ワープスペース、世界に先駆ける光通信技術で40万㎞に挑む
©Space Connect

2023年4月20日、株式会社ワープスペースが、月と地球を結ぶ光通信システムの実用化に向けた検討・開発業務を、昨年度に続きJAXAより新たに2件受託したことを発表した。

月と地球間の通信システムは、近年活発に進められている月面探査・開発を行う上で必須の技術。

世界的に見てもまだ未発達の技術であるため、日本が世界に先駆ける可能性を持つ重要な分野であるが、なぜ今回、ワープスペースがこの事業の委託先に選ばれたのだろうか。

本記事では、その理由となる同社の技術や、業務の内容を紹介するとともに、海外の競合企業を調査し、ワープスペースの技術が世界をリードする可能性について検討した。

ワープスペースが選ばれた理由

まず、今回の事業において、JAXAの委託先にワープスペースが選出された理由となる同社の技術について説明する。

その技術とは、民間として世界初となる、人工衛星向けの光通信ネットワークサービス「WarpHub InterSat(ワープハブ・インターサット)」。

同サービスは、低軌道衛星の主流な通信方法である電波通信の「地上アンテナとの1回あたりの通信時間が短い。送れるデータの容量も少ない。結果、取得した地球観測データを全て送信できない。」という重大な課題を解決するためのサービスであり、光通信が可能な中継衛星3基を用いて、他の衛星から送られてきたデータを地上アンテナに即応的かつ高容量で伝送する。

以下に、従来の電波通信と光通信を活用したWarpHub Intersatの具体的な違いを示す。

ワープスペース
© ワープスペースHP

WarpHub InterSatが実現することで、いつでも一度に大量の地球観測データを、ほぼリアルタイムで、安全かつ高速に、地上に伝送できるのだ。

要するに、WarpHub InterSatの技術を活用することによって、遠い月からの超長距離での通信を実現するといったわけだ。

ワープスペースがJAXAから受託した事業

月-地球間の光通信技術を開発するため、ワープスペースは具体的にどのような業務を受託したのだろうか。

まず、昨年度受託したのは、月探査に向けた通信アーキテクチャの実用化に向けた検討業務である。

ワープスペース
©ワープスペース

月探査に向けた通信アーキテクチャは、以下の3つで構成されている。

  1. 月近傍通信
  2. 月地球間通信
  3. 月面通信

1つ目の月近傍通信は、月の周辺空間で行われる通信を指す。

これには、月周辺を周回する衛星や、月周辺空間で行われる宇宙船やローバー(月面探査車)間の通信が含まれる。

2つ目の月地球間通信は、月と地球の間で行われる通信のことだ。

これに該当するのは、月面から地球へのデータ送信や、地球から月面探査機への指令送信といった通信だ。

最後の月面通信は、月面上で行われる通信のことである。

月面探査機やローバー、将来の月面基地内での通信がこれに含まれる。

ワープスペースは昨年、上記の3つの通信において、新しい光通信技術を含む最適な通信方式を検討

さらに、これら3つの通信を組み合わせた際の、コスト通信状態の持続性メンテナンス性という観点から、実用化に向けた評価を行った。

そして本年度、ワープスペースが新たに受託した事業は以下の2つ。

  • 月近傍通信の設計についての検討
  • 月-地球間の長距離高速光通信を実現するための、通信を中継する衛星の位置や姿勢を特定・監視し、繋がりを維持する超高感度センサー[*1]と、その制御技術の開発業務

月ー地球間通信の競合企業

日本は、月と地球間を結ぶ通信分野において国際的な競争力を持つために、海外の競合企業よりも高度な通信を、より早く確立させなければならない。

では、海外において、ワープスペースのように、月と地球間の通信事業を行う企業にはどのような企業があるのだろうか。

筆者が注目したのは、以下の2つの企業だ。

  • Nokia(ノキア)
  • Aquarian Space(アクエリアン・スペース)

Nokiaはもともとフィンランドの通信機器メーカーであり、携帯電話分野で世界的に名を知られていた企業だ。

宇宙分野においては、2020年からNASAと提携し、月面での4G/LTE通信ネットワークの構築に取り組んでいる。

2023年後半にはサービスを開始する予定とされているが、同社の LTE ネットワークは時間とエリアに制限がある。

同ネットワークが動作するのは一月のうち、最大12日間の日中であり、エリアも、着陸船とローバー間の地上通信に限られる。

WarpHub InterSatの技術を考えると、ワープスペースがこれらの制約を克服する可能性は大いにあると考えられる。

また、Aquarian Spaceは、2015年に設立されたアメリカ発スタートアップ企業。

同社は、24時間365日使用可能な、地球・月・火星を結ぶ毎秒100メガビットの高速通信技術を開発。

2025年の第 2 四半期に最初の月面通信衛星の打ち上げを計画している。

しかし、1ギガビットという通信速度を誇るWarpHub InterSatの開発によってワープスペースが蓄積してきた技術をもってすれば、十分競争力を発揮できると考えられるだろう。

さいごに

今回JAXAより業務を受託した件に関して、ワープスペースCTOの永田 晃大氏は以下のようにコメントしている。

今回開発する技術は、超長距離での光通信を実現するために必要なキー技術の一つです。

本技術をベースとした効率的な通信インフラを実現することで、今後の月探査における通信分野で、日本が世界をリードしていけるかもしれません。

様々な知識層を巻き込んで切磋琢磨しながら日々進化する宇宙開発という分野の中で、ワープスペースとしても、世界の宇宙開発のステージにて日本の技術が突き進む後押しができるよう鋭意取り組んでいきたいと思います。

海外の宇宙業界のメジャー紙である「Via Satellite」によって、『2023年度注目の10社』に選出されるなど、海外からの注目も集めるワープスペースの技術は、今後、日本の月面開発・通信事業を確実に支えていくだろう。

補足

[*1]超高感度センサーにはInGaAs四分割アバランシェフォトダイオードを使用

参考

宇宙ベンチャーのワープスペース、月と地球を結ぶ光通信システムの実用化に向けた検討・開発業務をJAXAより新たに2件受託

4G internet is set to arrive on the moon later this year

Startup Aquarian Space aims to deliver high-speed internet at the moon (and maybe Mars)

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