2025年1月23日、三菱電機株式会社は、「だいち4号」が、衛星から地上局への直接伝送速度3.6Gbpsを記録し、「最速の地球観測衛星から地上局への直接伝送」として2024年12月19日にギネス世界記録TMに認定されたことを発表した。
本記事では、「だいち4号」が世界最速の通信を実現できた理由について解説する。
目次
だいち4号とは
「だいち4号」は、2014年5月に打ち上げた地球観測衛星「だいち2号」の後継機。
三菱電機が主要製造者として設計・製造を担当しており、JAXAと協力して開発した。
「だいち4号」はSARレーダー(合成開口レーダ)を搭載しており、電磁波の一種であるマイクロ波(波長1m以下)を地表に当てて、その反射を受信する。
太陽光を光源として撮影する光学衛星とは異なり、雲に覆われている場所や夜間における観測も可能だ。
地表の形状や性質に関する画像情報を取得し、発災後の状況把握や火山活動、地盤沈下、地滑り等の異変の早期発見、土木・インフラ管理、作物の生育状況把握など農業での活用、森林伐採の監視などに貢献。
数センチメートルの精度で地表の動きを捉えることができ、災害時の道路や構造物の変位を早期発見可能で、点検・管理のコスト低減、効率化も期待される。
どのくらい速いのか
今回「だいち4号」がギネス世界記録TMを達成したのは、最大2,000㎞以上離れた地上局(衛星と通信を行うための地上設備)に、他の衛星等を経由せず直接データを伝送する際の通信速度である。
その伝送速度:3.6Gbps(ギガビット毎秒)は、一般的な家庭のインターネット回線の伝送速度(1Gbs以下)と比較して約4倍以上。
具体的には、1秒間に約450MBのデータを転送でき、1時間のフルHD動画(解像度1080p)であれば約5秒で転送することが可能な速さだ。
この高速通信能力は、観測データを迅速に地上局へ送信するために欠かせない要素である。
世界最速を達成できた理由
技術開発の背景
「だいち4号」は、現在運用中の「だいち2号」と比較して観測幅が4倍広い。高分解モードであっても観測幅は200㎞にも達し、その広さは東京駅から新潟県海沿いの上越市までの距離に相当。その結果、取得されるデータ量も大幅に増加している。
さらに、「だいち4号」は約90分の周期で地球を周回し、1つの地上局と通信できる時間はわずか10分程度。この短い時間内に観測データを効率よく伝送することが求められる。
これらの運用要求に対応するため、短時間に大容量のデータを伝送するシステムが開発されたのだ。
これにより、例えば線状降水帯などの豪雨被害や大規模地震、複数の火災噴火など被災地が広範囲にわたる場合においても、全体の状況を素早く把握することが可能となっている。
技術の特徴
「だいち4号」のギネス世界記録TMの達成を支えた技術の特長は以下の2つ。
① 一度に多くのデータを送受信可能なKaバンド帯域を効率的に活用
「だいち4号」は、「だいち2号」に用いたXバンド(8GHz帯)よりも、利用可能な周波数帯域が広いKaバンド(26GHz帯)を採用。これにより、一度に多くのデータを送受信することが可能となった。
さらに、1つの通信路で複数の信号を異なる周波数帯域に分けて同時に伝送する「周波数多重化技術(1.8Gbps×2周波)」および、本来複数の信号で表現される情報を1つの信号で伝送する「多値変調方式(16QAM)」を併用。
これらの技術により、周波数帯域を有効活用し、通信効率を向上させることで大容量データ高速伝送を実現したのだ。
➁ 雨や大気で減衰しやすいKaバンドの信号を補填し、高品質化
Kaバンドは広い周波数帯域を持つ一方で、雨や大気の影響による信号の減衰が課題となる。
これを克服するため、「だいち4号」では信号増幅器の高出力化を行うことで信号の強さを増強し、減衰分を補填。
しかし、衛星の限られた電力リソース内で高出力化を行うと、信号に非線形の歪みが生じて通信品質が劣化してしまう。そこで、この課題に対応するための歪みを補償する技術(DPD技術)が新たに採用された。
これにより、高速・大容量伝送時でも高品質な伝送を実現したのだ。
さいごに
いかがでしたか。
「だいち4号」が記録した伝送速度3.6Gbpsは、単なる技術的成果にとどまらず、地球観測や災害対策の現場において大きな意義を持つ。
被災地の広範囲な状況把握や災害対応の迅速化、さらには農業やインフラ管理など、多くの分野での活用が期待されている。
この記録は、衛星通信技術の進歩を象徴するものであり、さらなる技術革新に向けた道を切り開くものである。これからも日本の衛星技術がどのように進化し、社会に貢献するのか、引き続き注目していきたい。