2023年9月20日、株式会社IHIが航空・宇宙・防衛事業(空領域)のキャリア採用を強化することを発表した。
2024年3月までに変革人材100名のキャリア採用を目指すとし、特に業界外において高い専門性や経験を持つ人を積極的に採用する考えだという。
本記事では、ロケットや衛星の開発で、長年日本の宇宙業界を牽引してきたIHIがこのような取り組みを開始する背景とその意義について考察している。
IHIの異業種採用強化の背景
IHIが航空・宇宙・防衛事業において異業種人材のキャリア採用を強化する背景には、同事業を「成長事業」と位置付け、事業変革を進めるという意図がある。
同社は現在「グループ経営方針2023」のもと、社会的課題への取り組みや新しい価値の創出を目指し、各事業での変革を実施。
特に、宇宙事業含めた航空領域は、次世代航空機の技術開発、宇宙・地上・海中データの利活用など、既存技術の応用のみならず、新技術の開発が課題となっていた。
このような領域の新しい価値の創出や組織変革を追求し、技術革新が目覚ましい海外諸国の水準に追いつき、追い越すために、従来とは異なる視点や技術をもつ人材の採用を強化するに至ったのである。
宇宙業界全体で異業種の参入が増加
IHIは上記のような方針を打ち出したが、近年の宇宙関連業界全体を見ても、異業種からの参入や連携が増加している。
これは「宇宙」というフィールドが、多種多様な事業や活動が交差する場としての性格を強めてきたこと、そして技術革新が急速に進行していることが背景にある。
以下に、宇宙業界に異業種が参入している例を2つ紹介しよう。
1. 宇宙×自動車メーカー
大手の自動車メーカーであるトヨタは、月面での有人探査活動に必要な月面探査車を2019年よりJAXAと共同で研究開発。
レゴリス(月の砂)に覆われ、クレーターや岩石も存在する過酷な月面環境でも耐えうる性能の実現や、水と太陽光を利用して車を動かす燃料電池の開発など、自動車メーカーとしてこれまで培ってきた様々な知見や技術を、月面探査車の開発にも活かしている。
2. 宇宙×総合電機メーカー
ソニーは、宇宙空間を利用したエンタメに取り組む企業。
同社製のフルサイズカメラを搭載した人工衛星を打ち上げ、そのカメラで撮影された地球や宇宙の写真・映像を通して、新たな気づきや作品を生み出すという取り組みを行っている。
宇宙×異業種の可能性は無限大
ここで挙げた以外でも、保険、金融、農林水産業、建築、ITと、様々な業種が宇宙に参入しており、言うならば全ての業種が宇宙に参入し得る。
宇宙に必要な技術と地上での技術を組み合わせることにより、新しい価値を生み出すことが可能となるのだ。様々な宇宙関連企業が異業種人材を募集
また、他の宇宙関連企業を見ても、異業種の人材を採用している例や、募集をしている例は少なくはない。
ロケットや衛星の開発に携わる部門はもちろんのこと、広報や経営企画など文系職での採用も増えてきている。
また、宇宙関連企業の数も年々増加しており、事業内容も、衛星データを利用した農業アプリの開発や、宇宙開発をテーマにしたブロックチェーンゲームの開発など多種多様である。
さいごに
IHIの取り組みは、今後の宇宙業界の方向性や変革を象徴している。
長年培った宇宙技術をもつIHIが異業種人材を採用し、新たな技術や発想を用いることで、日本の航空・宇宙・防衛領域のさらなる発展に寄与すると期待されている。
これまでは限られた人しか携われないというような印象もある宇宙業界であったが、今はそうではない。
多くの人にとって、国も力を入れている成長産業である宇宙産業に入れるチャンスなのだろう。