福島に宇宙企業が集結「福島スペースカンファレンス2024」

2024年8月9日、東北最大級の宇宙ビジネスカンファレンス『福島スペースカンファレンス2024』が開催された。

福島県は、インターステラテクノロジズ株式会社、AstroX株式会社、株式会社ElevationSpaceといった多くの宇宙企業が集まっており、宇宙産業の拠点として様々な動きが加速している。

本記事では、カンファレンスの様子を振り返りつつ、カンファレンスから見えた福島県で宇宙産業が加速する理由や今後の課題についてご紹介する。

福島スペースカンファレンス2024の全体像

まずは、福島スペースカンファレンスに参加したことがない方向けに、同カンファレンスの概要について説明する。

福島スペースカンファレンス2024の開催地となった福島県南相馬市小高区は、2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた地域だ。

現在は震災からの復興に向けて様々な産業に力が入れられており、航空宇宙分野はその1つ。「福島ロボットテストフィールド」など実験施設の提供や県内企業とのマッチング等、様々な形で宇宙企業をサポートしている。

今回、カンファレンスの会場となったのは小高区にある「浮舟文化会館」と「小高パイオニアヴィレッジ」だ。

小高パイオニアヴィレッジとは、ElevationSpaceやAstroXも入居する民間経営のコワーキングスペースで、小高区や周辺地域をフィールドに事業創出に取り組む起業家や企業のコミュニティ施設として運営されている。

カンファレンス会場となった浮舟文化会館(左)と小高パイオニアヴィレッジ(右) ©Space Connect

カンファレンスでは、東北で活躍する宇宙企業、投資家、大学など研究機関、自治体関係者や、日本の宇宙産業をリードする企業、政府関係者など、宇宙ビジネスや地域に関わる幅広い分野の方々が登壇し、計8つのトークセッションが行われた。

浮舟文化会館では、人材育成や衛星関連産業、宇宙輸送といったテーマについて、それぞれの課題を分析し、その課題に対して地域が何をできるかが活発に議論された。

一方、小高パイオニアヴィレッジでは、月面産業の可能性や宇宙産業におけるキャリア、資金調達についてディスカッションを実施。

時には質問も受け付けながら、より参加者と近い距離感でセッションが進められた。

セッションの内容については、一部を後程の章でご紹介する。

【※カンファレンスのスケジュールについてはこちら:福島スペースカンファレンス2024 HP

浮舟文化会館(左)と小高パイオニアヴィレッジ(右)でのトークセッションの様子 ©Space Connect

主催者が語る、カンファレンスの舞台裏

初開催となった昨年度は民間団体のみで開催されていた当イベントであるが、第2回目となる今年は南相馬市との共催でセッション数等の規模も拡大。

参加者も増えてチケットは完売し、宇宙業界関係者はもちろん、宇宙業界への参入を狙う企業、市や近隣市町村の自治体関係者、地域で活躍する社会人や高校生など、幅広い層の人々が参加していた。

では、福島スペースカンファレンス2024でこだわられたポイントや、参加者増加の理由はどこにあるのか等、主催者の但野 謙介氏にお話を伺った。

昨年度の初開催から宇宙産業が加速

但野氏によると、昨年度の福島スペースカンファレンス2023では、地域に関わる人たちが「宇宙産業を知る」というところに重きが置かれていたという。

そこでは宇宙産業の可能性や福島県で宇宙産業に力を入れる意義やメリットについて議論され、宇宙産業のキーパーソンが福島でつながる機会となり、開催以降様々な動きが加速した

実際に、南相馬市副市長の常木 孝浩氏は、今回登壇したセッションで以下のように語っている。

「正直に言うと、1年前までは宇宙産業に強い思いはありませんでした。しかし昨年度のカンファレンスで宇宙産業の可能性を知ってしまったんです。

今まで負だと思っていた震災の跡を、ロケットの発射場や実験を行うための場所としてプラスに活かすことができる。

これはやるしかないとのことで、複数企業との連携協定締結やロボットテストフィールドでの実証、専門部署の立ち上げなどを行ってきました。」

南相馬市副市長 常木 孝浩氏

今年度の目的はその勢いをさらに加速させることだ。

他では聞けない!?「社会を一歩進める」テーマを準備

今回のカンファレンスに向けて、但野氏は改めて国の政策動向等を丁寧に準備しつつ、福島が持つ資源や資産、これまで積み重ねてきた経験で宇宙産業にどのように貢献できるのか、一つ一つ丁寧に論点を整理したという。

この議論テーマ検討は、今回のカンファレンスで但野氏が一番手をかけたポイントだ。

皆さんが聞きたくなるようなセッションを用意することに尽きると思っています。

企業に地域で活躍いただいている中で、課題に対して何ができるのか、それぞれのセッションで有識者の意見をいただきながら皆で考えるための準備をしてきました。

44人のご登壇いただいた方と目線を合わせて検討するのは、時間もかかり大変ではありましたが、ニッチで聞き手を選ぶけれども他ではおそらく議論されていないようなものを丁寧に準備できたと思います。

例えば、衛星の量産化の課題をエンジニアの方たちと議論するとか、それに対して政策形成の担当者や宇宙企業をいれながらどうしたらバリューを発揮できるかを議論するというのは、なかなかこのようなカンファレンスでは行われないのではないでしょうか。

人を集めることがゴールではなく、みんなで議論しながら社会を一歩進めるきっかけを作るところがゴールです。それがすごく面白いものであれば結果としてついてくるのかなと考えていました。

福島スペースカンファレンス主催 但野 謙介氏
福島スペースカンファレンス主催 但野 謙介氏 ©Space Connect

地域にも、宇宙産業にも貢献するカンファレンスに

実際にカンファレンスには想定以上の人が参加。

登壇者からも「このメンバーで1時間話せる機会はなかなかなく、一緒に議論することで見えなかったものが見えてきた」などの声が集まっているという。

私たちにとって良いカンファレンスというだけでなく、日本の宇宙に関わる人たちにとっても役に立てたのではと思う。

今回たくさんの宿題をいただいたので、いろんなセクターの方々と情報を共有しながら、社会を前に進めるためにまた頑張っていきたい。

福島スペースカンファレンス主催 但野 謙介氏

と但野氏は語った。

宇宙産業における福島の強みと課題

さいごに、福島県で宇宙産業が加速する理由と、宇宙産業の課題に対してできることについて、トークセッション「宇宙港と宇宙輸送」の議論内容をもとにご紹介する。

行政や地域住民の「本気度」がスゴい

宇宙産業から見ると、福島県は東側に海が開けていて、ロケットを打ち上げやすい地理的な利点があり、さらに宇宙産業と相性の良い企業や技術がたくさんあるためサプライチェーンの獲得という面で強みがある。

もちろんこれらも現在福島県で宇宙産業が加速している理由であるが、より重要なのは「行政や地域住民の本気度」だろう。

カンファレンスの中で、南相馬市と連携協定を結ぶ企業は行政の対応の良さをとても評価しており、

  • ベンチャーのスピード感と同じ速さで意思決定をして、一緒にやろうと言ってくださったことが本拠地をここに構える決め手になった」
  • 親身にサポートしていただいている」
  • 他の自治体ができていることがここでできないはずがないということで積極的に協力していただいており心強い。そのリーダーシップが魅力」

などといった意見が飛び交っていた。

さらに、内閣府宇宙開発戦略推進事務局 参事官の山口 真吾氏は「内閣府の事務局に南相馬市の職員の方が派遣されて一緒に仕事しているんです。市の本気度が伝わってきます。」と述べた。

また、宇宙輸送はまだ成果がない新しい産業である上に、いかに他産業を巻き込んで一緒に進んでいけるかが重要であったり、打ち上げの際は交通や船舶の規制が必要であったりするため、地元の応援があること非常に重要となる。

これに関して、前職でこの地域で会計事務所を運営しており、東日本大震災の復興支援事業を中心に行っていたというSPACE WALKERの眞鍋氏は、

震災からの復興に向けて産業を盛り上げていくんだという地元の声が、今一番日本で力があると感じるので、そこに期待しています。」

と述べた。

地元の応援の大きさは、このカンファレンスの運営に宇宙関連ではない企業・団体が多数関わっていることからも伺える。

主催者の但野氏も、宇宙業界を専門にしてきた方ではない。

以上のように、今回のカンファレンスでは行政と地域住民の本気度が伝わり、これが福島県で宇宙産業が活発化している理由であると強く感じられた。

「宇宙港と宇宙輸送」セッションの様子 ©Space Connect

宇宙産業を福島からさらに発展させるには

では、南相馬市を中心にロケット等を打ち上げるスペースポート(宇宙港)の構想も始まる中で、この地域で宇宙産業をより形にしていくためには何が必要なのか。

将来宇宙輸送システム株式会社 代表取締役CEO 畑田 康二郎氏は、

「日本のロケットエンジンの燃焼試験設備は不便なところがあり、正直苦労することもあります。また、ロケットを再使用するために必要な試験設備も、20年間程その研究が行われていなかった関係で老朽化が進んでいます。なので、最新の試験設備がこの地域にあればとても魅力的ですね。」

と語った。

ロケットや衛星の開発に必要な振動試験や落下試験、材料試験等様々な試験の設備は全国に散らばっているため、事業者は試験ごとに各場所に向かう必要がある。

そのため、開発に必要な試験設備が同じ地域に集積し、すべて完結できるようになれば、宇宙事業者の負担が減り、地域に事業者が集まる要因になるだろう。

同時に、試験を行う事業者や、また宇宙港ができた際には打ち上げを見に来る方々向けに、交通関係や宿泊施設などインフラ設備の拡充も必要となってくる。

福島県は、他の民間宇宙港がある北海道や和歌山県よりも東京からの距離が近いが、通常の状態では東京と南相馬市間を結ぶJR常磐線は新幹線が運行しておらず、少なくとも約3時間半以上移動に要するため不便さが感じられることもあるのではないだろうか。

しかし、南相馬市には、福島県相馬地方の伝統的な祭典である「相馬野馬追」の日にち限定で運行し、およそ2時間で東京まで向かう特別特急がある。

この特別特急や新幹線等、短時間で東京まで移動できる手段があれば、より多くの事業者が、南相馬市の施設・設備を使用する機会の増加に繋がるだろう。

また、ASTRO GATE株式会社 代表取締役CEOの大出 大輔氏は、

「相馬野馬追ではこの地域に何万人もの人が集まるから運行されるわけですが、ロケットを打ち上げるとなった際もたくさんの人が集まりますよね。ロケットを毎日打ち上げていれば、毎日野馬追号が走っているわけです。

各宇宙輸送企業によって毎日のようにロケット打ち上げが行われれば、地域住民にとっても東京まで約2時間でいける環境が毎日整っているというメリットになると思います。」

と述べた。

カンファレンスの後は懇親会も

カンファレンス終了後は、懇親会参加者は小高区の復興拠点施設「小高交流センター」に移動。

懇親会では、伝統的なほら貝の演奏「礼螺奉吹(れいがいほうすい)」や福島県相馬地方の民謡「相馬流れ山」、かつて福島県沿岸北部を統治していた旧相馬中村藩主家の第34代目当主・相馬 行胤氏によるスピーチ等、地域の豊かな文化と歴史に触れて会がスタート。

小高区の相馬牧場で育った羊肉をはじめ、地元の美味しい食やお酒が振舞われ、参加者はそれらを楽しみながら他の参加者と交流を深めていた。

旧相馬中村藩主家の第34代目当主・相馬行胤(そうまみちたね)さん ©Space Connect

さいごに

いかがでしたか。

福島県には企業、自治体、地域それぞれに熱い思いを持ったプレイヤーがいる。

懇親会では、但野氏がスピーチで震災での経験を振り返り涙ぐむ場面もあった。

しかし、そのような経験があるからこそ、今この地域がより良い形を求めて発展していくのだろう。

来年度の福島スペースカンファレンスは8月8日に開催とのこと。

一体1年でどれだけ産業が加速し、どのようなカンファレンスになるのだろうか、非常に楽しみだ。

参考

福島スペースカンファレンス2024 HP

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