2024年11月4日15時48分、H3ロケット4号機によるXバンド防衛通信衛星「きらめき3号」の打ち上げが実施され、ロケットの計画通りの飛行と、同衛星の正常な分離が確認された。
本記事では、この成功を踏まえ、H3ロケットときらめき3号の今後の計画についてご紹介する。
4号機のミッション結果と今後の展開
今回のH3ロケット4号機の打ち上げ成功は、2024年におけるH3ロケットの打ち上げでは3回目、H2Aロケットも含めると5回目の打ち上げ成功。
初号機の打ち上げ失敗から信頼回復を目指してきたH3は、着実に成功を重ね、期待が高まっている。
今回のH3ロケット4号機による「きらめき3号」ミッションの注目点は、以下の通り。
- 安全保障上の重要な役割を担うXバンド防衛通信衛星の搭載
- H3ロケットとして初となる静止衛星の打ち上げ
- ロングコーストミッションを見据えたデータ取得
Xバンド防衛通信衛星「きらめき3号」の搭載
「きらめき3号」は防衛省が保有・運用するXバンド防衛通信衛星の1つ。
Xバンド防衛通信衛星は赤道上から約 36,000 ㎞の高度を飛行し、地球の自転と同じ速度で移動する「静止衛星」で、地上から見ると常に衛星が「静止」しているように見えるため、地球上のほぼ同じ場所を観測し続けることができる。
利用目的は作戦部隊の指揮統制や作戦情報支援など、自衛隊の部隊行動に関わる重要な通信である。
現在「きらめき1号」、「きらめき2号」と、民間衛星の「スーパーバードC2」の全3機体制で運用されており、今回打ち上げられた「きらめき3号」は「スーパーバードC2」の後継機として日本のほぼ上空に位置し、通信を支援。
通信の高速化・大容量化を実現し、耐妨害性も向上するため、陸海空自衛隊の横断的な通信をより可能とし、海外広域で活動する部隊の必要十分な通信能力を確保できるようになる。同衛星は、予定の軌道に到着した後に性能確認等を実施し、今年度中には運用開始予定とのことだ。
H3初の静止衛星の打ち上げ
次に、H3としては初となった静止衛星の打ち上げである。静止衛星である「きらめき3号」はロケットによって静止トランスファー軌道(GTO)まで運ばれた後に、自力で静止軌道に移動している。
静止トランスファー軌道は、地球の表面に近い上空と、約 36,000 ㎞の静止軌道を結ぶ楕円形の軌道。地球低軌道に衛星を投入するよりも多くのエネルギーが必要となるため、ロケットにはより高い能力が求められる。
今回、ロケットは計画どおり飛行し、打上げから約29分11秒後に「きらめき3号」を正常に分離。JAXA 宇宙輸送技術部門 H3プロジェクトチーム プロジェクトマネージャーの有田 誠氏によると、軌道投入精度はH-ⅡAと比較しても非常に良いものとなっているという。
また、今回の打ち上げでは、H3では3号機で初めて実証された「スロットリング」技術も採用された。
通常の打ち上げでは、第一段エンジンの燃焼時に、燃料が消費されて機体が軽くなるにしたがって機体の加速度が大きくなり、搭載している人工衛星の負荷が厳しくなる。
そこで、通常よりもエンジン推力をあえて絞る「スロットリング」を行うことで、この加速度増加を抑えて、衛星搭載環境を向上させることができるのだ。
ロングコーストミッションに向けたデータ収集
さいごに、衛星の軌道投入後に行われた、将来の「ロングコーストミッション」を見据えたデータ取得である。
静止トランスファー軌道は、赤道面と並行に軌道が描かれた場合に、衛星が静止軌道への移動に消費する燃料を最も少なくすることができるが、赤道からやや高い位置にある種子島からの打ち上げの場合、静止トランスファー軌道が赤道面(静止軌道)に対して28.5度の軌道傾斜角が付くため、打ち上げ能力の観点でやや不利に働く。
これを解決するのが、ロケットの2段エンジンを再々着火することで、宇宙空間を長時間飛行(ロングコースト)し、衛星を「静止軌道により近い軌道」まで運ぶ「ロングコーストミッション」である。
このミッションによって軌道投入を行った場合、軌道傾斜角は約20度となり、衛星が消費する燃料を低減することができる。
今回のH3ロケット4号機では、「きらめき3号」の軌道投入までにエンジンの燃料をほとんどを使用。
そのため、実際に第2段エンジンを再々着火することはなかったが、ロングコーストミッションの条件を模擬し、実際のミッションで再々着火をするまでの位置、すなわち楕円軌道の半分程度の位置まで飛行してデータを収集した。
今後約1.5カ月をかけて、取得したデータを時系列に沿って解析し、エンジン再々着火時の温度や圧力の変動などを太陽の照射方向との関係を含めてモデルと実際のデータを照らし合わせ、どれだけ一致しているかを検証する。この解析結果は、将来のミッションに活用される予定である。
H3ロケットの今後のビジョン
今回、H3ロケット4号機の機体形態はこれまでの1~3号機と同様の機体形態である「H3-22S」であった。「H3-22S」では、LE-9エンジン(タイプ1A)2基、固体ロケットブースター(SRB-3)2本、ショートフェアリングが使用される。
段階的な開発が行われているLE-9エンジンに関しては、現在使用されているタイプ1Aは、全てが最終段階と同様の仕様ではない。
最終段階の仕様であるタイプ2については耐振動性と高性能を両立したものを現在開発中で、複数の方式を検討。近々、それぞれの方式について試験を行い、その結果をもってタイプ2の仕様が決定されるが、確定となるにはその後の認定試験にクリアすることが必要であるため、実用化までには年単位の時間が必要とされるとのことだ。
また、機体形態に関しては、固体ブースターを使用しない、一番安価で注目度の高い30形態の打ち上げを準備。これについては来年度の打ち上げを目指している。
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 H3プロジェクトマネージャーの志村 康治氏によると、 H3ロケットは回数を重ねる度に製造段階から工夫が加えられてコストが下がっており、目標とする打ち上げ金額に近づいているとのこと。
また、今年中に準天頂衛星「みちびき」5号機を搭載したH3ロケット5号機が打ち上げられる可能性があり、さらに来年度以降には年間6機の打ち上げを実現する予定となっている。
さいごに
いかがでしたか。
H3ロケット4号機による「きらめき3号」の打ち上げ成功は、日本の宇宙開発と防衛通信分野における重要な一歩である。
初号機の失敗を乗り越え、着実に信頼性を向上させてきたH3ロケットは、今後も高い打ち上げ頻度を目指し、更なる技術の発展が期待されている。
また、「きらめき3号」の運用開始により、自衛隊の通信能力が一層強化され、国内外における防衛インフラの充実が図られる見通しだ。