5社
商業SAR市場では、複数の民間企業が衛星コンステレーションを構築し、観測データの提供や解析サービスを展開している。下記では、世界的に代表とされる5社を紹介する。
1|Capella Space(米国)
Capella Spaceは、小型SAR衛星コンステレーションを構築し、オンデマンド観測サービスを提供する企業である。顧客が観測要求を出し、短時間でデータ取得を行うタスキング型サービスを特徴としている。
同社は政府・防衛用途での実績を持ちつつ、商業分野への展開も進めており、米国SAR市場の主要プレイヤーの一角を占めている。
2|ICEYE(フィンランド)
ICEYEは、世界で最も早く商業小型SARコンステレーションを構築した企業の一つである。超小型SAR衛星による高頻度観測を実現し、保険、災害対応、政府機関向けサービスなど幅広い市場にデータを提供している。
近年は衛星数の増加と分解能向上を進めており、商業SAR市場の先行プレイヤーとして存在感を示している。
3|QPS研究所(日本)
QPS研究所は、小型高分解能SAR衛星「QPS-SAR」シリーズを開発する日本企業である。展開式大型アンテナを特徴とし、1m級以下の高分解能観測を実現している。
同社は36機のコンステレーション構想を掲げており、準リアルタイム観測サービスの提供を目標としている。防衛・安全保障分野や海洋監視用途での活用も期待されている。
4|Synspective(日本)
Synspectiveは、小型SAR衛星「StriX」シリーズを開発・運用する日本の宇宙スタートアップである。2018年設立以降、災害対応やインフラ監視を主用途としたデータ提供サービスを展開している。
同社は数十機規模の衛星コンステレーション構築を計画しており、高頻度観測による地表モニタリングの実現を目指している。また、衛星データと解析ソリューションを統合したサービスモデルを志向している点も特徴である。
5|Umbra(米国)
Umbraは、米国の商業SAR企業であり、特に高分解能観測能力に強みを持つ。同社はスポットライト観測モードによる数十センチ級分解能の実現を掲げており、詳細観測用途で注目されている。
また、データアクセスの迅速化やAPI提供など、プラットフォーム型サービスへの展開も進めている。
SAR衛星は今後も成長する市場
SAR衛星は、全天候・昼夜観測という特性を背景に、地球観測市場における重要性を高めている。
下記では、SAR市場が今後も成長すると考えられる主な要因を整理する。
災害・気候変動リスクの増大
世界各地で洪水、台風、山火事、地震などの自然災害が増加しており、迅速かつ広域な被害把握の重要性が高まっている。SAR衛星は雲や煙の影響を受けず観測できるため、災害直後の状況把握や復旧計画策定において有効な情報源となる。
また、氷河変動や森林変化、海氷分布などの長期モニタリングにも適しており、気候変動研究においても利用が拡大している。
コンステレーション化による観測頻度の向上
近年の小型衛星技術の進展により、数十機規模のSARコンステレーション構築が現実的となっている。衛星数の増加は再訪時間の短縮につながり、準リアルタイムに近い地表観測を可能とする。
この観測頻度の向上は、単発観測から継続モニタリングへの転換を促し、インフラ監視や農業、物流など日常的なデータ利用の基盤形成につながると考えられる。
安全保障・海洋監視需要の拡大
SARは夜間・全天候観測能力を持つことから、安全保障分野との親和性が高い。船舶検知や違法操業監視、国境監視などの用途で需要が拡大しており、多くの国がSAR能力の強化を進めている。
また、民間SAR企業に対する政府・防衛機関からの需要も増加しており、商業市場の成長要因の一つとなっている。
さいごに
SAR衛星は、全天候・昼夜観測を可能とする特性から、地球観測分野において重要な役割を担う技術である。軍事用途を背景に発展してきたSARは、現在では災害対応やインフラ監視、商業サービスなど多様な領域で活用されている。
光学衛星と補完関係を持ちながら、地球観測の時間的・空間的カバレッジを拡張する技術として、その動向は引き続き注目される。
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