
JAXAは2026年5月20日、新型宇宙ステーション補給機1号機(HTV-X1)が5月26日に大気圏へ再突入すると発表した。2025年10月の打上げから国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送をこなし、離脱後には独自の技術実証フェーズを遂行してきた。
本記事では「こうのとり」から進化したHTV-Xの基本機能と、1号機が軌道上でのミッション、再突入プロセスについてご紹介する。
目次
HTV-Xとは?輸送能力とモジュール設計の進化
HTV-Xは、2009年から2020年まで計9機が運用された宇宙ステーション補給機こうのとり(HTV)の後継機である。ISSに滞在する宇宙飛行士への水や食料、実験機材を送り届ける輸送手段として開発された。

機体設計のモジュール化と大型化
最大の変更点は機体設計のモジュール化である。こうのとりでは機体全体に分散していた飛行制御や推進システムを、HTV-Xではサービスモジュールと呼ばれる中枢部分に集約した。この部分に、荷物を積む与圧モジュールを組み合わせる構造を採用している。
また、電源供給方式が従来の機体表面に貼り付ける形から、展開式の太陽電池パドルへと変更された。
機体サイズは全長約8.0メートル(遮熱壁を含む)、最大直径は約4.4メートルである。モジュール構造の最適化により、物資の搭載重量はこうのとりの約4トンから最大約5.85トンへと約45%増加した。船内カーゴの輸送容積も約60%拡大して約78立方メートルを確保している。
最終荷積みタイミングの短縮
運用面では、レイトアクセスと呼ばれる最終の荷積みタイミングの短縮が図られた。打上げの80時間前が限界だった従来機に対し、HTV-Xでは24時間前まで搭載可能となっている。これにより、厳格な時間管理が要求されるライフサイエンス実験試料等の輸送要件に対応した。さらに、輸送中の貨物へ電力を供給する機能も強化されている。

打上げから軌道上での技術実証フェーズまで
HTV-X1号機は2025年10月26日にH3ロケット7号機で打ち上げられ、10月30日にISSのロボットアームに捕捉された後、共通結合機構(CBM)を介してISSに結合した。
係留期間中に物資の搬入、不用品の積み込み、および大型機器の輸送を実施し、2026年3月7日にISSから離脱を完了している。
ISS離脱後、HTV-X1号機は独自の推進系を用いて軌道高度を変更し、機体単独での技術実証フェーズへ移行した。このフェーズでは次世代の宇宙開発に向けた以下の3つの実証実験が計画・実施されている。
- 超小型衛星放出『H-SSOD』:日本大学が開発した超小型衛星てんこう2の放出。2026年3月12日に、搭載した放出機構(H-SSOD)からの放出完了が報告されている。
- 世界初のレーザー測距実験『Mt. FUJI』:機体外部に取り付けた小型リフレクターMt. FUJIを用いた、地上からのレーザー照射による軌道・姿勢推定の実証。
- 展開アンテナ『DELIGHT』と宇宙用太陽電池『SDX』の実証:将来の宇宙太陽光発電に向け、以下の大型構造物の展開・計測試験を実施。
- DELIGHT:展開型軽量パネル(DLP)を軌道上で展開し、その挙動や構造特性をカメラで計測。パネルに搭載された軽量平面アンテナを通じて地上からの電波受信レベルを測定し、展開機構およびアンテナ機能の実用性を検証。
- SDX:超高効率三接合太陽電池(PHOENIX型)および国産ペロブスカイト太陽電池を搭載し、軌道上での発電性能を実証。
大気圏再突入と制御落下の運用プロセス
1号機は2026年5月26日の23時10分頃(日本標準時)に大気圏へ再突入し、全運用を終了する予定である。この最終運用は、機体を安全に廃棄するための制御落下方式を採用している。

軌道離脱から大気圏突入への手順
再突入のプロセスは、機体の推進系を用いた複数回のエンジン噴射(軌道離脱マヌーバ)から開始される。この噴射によって機体は段階的に軌道高度を下げ、大気の影響を強く受け始める高度120キロメートル付近の大気圏界面へ、あらかじめ設定された角度とタイミングで突入する。
空力加熱による分解と南太平洋への落下誘導
高度120キロメートルを下回った機体は、極超音速飛行に伴う強烈な空力加熱を受け、大半の構造が空中で分解・焼却される設計となっている。
ただし、エンジン部品など一部の熱に強い構造物は燃え残る可能性がある。そのため、燃え残った破片が地上の航路や住居区から隔離された南太平洋上の指定海域へ確実に落下するよう、軌道が厳密にコントロールされている。運用を終えた大型宇宙機を軌道上のスペースデブリとして残さず、地上へのリスクを最小限に抑えるための確実な廃棄運用プロセスである。
さいごに
5月26日の大気圏再突入をもって、HTV-X1号機はISSへの物資補給から軌道上での技術実証、そして制御落下による廃棄に至る一連の運用プロセスを完了する。
今回実証されたHTV-Xの基本設計やモジュール構造は、地球低軌道(LEO)での運用に留まらず、今後の深宇宙探査に向けた輸送インフラの基盤として拡張される設計となっている。具体的には、米国が主導する国際月探査「アルテミス計画」において、月周回有人拠点「ゲートウェイ(Gateway)」への物資補給ミッションへHTV-Xを活用することも検討している。
1号機によって取得・蓄積された技術および運用データは、次世代機となる2号機以降の運用や、将来の深宇宙に向けたサプライチェーン構築の技術的基盤として引き継がれていく。
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