2024年1月30日、オーシャンソリューションテクノロジー株式会社が、令和5年6月に採択された内閣府の「みちびきを利用した実証事業」における取り組みについて発表した。
同社はこの事業において、「みちびきを利用したAIによる漁業操業情報の自動作成の実証」というテーマで取り組んでいる。
本記事では、同社が実施する、日本の衛星システム「みちびき」を水産業に利用する取り組みについてご紹介します。
目次
オーシャンソリューションテクノロジーとは
オーシャンソリューションテクノロジーは、「国産水産業の深刻な高齢化・次世代の後継者不足」と「水産資源の大幅な減少」という社会課題と向き合い、持続可能性と収益性の両立を目指して水産業の変革と発展を支援する企業。
同社が開発する水産業のための漁業者支援サービス「トリトンの矛」は、船に機器を取り付けるだけで漁業における操業(作業)の詳細を自動で記録するサービスだ。
過去の操業日誌データと海洋気象情報によるAI解析を行うことで、長年蓄積されたベテラン漁業者の経験や技術、勘をデータ化する。
特徴は以下の3つ。
1. 漁業者による操業・事業継承の効率化
過去および現在のデータから最適な漁場選定をピンポイントで行い、効率的な事業継承と、生産性の高い漁業を実現。
また、従来手書きであった操業日誌データ(いつ、どこで、どの魚がどれくらいとれたか、気象、潮流など)の電子化により、手間を軽減する。
2. 漁業協同組合における仕切書データ管理と自動漁獲報告
商品の取引の記録である仕切書をデジタル化することで各種情報の可視化を行ったり、自治体に送る漁獲報告を自動化したりすることで漁業協同組合の事務作業負担を軽減する。
3. 自治体での漁獲報告ペーパーレス化
漁業協同組合から送信された漁獲報告の内容が電子化・保管され、報告内容を共有したりグラフで視覚的に確認したりできるなど業務効率の改善を実現する。
強みは「宇宙データ」
「トリトンの矛」の強みの1つは、「宇宙データ」の利用だ。
漁業者の操業日誌や航路情報などの「海上データ」だけでなく、サービスの利便性を高めるために衛星から得られる「宇宙データ」を組み合わせている。
これにより、海上でのデータ計測時の誤差を宇宙からの計測データと比較することで補正する機能や、過去の航路データと海面温度の宇宙データを重ね合わせることで海面温度と漁獲量の関係性を可視化する機能など、様々な機能を開発しているのだ。
日本の衛星測位システム「みちびき」とは
同社が採択されて実施している「みちびきを利用した実証事業」でも、宇宙データを利用する。
「みちびき」とは、日本上空に対してほぼ垂直に位置する4基の衛星で、日本およびアジア太平洋地域をカバーする衛星測位システムのこと。
アメリカが開発した、24基の衛星で地球全体をカバーする衛星測位システム「GPS」と連携して使用されることで、GPS単独では得られない、高い精度で安定した位置情報サービスを実現するのだ。
「みちびき」で持続可能な水産業へ
「トリトンの矛」においてみちびきの技術を使用する目的は以下の2つ。
高精度な位置情報からより正確な漁業活動にかけられたコストを推定
持続可能な水産業を確立するには、水産資源の量を正しく把握することが最も重要だ。
水産資源の量を評価するためには、漁にかけられた時間や燃料消費量などのコスト(漁獲努力量)あたりの魚の漁獲量の変化が重要な指標の1つとなる。
例えば、漁獲努力量あたりの漁獲量が長期間にわたり減少し続けていれば、同じ魚を同じだけ漁獲するためのコストが上昇し続けているということになり、それは水産資源の減少や過剰な漁獲の可能性があるということになる。
そこで、「トリトンの矛」では、「みちびき」の高精度な位置情報を取得することで、時間や燃料消費量などの漁にかけられたコスト(漁獲努力量)をより正確に自動で推定。
漁船の航跡から漁獲努力量をAIで判定する世界初の取り組みである。
「みちびき」が必要な理由として、GPSのみで位置情報を取得した場合は100m前後の誤差が認められるケースが多発し、帰港との誤認識による位置情報取得が途中で停止する、航跡に乱れが生じる。その結果、漁獲努力量の判定に大きな誤差が生じる可能性がある。
一方、「みちびき」では誤差が1m未満級の測位補強サービス(SLAS)を利用できる。これにより、トリトンの矛では正確な漁獲努力量の測定を実証したのだ。
今後はセンチメートル級測位補強サービス(CLAS)の利用にも挑戦し、更なる操業の効率化や安全性の向上に向けた活用の可能性を期待しているという。
Jアラートを含む災害・危機管理通報サービスの実装
実は、「みちびき」は測位システムだけでなく、Jアラート(ミサイル発射情報)、地震や津波発生時の災害情報の通報サービスも担っている。
防災機関から発表された災害情報を4秒間隔で送信することが可能。さらに、山間部などの地上の通信網が途絶した場所においてもこれらの情報を受信することができる。
現在は隣国から弾道ミサイル等が頻繁に発射されており、携帯電波の届かない場所で操業するケースが多い漁業者の安全を確保するためには素早い情報の取得が重要だ。
「トリトンの矛」では、実際にJアラートを含む災害・危機管理通報サービスを実装して有用性を確認。
オーシャンソリューションテクノロジーは「携帯電話の電波が入らない環境において、津波や急な天候の変化や将来的なJアラートへの対応は、漁業者の安全操業にとって大変有意義な内容であり、水産資源評価への利活用にプラスして、漁業者へ安心安全を届けられると確信しています。」と発表している。
さいごに
いかがでしたか。
みちびきなどの衛星データの利用は、提供するサービスの幅を広げる。
「みちびきを利用した実証事業」プログラムには他にも興味深い実証例がたくさんあるので、興味のある方にはぜひご覧いただきたい。