2023年2月9日、令和4年度の「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)に係る大臣表彰」を受賞した大樹町の表彰式が行われた。
北海道の大樹町は、令和3年度の寄付件数が80件で道内1位、全国でも2位となりました。
また寄付金額も驚異の7億2,800万円となり、道内では、2番目、全国では6番目となった。この金額は、前年度と比べ6億3500万円余り増えておよそ7.8倍の推移である。
大樹町は、35年以上前から“宇宙のまち”として発展してきましたが、近年のこの驚異的な成長スピードの源泉は、一体何なのだろうか。
本記事では、なぜ大樹町にここまでの寄付金額が集まるようになったのかについて、大樹町が実施する宇宙のまちづくりプロジェクトを踏まえて言及しようと思う。
宇宙のまちとしての大樹町
冒頭でも述べたが、十勝地方に位置する大樹町は、35年以上前から“宇宙のまち”として、発展をしてきた。
宇宙のまちとして注目された理由は、世界的にみても地理的に圧倒的な優位性を持っているからである。
大樹町が宇宙産業基地の適地であると断言できる4つの理由
- 臨海部は30kmにわたり平坦な地形が続き、人口密集地がない拡張性
- 南と東が太平洋に面している立地(軌道投入や軍事産業の観点で重要)
- “十勝晴れ”と言われる高い晴天率
- 帯広空港から車で約60分というアクセスの良好さ
上記の4つの理由から、大樹町では、昭和60年から航空宇宙産業の誘致活動を進めると同時に、宇宙のまちづくりの取り組みを35年以上も前から、JAXAを始め、企業や大学機関が航空宇宙実験を行ってきました。
2010年代には、北海道として産官学が連携し、十勝にロケット射場の実現を目指しさまざまな取り組みが行われ、構想の枠組みが定着。
そしてついに、2021年4月、宇宙に行くための空港である「北海道スペースポート(HOKKAIDO SPACEPORT)」(略してHOSPO、ホスポ)に民間企業も加わり本格始動した。
大樹町急成長の源泉は何なのか
では、35年以上前から宇宙のまちづくり政策を実施している大樹町だが、なぜ近年これほどまでに脚光を浴びるようになったのか。その源泉はどこなのか。
考えられる最適な理由としては、民間ロケット開発会社であるインターステラテクノロジズやスペースポートの運用・管理会社SPACE COTANなどの台頭により、これまで官主導で引っ張ってきた宇宙プロジェクトが世界的な流れに便乗して、民間主導へと移り変わってきたからである。
大樹町に数億規模の企業版ふるさと納税が集まる原因は、ここであると筆者は考える。
具体的に過去の事例から考察するに、官主導から民間主導に移り変わることのメリットとしては、以下の2つが考えられる。
- 民営化すると、市場原理が働きやすいため、経営や業務の効率化、事業の質が向上。また、競争性を高めるために、新しい技術やサービスの開発、導入も加速。
- 財務が効率化されるだけでなく、株式会社は株式の発行などによって事業の財源を確保できるため、公共機関の支出が減少。すなわち政府や自治体の財政負担を軽減できる。
実際に、国鉄や郵政の民営化で事業効率化や最新技術の導入など事業が大きく進展しているのは既知の事実であり、また人口5400人程の大樹町の一般財源だけでは、スペースポート建設の費用を賄うことは難しい。
上記の理由を踏まえると、民間企業がスペースポートを運用することは、非常に効果的であるが、その反面、業務の効率化や財源確保のためにプレイヤーは動き回る必要がある。
実際に華やかな功績の裏側では、企業版ふるさと納税の寄付を集めるために、十勝をはじめ、札幌、東京、そして全国、500社を超える会社に訪問したようだ。
インターステラテクノロジズが開発する小型ロケット「MOMO」の打ち上げの成功や近年の宇宙産業の盛り上がりは、もちろん寄付金額に大いに関係しているとは思うが、民営化によって、泥臭い営業活動が増えたからこそ、2年半で計110社9億円超の寄付が集まったのではないだろうか。
大樹町から見る地方創生の糸口
ここまでで企業版ふるさと納税の確保は、自治体の発展に大きく寄与することは、理解できたはずだ。
では、大樹町の事例を踏まえて、今後、全国の自治体は地域活性化のためにどのようなアプローチをとっていけば良いのだろうか。
大樹町の場合は、大樹町にある絶好の宇宙開発拠点の重要性を38年間かけて提唱、研究し続けた先人達の慧眼の眼が大きい。
その結果、人口よりも牛の方が多い町が北海道内で年267億円の経済効果をもたらすと予想される「奇跡の港」が誕生することになった。
また企業版ふるさと納税の場合、経営者の多くは、明確な目的に使われる納税をしたいと思っている。
そういった観点で見ても、地方創生の文脈やこれからの成長産業に早期参入できる可能性のある北海道スペースポートにお金が集まるようになるのは、自然な流れである。
結論を述べると、自治体にキラーコンテンツがあるかどうかが非常に重要になってくると言えるだろう。
後は、発見したコアになるコンテンツをいかに磨き上げれるかどうかが鍵になる。
まさに大樹町は今、そのフェーズに差し掛かっており、その役割を民間の宇宙ベンチャー企業がこれから担っていくことで、より鋭くなっていくだろう。
観光資源に+αとして、その場所特有のキラーコンテンツの発掘並びに研磨。自治体は、財源の確保並びに地方創生を考える上で、大樹町の成功事例を押さえておく必要があるだろう。
さいごに
いかがでしたか。
近年の大樹町の躍進の理由は、民間ベンチャー企業がリーダーシップを発揮し、宇宙のまちづくり事業に大きく関与していることが原因であるとこの記事では述べました。
ただ、この躍進の裏側には、1985年に宇宙のまちづくり事業が始まって以来、JAXAや大学の研究者をはじめ、たくさんの博識たちが知識を寄せあって、長い年月をかけて、信頼といった土台を築き上げてきたこと。
また町民の理解と支援があったからこそ大きく発展したのです。
大樹町のふるさと納税寄付の特徴として、他の自治体と比較して、寄付の件数が多いところに特徴がある。
それはすなわち、北海道スペースポートが沢山の人の夢と希望を乗せて、支えられている事業だということを象徴しているのではないだろうか。
宇宙版シリコンバレーの創出といった稀有でユニークな大樹町のこれからの未来に期待だ。
参考 :