競争激化!アンテナ不要の「スマホと直接繋がる」衛星通信に取り組む企業
©Space Connect

AST SpaceMobile社の開発する「BlueBird衛星」の打ち上げが、2024年9月12日に実施される予定となっている。

BlueBird衛星は、「Direct to device」、「D2D」などと呼ばれる、通常のスマートフォンが直接アクセスできる衛星通信システムを実現するための衛星である。

近年、様々な企業がこの技術に注目して実現に向けて動いており、市場の競争は激化している。

本記事では、Direct to deviceに取り組む企業について、その特徴や現在の状況をご紹介します。

衛星通信とDirect to device

はじめに、衛星通信とDirect to deviceという技術についての基本概要を説明する。

衛星通信の基本

地上における通常の通信では、スマートフォンやパソコンでインターネットや電話を使用する際、地上にある基地局やアンテナを通して通信を行っている。

例えば、街中やビルの上に立っている「電波塔」がその基地局だ。そこから電波が飛び、私たちのスマホに届くことで、電話をしたりネットにアクセスしたりすることができる。

しかし、基地局がない場所、例えば山奥や海の上では、電波が届かないことがある。そこで登場するのが地球上空を周回する衛星を利用する「衛星通信」だ。

衛星通信では、衛星用の地上アンテナもしくは専用機器から送信された電波を衛星が受信し、その情報を地上の別の場所に送信する。

これにより、地上の通信インフラが整っていない場所でも広い範囲で通信サービスを使用できるのだ。

衛星通信は、従来は赤道上空約3万6,000㎞の静止軌道上にある衛星が主に利用されていたが、近年では高度数百㎞から数千㎞の低い軌道上を周回する衛星を利用する方式が増加。

低軌道衛星を使用すると、地上との距離が近く、衛星が情報をやり取りできる面積の広さが狭くなるため多数の衛星を打ち上げて連携させる必要はあるが、より遅延が発生しにくいという利点がある。

現在、SpaceXのStarlinkサービスを始めとした様々な企業が衛星通信サービスを展開しており、市場競争は激化しているのだ。

衛星通信サービスのイメージ
衛星通信サービスのイメージ (総務省内資料から引用)

Direct to deviceとその課題

衛星通信サービスの中でもとりわけ注目なのが、衛星とスマートフォンを直接つなぐ、「Direct to device」などと呼ばれる技術である。

このDirect to deviceは従来の衛星通信の進化形で、衛星と電波を送受信するためのアンテナや専用の通信機器等を使わずとも、普段使用しているスマートフォンのみで衛星通信が利用可能となる。

しかし、この技術には以下のような課題もある。

  • 電波の周波数帯域の確保
  • スマートフォンの電波送受信能力の小ささ

まず、電波はテレビや船舶用通信など、利用用途によって使用できる電波の種類(周波数)が異なっており、これまではスマートフォンが使用する電波と衛星が使用する電波の種類も異なる。

そのため、スマートフォンと衛星が直接通信するためには、地上でスマートフォンが使用している電波を衛星も使用する必要がある。

ただし、その電波はすでに地上の通信事業者が使用の権利を持つもので、衛星が同じ電波を使うためには、地上の通信事業者と連携しつつ、干渉を防ぐための規制をクリアしなければならない。

また、各国ごとに異なる周波数帯域の割り当てや規制が存在するため、国際的な調整も必要不可欠だ。

次に、技術的な側面からは、スマートフォンは電波を受信する力、送信する力がともに小さいという課題もある。

このため、500㎞ほど離れた衛星とスマートフォンが直接通信することは非常に困難なのだ。

Direct to deviceに取り組む企業

Direct to device市場では非常に活発な競争が繰り広げられており、各衛星事業者がより高速で安定したサービスを実現するための技術開発等に力を入れている。

また、モバイル通信事業者は、衛星事業者と連携して自社のネットワークにDirect to device機能を組み込むことで、新たなサービスの提供と顧客獲得を目指している。

ここからは、Direct to deviceサービスを開発する主な衛星事業者を紹介する。

AST SpaceMobile

AST SpaceMobileは、スマートフォンと衛星間での音声およびデータの5G接続に世界で初めて成功した企業。

低軌道上で最大規模の通信アンテナによって、電波を送受信する力が弱いスマートフォンとの通信を可能にし、基本的な音声やテキストだけでなく、インターネットブラウジングやファイルのダウンロード、ビデオのストリーミングなどを可能とする技術も獲得した。

アメリカでは、大手モバイル通信事業者のAT&TVerizonの2社と戦略的に提携。これらの企業が持つ電波を使用して、Direct to deviceサービスをアメリカ全土で提供する準備を進めている。

また、日本では楽天モバイル株式会社と提携。同社とは2023年4月には低軌道の実証衛星「BlueWalker 3」と市販スマートフォンとの直接通信による音声通話試験を実施し、世界で初めて成功した。

その他にも、世界中に合わせて40社を超えるモバイル通信事業者と契約および合意を締結しており、運用開始後、合計25億人以上のモバイルユーザーにDirect to deviceサービスを提供する予定である。

©AST SpaceMobile

SpaceX

SpaceXは、Starlinkを利用してDirect to deviceサービスを運用する。

Starlinkは低軌道の小型通信衛星で、現時点では6,000機以上の衛星により低遅延の通信衛星サービスが提供されていると見られている。

同社は、2024年1月からDirect to deviceに対応したStarlink衛星を打ち上げており、その数はすでに150機以上。

この衛星では、開発した衛星の用途に特化した半導体チップ受信感度が高いかつ強い信号を送信可能なアンテナを搭載することで電波の送受信力を強化。テキストメッセージの送受信テストにも成功した。

SpaceXは、アメリカではもう一つの通信大手であるT-Mobileと提携。また、アメリカ以外では日本のKDDIをはじめ、オーストラリアやカナダ、ニュージーランドなど少なくとも計7か国の事業者と連携している。

2024年にはテキストメッセージ、2025年には通話やブラウジングへのアクセスを提供する計画だ。

Starlinkを使用したDirect to deviceの概要
Starlinkを使用したDirect to deviceの概要 ©SpaceX

Lynk Global

Lynk Globalは、2017年に設立し、世界で初めて通信衛星とスマートフォンの接続に成功した企業。

50か国以上に通信サービスを提供する40以上のモバイル通信事業者と連携して7大陸全てで実証試験を成功させている。

2022年9月にDirect to deviceサービスのための商用ライセンスを世界で初めてFCCから取得して、2023年6月にパラオで最初のDirect to deviceによる緊急アラートとSMSメッセージのサービス提供を開始。

現在は少なくとも30か国で規制当局の承認を受けており、ソロモン諸島やパプアニューギニア等、様々な国でサービスの提供や契約締結を進めている。

2024年4月には、米国政府にもサービスを提供する契約を締結した。

Globalstar

Globalstarは1990年代から活躍する、衛星通信を利用したサービスを提供する企業である。

高度約1,400㎞に31機の低軌道衛星を配備しており、地球表面の80%以上から、極域や海洋中央部など一部地域を除くどこからでも信号を受信する。

基本的には地上のアンテナや専用機器を介して衛星通信サービスを提供するが、2022年にAppleと提携し、iPhoneと直接繋がる衛星通信サービスを開発。

同年に発表したiPhone 14 およびiPhone 14 Proのモデルから衛星に直接通信できるようになり、携帯電話や Wi-Fi の通信範囲外でも緊急サービスにメッセージを送る機能をアメリカとカナダで提供開始した。

現在は、Direct to deviceが可能な改良型の衛星の打ち上げ・運用に向けて準備を進めている。

激しくなる市場競争

上記のように、Direct to deviceの開発を進める企業は様々ある。

Direct to device 企業比較
Direct to device 企業比較 ©Space Connect

Lynk Globalは地上での通信インフラが充実していない地域を中心にDirect to deviceサービスの提供を目指しており、GlobalstarはiPhoneユーザー限定で同サービスを展開。しかし、両社ともその利用用途は緊急連絡やテキストメッセージに限られている

AST SpaceMobileは、BlueBird衛星5機の配備・運用について、2024年8月5日にFCCから条件付きで承認を得られたものの、地上でスマートフォンが使用する電波を使用したサービスの実証については許可を与えるかどうかの決定が延期されている。

同様に、サービスのカバー範囲拡大のために追加する243機の衛星の運用についても承認が得られていない状況だ。

Starlinkも同様に、商業利用に関するFCCの承認は得られていないようだ。

また、SpaceXはDirect to deviceサービスの実現に向けて、制限を超える強さの電波を使用できるようにFCCに申請しているが、AST SpaceMobileと提携するAT&T、Verizonなど複数の企業が地上の通信サービスに干渉する恐れがあるとして、SpaceXの申請を拒否するようFCCに求めている。

Globalstarの提携先であるAppleは、2024年9月9日に発表したiPhone16モデルにて、衛星経由のテキストメッセージ機能を緊急時以外にも対応を開始すると発表。

さらに、緊急連絡の際には写真やビデオも共有可能となる。

どの企業が先にサービスを開始できるのか、また、どの企業が先に音声通話やインターネット接続等を実現できるのか。まだあらゆる可能性があるだろう。

日本では楽天モバイル vs KDDI!?

日本では、楽天モバイルがAST SpaceMobileと連携し、2026年からのサービス開始を発表。また、KDDIがSpaceXのStarlinkと連携し、2024年からのサービス開始を発表している。

Appleは、2024年7月から日本での衛星通信を利用した緊急SOSサービスを開始した。

どの企業が日本において市場を握るのか、今後のの動向に注目である。

また、日本全域で利用できる通信サービスという点においては、ソフトバンクが進める、高度20㎞の成層圏を飛行する無人航空機を利用した通信サービス「HAPS」と衛星通信等を組み合わせた通信サービスについても展開が気になるところだ。

さらに、非常に小さな衛星を一体化させ、1つの巨大な衛星のように高度に機能させる「フォーメーションフライト」の実現を目指すインターステラテクノロジズも、どのように対抗していくのか注目である。

さいごに

いかがでしたか。

AST SpaceMobileの最初の商用衛星「BlueBird」5機は、9月12日の打ち上げを予定されている。

同社は無事打ち上げに成功し、電波利用の許可を得てDirect to deviceサービスの実証に進めるのだろうか。

打ち上げは、同社YouTubeチャンネルにて配信するとのこと。興味のある方は是非ご覧いただきたい。

©AST Space Mobile

参考

AST SpaceMobile プレスリリース
楽天モバイル プレスリリース
AST SpaceMobile HP
SpaceX HP
Lynk Global HP
Globalstar プレスリリース
SPACE NEWS
SPACE NEWS
SPACE NEWS
総務省HP内資料
Apple プレスリリース

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