JAXAと株式会社IHIエアロスペースが開発したイプシロンロケット6号機の打上げ日程・詳細が下記の通り公開された。注目を浴びているのは株式会社QPS研究所が開発する人工衛星2機の搭載。
イプシロンロケット初の商業衛星打ち上げとなる。- 打上げ予定日 : 2022年10月7日(金)
- 打上げ予定時間帯 : 9時47分頃~9時58分頃
- 打上げ予備機関 : 2022年10月8日(土)~ 2022年10月31日(月)
- 打上げ場所 : 内之浦宇宙空間観測所
※オンライン・オフラインでパブリックビューイングが実施予定
IHIエアロスペース社は、日本を代表するロケットの総合メーカー。固体燃料ロケットの技術を応用し、科学観測や実用衛星打上げ用ロケットの開発を行うことにより、日本の宇宙開発の一部を担う。
対してQPS研究所は、2005年に福岡で創業された注目の宇宙ベンチャー企業。全国25社以上のパートナー企業とともに宇宙技術開発を行っている。
今回、IHIエアロスペース社がQPS研究所の人工衛星の打ち上げを受注し、それをJAXAに委託したことでイプシロンロケット6号機への搭載が決定。
それに伴い、元々搭載予定であった3つの人工衛星を別ロケットでの打ち上げに変更した。日本の基幹ロケットであるイプシロンロケットが商業衛星の打上げを行う理由とは何だろうか。この記事では、その背景を追うと共に、搭載されるQPS研究所の人工衛星の魅力について解説する。
商業衛星に厳しい!?日本のロケット打ち上げ状況
現在、世界中で宇宙ビジネスが盛り上がりを見せており、2040年には世界の宇宙産業は100兆円超えの巨大市場に成長することが見込まれている。既にGPS機能、Googleマップなど、宇宙からの人工衛星データは身近なところで活躍。
今後も、人手不足の解消や食料の安定供給といった社会課題の解決に、衛星データの活用などの宇宙利用がさらに進むと予想されている(宇宙ビジネスってどんな仕事)。
同時に人工衛星の需要は拡大。日本でも多くの企業・研究機関が実用化を目指し、開発を進めている。
しかしその一方で、人工衛星を宇宙に運ぶためのロケットの不足、打ち上げの際の高額な出費が課題に。世界では2021年にロケットが140回程度打ち上げられているが、日本での打ち上げ回数はたった3回。
さらにその大半が国のミッションによるものであり、商業衛星の打ち上げとなるとほとんど機会がない。その結果、日本の人工衛星も海外での打ち上げを余儀なくされ、その際にかかる移動費なども企業にとって大きな負担となっている。
商業衛星打上げに向けたイプシロンロケット
そんな中、舞い降りてきたのが今回のニュースだ。
イプシロンロケットは、60年以上に渡り蓄積されてきた固体燃料ロケット技術を結集させた、日本の基幹ロケット[*1]である。これまでに5号機までの打ち上げに全て成功し、
- コンパクトな打上げ運用(発射管制、点検)
- 世界トップレベルの衛星搭載環境(音響、振動、衝撃)
- 打上げ需要の高い太陽同期軌道への投入・高い軌道投入精度(3号機で実証)
- 複数衛星同時打上げ(4号機で実証)
を実現してきた。これまではどの国も政府主導で宇宙開発を行ってきたが、昨今は民間企業での宇宙開発が進み、商業衛星市場が活発化。
そこで現在、日本の宇宙産業の規模拡大を目指すため、イプシロンSロケットと呼ばれるこれまでのイプシロンロケットを増強したニュータイプのロケットがJAXAとIHIエアロスペース社によって開発が進められている。
とりわけ、国際競争力の強化を意識したものになっており、
- 打上げコストの低減と基幹ロケットの高い信頼性との両立
- 衛星の運用性向上(高い打上げ頻度など)
等が期待されている。2023年に同ロケットの初号機が打ち上げられる予定で、NECが開発するベトナム向け地球観測衛星が搭載されることも既に決定している。
国家ミッションの打ち上げに留まることなく、商業衛星・海外衛星の打ち上げ市場においても、受注・打ち上げの取り組みを加速していく方針だ。
イプシロンSロケットが商業衛星打上げ市場に参入することによって、日本の運用衛星の増加や、イプシロンロケット全体の利用価値の向上を目指す。
今回の打ち上げは、これから展開されるイプシロンSロケットプロジェクトに弾みをつけるものとして非常に大きな役割を担っているだろう。
日本一の画質!?搭載されるQPS研究所の人工衛星とは
イプシロン6号機に搭載されるのは、QPS研究所が開発する小型SAR衛星[*2]「QPS-SAR」の3号機と4号機。QPS-SARは従来の20分の1の質量、100分の1のコストとなる高精細小型SAR衛星。
高収納、軽量でありながら大型の展開式アンテナが搭載されている優れものだ。
同社は現在、QPS-SAR1号機「イザナギ」、2号機「イザナミ」の2機を運用。2021年5月には「イザナミ」により、70㎝分解能という民間の小型SAR衛星として日本で最高精細の画像の取得に成功した。
3号機「アマテル-Ⅰ」、4号機「アマテル-2」は太陽同期軌道に投入され、地球観測サービスにおける全地球観測対応の強化を図る。4機の人工衛星を運用し、より高頻度に地球観測を行う予定だ。
また、3、4号機の開発にあたり、以下の4点が改良されている。
- 展開型太陽電池パネルとバッテリーの追加
→ 使用できる電力量を増やすことで、さらに精細な観測データをより多く取得。 - アンテナのリブを24本から36本へと増加
→ 従来以上に表面が滑らかなパラボラ型に展開し、さらに強い電波を出力。 - 軌道上画像化装置を搭載
→ SAR観測データを軌道上の衛星内で処理し、衛星からのダウンリンク量の大幅な圧縮が可能。即応性の高い観測ニーズへの対応が期待される。 - 軌道制御用のスラスターを搭載
→干渉解析[*3]のニーズに対応
まとめ
今回、イプシロンロケットが初の商業衛星の打上げを行う理由としては、新たに開発中のイプシロンSロケットのサービス展開に弾みをつけるものであると推測することができる。
これまでの型と同水準の性能で、打ち上げコストの低下・衛星の運用性の向上を目指すイプシロンSロケット。国内でも民間小型ロケットの開発が進んでおり、今後、日本の人工衛星の打ち上げ頻度は増加していくと予想される。QPS研究所のような高い技術力を持つ衛星が社会に実装されることも増え、宇宙産業を身近に感じることができる時代が少しづつ迫ってきている。日本の宇宙産業の更なる発展に期待だ。
注釈:
[*1]基幹ロケット安全保障を中心とする政府のミッションを達成するため、国内に保持し輸送システムの自律性を確保する上で不可欠な輸送システムを担っているロケットのこと。
(宇宙政策委員会における審議(平成25年5月30日)より)
電磁波(マイクロ波)を地表に向けて照射し、反射して返ってきた電磁波を受信・解析することで地表の状態を画像化する。天候や時間帯に関係なく地表を観測可能。
[*3]干渉解析時間差で同じ場所から観測したデータの差をとることにより、地表の変位(地面がどれだけ動いたか)を測定すること。
参考:
イプシロンロケット6号機による民間小型SAR衛星の受託打上げおよび革新的衛星技術実証3号機打上げスキームの一部変更について
QPS研究所の小型SAR衛星3号機および4号機の打上げ日程についてお知らせ
IHIグループ初となる衛星打上げを受注 ~九州発のスタートアップ企業QPS研究所の商業観測衛星2基をイプシロンロケット6号機で打上げ~