H3、5号機の打ち上げは2月1日!測位システムの自立に向けて「みちびき」を搭載
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2024年12月11日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、H3ロケット5号機による「みちびき6号機」(準天頂衛星)の打ち上げを2025年2月1日に実施することを発表した。

「みちびき6号機」は日本独自の測位衛星システムを支える重要な衛星である。本記事では、同衛星の重要性や特徴について、H3ロケットの概要・実績とともにご紹介する。

H3ロケットの概要と実績

世界のニーズに応える!H3ロケットとは

H3ロケットは、現在運用中のH-ⅡAロケットの後継機として開発されている次世代の大型基幹ロケットである。

開発の狙いとして、大きなものは以下の2つ。

  • 日本の人工衛星を自国での打ち上げ可能にする「自立性」を確保し、衛星打ち上げ費用の海外流出を防止すること。
  • 国外の衛星事業者からも選ばれる「国際競争力」を確保し、商業衛星を受注して産業基盤を強化すること。

これらの狙いを達成するために、H3は世界のニーズに応えるロケットとして、以下の3つの要素を実現する。

  1. 柔軟性:複数の機体形態を準備し、利用用途にあった価格・能力のロケットを提供。 また、ロケット組み立て工程や射場整備期間を従来の半分以下に短縮し、年間の打ち上げ可能機数を増やすことで、受注以降、迅速に衛星を打ち上げる。
  2. 高信頼性:H-ⅡAロケットの高い打ち上げ成功率(約98%)を継承し、確実に打ち上がるロケットとする。
  3. 低価格:特注の宇宙専用品ではなく自動車など他産業の優れた民生品を活用。生産方法も一般工業製品のようなライン生産に近づけることで、打ち上げ価格を低減。 固体ロケットブースターを装着しない軽量形態で従来の半額程度となる約50億円を目指す。

H3ロケットは、年6回程度の打ち上げを安定的に実現し、民間の商業衛星受注を増加させることを目標としているのだ。

3か月に1回の頻度で打ち上げに成功

H3ロケットの打ち上げ実績は以下の表の通り。

H3ロケット これまでの打ち上げ結果
H3ロケット これまでの打ち上げ結果 ©Space Connect株式会社

H3ロケットの打ち上げにおいて、1号機は残念ながら衛星の軌道投入失敗に終わったものの、2号機から4号機まで見事に成功を収めている。2号機以降を考えると、現在およそ3か月に1回のペースでの打ち上げに成功。もし5号機も成功すれば、1年の間に4回、打ち上げ成功することとなる。

日本における衛星搭載ロケットの年間打ち上げ成功回数は、2017年の5回が最多であり、最近では2022年には0回、2023年には2回と低迷が続いていた。

しかし、H3ロケットにより2024年では3回の打ち上げに成功。今後も打ち上げ回数のさらなる増加が期待される。

▲ H3ロケット4号機の打ち上げ結果についてはこちら

H3ロケット5号機のミッション

機体形態は「H3-22S」固体モータに懸念なし

H3ロケット5号機について、機体形態は1~4号機と同じ「H3-22S」を採用。この機体形態は第一段(下段)のエンジン「LE-9」2基、固体ロケットブースタ「SRB-3」2本、ショートフェアリングで構成されている。

H3ロケット 形態
H3ロケットの形態(文部科学省 HP内資料から引用)

「SRB-3」は先月地上燃焼試験中に燃焼異常を起こしたイプシロンSロケット第2段モータ「E-21」と同じく、固体燃料を使用するエンジンのモータだ。

「SRB-3」はモータ設計が「E-21」と異なるものの、一部共通点(イグブースタと材料の一部)があるため、JAXAはこれまでの地上燃焼試験等の開発結果および4号機までの飛行結果において再評価を実施。

結果、SRB-3としての設計がいずれも良好に検証されていること、H3ロケット5号機用として製造したSRB-3の検査データに特異なものが無いことが再確認された。

みちびき6号機の重要性と特徴

みちびきとは

準天頂衛星システム「みちびき」は、日本独自の高精度衛星測位システムだ。衛星測位システムとは、衛星からの電波を利用して位置情報を算出する仕組みを指し、米国のGPSが代表的な存在。みちびきは、言わば「日本版GPS」である。

地上で位置情報を取得するためには、4機以上の衛星と信号のやり取りが必要であり、衛星が増えることで測位精度が向上する。GPS衛星は地球全体をカバーし、どこでも測位サービスを提供できるように運用されている一方、「みちびき」は日本を中心としたアジア・オセアニア地域において、GPSなど地球全体を対象とした測位システムの精度を補強する役割を果たす。

そのため、「みちびき」の衛星は日本付近の上空に長く留まれるよう、北半球では地球から遠く離れた場所を遅い速度で通過し、南半球では地球の近くを早い速度で通過するように軌道を描く。これが、準天頂軌道である。

これにより、少なくとも1機が日本の天頂付近に位置し、地域における位置情報の安定性が確保されるのだ。

重要性と特徴

「みちびき」は2018年11月に4機体制でサービスを開始したが、現在は7機体制の構築に向けて開発・整備が進められている。みちびき6号機は、7機体制に向けた追加衛星のうち最初に打ち上げられる衛星だ。

7機体制で運用する主な目的は以下の2つ。

  • 安定性と信頼性の向上:他国の測位衛星が利用できない場合でも、日本の衛星のみで安定的に測位情報を提供。これにより、民生利用や安全保障において高い信頼性が確保される。
  • 測位精度の向上:測位システムが高精度化することでインフラ管理の効率化を促し、自動車、ドローン、農機などの自動化を進める。これによりスマートシティやスマート農業の実現が加速し、労働力不足や高齢化といった社会課題の解決や日本経済の活性化が期待される。

これらの実現に向けて「みちびき」は7機体制とされるだけでなく、6号機を含む追加の3機の衛星には、高精度に測位するための以下の2つのシステムを新たに搭載されている。

  • 衛星間測距システム:衛星同士の距離を測定することによって、衛星間の位置誤差を減らし、精度を向上させる。
  • 衛星―地上間測距システム:衛星と地上の間で双方向で距離を測ることにより、これまで衛星・地上双方の時刻情報により信号の到達時間から計算して求めた際の距離誤差を打ち消し、測位精度をさらに高める。

7機体制の「みちびき」では、高精度測位システムにより、スマートフォンなど、専用の受信機を必要としない衛星測位サービスの測位精度を、現状の5~10m程度から、1mに向上させることを目標としているのだ。

打ち上げ概要

H3ロケット5号機 打ち上げについての概要は下の表の通り。

「みちびき」6号機を載せたH3ロケット5号機は種子島宇宙センターから打ち上げられた後、東に向けて飛行。打ち上げから約29分4秒後に衛星を分離する予定だ。

H3ロケット5号機 打ち上げ概要
H3ロケット5号機 打ち上げ概要 ©Space Connect株式会社

さいごに

いかがでしたか。

H3ロケットは2号機以降安定的に打ち上げに成功しており、着実に実績を積み上げている。H3ロケットによる打ち上げ回数の増加と、民間企業との連携強化により、日本の宇宙産業の競争力は一層高まるだろう。

また、みちびき6号機の運用開始は、日本の測位システムの精度を一層向上させる重要な一歩だ。

打ち上げの成功、また次なる展開に期待したい。

参考

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