
株式会社IHI(以下、IHI)および株式会社IHIエアロスペース(以下、IHIエアロスペース)は2025年12月1日、リトアニア共和国の宇宙関連企業に委託して製造した小型ハイパースペクトル衛星「IHI-SAT2」の打上げに成功したことを発表した。
本衛星は、2022年2月に打ち上げられたIHI初の衛星運用プロジェクト「IHI-SAT」に続くIHIグループの運用衛星となる。本記事では、ハイパースペクトル衛星の特徴や、打上げの狙いについて解説する。
目次
ハイパースペクトル衛星「IHI-SAT2」について
IHI-SAT2は、6Uサイズ(約10×20×30cm)の小型筐体にハイパースペクトルセンサを搭載した地球観測衛星である。2025年11月29日にSpaceX社のFalcon 9ロケットにて打ち上げられた。運用期間は3年を予定されている。
ハイパースペクトル観測とは
ハイパースペクトル観測は、物体が反射した光を捉えて観測する光学観測の一種である。通常の光学衛星よりも波長帯域と波長分解能が高く、様々な光を細かく分けて観測することで、色だけでなく、物質の違いをより詳しく見分けられる点が特徴である。
樹種の特定や鉱物の同定、メタンの検出など、通常の衛星写真では捉えにくい情報を抽出することが可能だ。

代表的な宇宙用ハイパースペクトルセンサとしては、経済産業省の「HISUI」、ドイツ航空宇宙センターの「EnMAP」、Planet社の「Tanager-1」などがある。
一般的な光学衛星に比べると、商用ハイパースペクトル衛星の運用数は多くない。
Kongsberg NanoAvionics社が製造を担当
今回、IHI-SAT2の製造を担当したのは、リトアニアのKongsberg NanoAvionics社である。
同社は小型衛星におけるシステム構築とエンドツーエンドのミッションサービスを提供する企業だ。コスト、パフォーマンス、信頼性の適切なバランスを強みとしている。
これまでに50機以上の小型衛星を打ち上げており、現在も300機以上を生産中である。世界中に140社以上の顧客に採用され、打ち上げ後の初回通信成功率は100%を達成している。

IHI-SAT2 打上げの狙い
IHIが今回の衛星を打ち上げた目的は、大きく二つに整理できる。
一つは、観測データや解析技術を自社で確保し、森林管理や関連事業の高度化につなげることである。もう一つは、今後構想する観測衛星コンステレーションに向けて、運用技術とデータ活用の知見を蓄積する点にある。
1. 森林管理・カーボンクレジット事業の推進
IHIは、IHI-SAT2により世界各地のハイパースペクトル衛星画像を取得し、森林の樹種や生育状況、病害の兆候などを広範囲かつ高精度で解析・把握することを目指している。これにより、森林管理、樹種ごとの炭素固定量の違いを考慮したカーボンクレジット創出など、さまざまな分野における新たな可能性を検討している。
他社からデータを購入するのではなく、独自に衛星を保有、運用することで、必要なエリアのデータを迅速に取得し、森林の状態把握や解析技術の早期向上につなげる狙いだ。
今後は、住友林業と設立した合弁会社「NeXT FOREST」における森林管理事業の推進や技術の高度化にも、本衛星の成果を活用する方針を示している。

2. 衛星コンステレーション構想への布石
IHIは現在、光学・SAR・熱赤外線・VDESなど複数種類の小型衛星を組み合わせ、高頻度での観測を可能にする衛星コンステレーションの整備を進めており、その実現に向け、国内外で多様な取り組みを展開している。
今回のIHI-SAT2はこの一角を担う構想であり、ハイパースペクトル観測のみならず、衛星運用そのものの知見を蓄積する場としても位置づけられている。
IHIは今回のミッションで得られた知見を、今後のコンステレーション構築に反映していく方針だ。
※IHIの衛星コンステレーション構想に関する記事はこちら▼
さいごに
IHIは「技術をもって社会の発展に貢献する」という経営理念のもと、人工衛星の製造からデータ利活用までを一体で進める体制を強化している。IHI-SAT2は、その取り組みの中で得られる観測データや運用知見を活かし、森林管理やカーボンクレジット事業を持続性の高い形へ発展させることを目指す取り組みの一端を担うものだ。
また、今回の小型衛星運用で得られる知見は、将来のコンステレーションの構築やデータ活用サービスの高度化にもつながると考えられる。IHIが自社衛星を活用しながら宇宙データの自前化を進める動きは、国内企業が宇宙分野において新たな価値創出を図る流れを象徴するものといえる。
同社は今後、多様な観測手段やソリューションを組み合わせたエンジニアリングサービスの提供を進め、2050年カーボンニュートラルの実現に寄与するビジネスの拡大を図る予定だ。
IHIは現在、複数のポジションで人材を募集している。興味のある方はこちらからチェックいただきたい。

参考
超小型ハイパースペクトル衛星「IHI-SAT2」の打上げ成功(IHI, 2025-12-14閲覧)







