2024年3月5日、株式会社アクセルスペースは、同社10機目となる小型衛星「PYXIS」の打ち上げおよび軌道投入に成功したことを発表した。
PYXISは同日にバンデンバーグ宇宙軍基地(アメリカ・カルフォルニア州)からSpaceXのロケットFalcon9によって打ち上げられた。
すでに地上との通信にも成功しており、今後は搭載機器の動作を確認する初期運用フェーズを経て、周回軌道上で実際にミッションを行う定常運用フェーズへの移行を段階的に進めていく予定だという。
本記事では、PYXISが挑むミッションについてご紹介します。
アクセルスペースとは
アクセルスペースは、2008年に設立された、小型衛星のパイオニアとして業界をリードする日本の宇宙ベンチャー企業である。
世界初の民間商用の小型衛星となったウェザーニュース社の「WNISAT-1」を2013年に打ち上げて以来、9機の衛星を開発・製造。
小型衛星に関する知見や技術も、自社の衛星を所有する民間企業も少ない時代から、世界の小型衛星市場を築いてきた。
同社の主な事業は2つ。
1つは、衛星の受託開発事業を発展させた小型衛星の開発・運用のワンストップサービス「AxelLiner」。
もう1つは、世界のあらゆる地域を高頻度で観測可能にした次世代地球観測プラットフォーム事業「AxelGlobe」である。
AxelGlobeでは5機の人工衛星により同一地点を2日に1回以上の撮影頻度で観測しており、その解析データを利用して地上での活動に役立てることができる。
アクセルスペースは宇宙産業におけるハードとソフト、どちらの領域においても存在感を強く示している企業なのだ。
PYXISが挑むミッション
PYXISは地球の周りを周回する軌道上で、3つの実証を行う。
1. 「AxelLiner」で搭載する衛星の共通システムの実証
PYXISは、同社のサービス「AxelLiner」における実証衛星の初号機だ。
人工衛星を開発・運用するには、衛星や宇宙利用に関する技術、制約、仕組みの理解が必要なだけでなく、部品の調達や打ち上げロケットの調達、政府の許認可の取得などが必要で、長い時間と大きなコストがかかる。
AxelLinerはこれらの衛星プロジェクトに関わる長く複雑なプロセスを「パッケージ化」し、観測、通信、実験など顧客が宇宙空間で行いたいミッションのみに注力できるようにするという革新的なプロジェクトなのだ。
同サービスでは、姿勢制御や電力供給といった衛星運用の基盤となるシステム(バスシステム)を、様々なミッションに対応可能なものに共通化。これにより開発期間・コストの大幅な削減および、宇宙業界では実例が少ない「量産化」に挑む。
衛星の同時開発も視野に入れた量産体制の構築を通じて、従来は約3年かかっていた受注から打ち上げまでの期間を約1年に短縮し、さらに、より安価な提供の実現を目指すとのこと。
これによって、ユーザーの衛星活用における負担を大幅に軽減するとともに、小型衛星へのニーズの急速な高まりにタイムリーに応えることができるという。
また、AxelLinerを利用して地球観測プラットフォーム「AxelGlobe」が運用する自社衛星を開発することで、同衛星の機数増強にも取り組む予定だ。
2. 次世代GRUS(グルース)衛星に向けたセンサーの先行実証
GRUS衛星はAxelGlobeが運用するアクセルスペースの小型衛星である。
約100㎏の小型衛星でありながら、地上にある2.5m程の大きさのものまで見分けることができる。
2018年に最初の衛星を打ち上げ、現在は5機。今後もGRUS衛星の打ち上げを行い、順次数を増やすことで観測頻度を高めていく予定だ。
今回のPYXISによるミッションでは、将来的に打ち上げる次世代GRUS向けの望遠鏡の実証実験が行われる。
3. ソニーグループによる通信システム技術の実証
PYXISの3つ目のミッションはソニーグループによる通信システム技術の実証である。
同衛星に、非常に低い電力で動作しながらも通信の範囲を広く確保(100㎞以上)できる、ソニーが開発した通信技術「ELTRES™(エルトレス)」に対応した、地球と衛星を結ぶ無線通信の実験装置を搭載。
PYXISでは軌道上でのバスシステムの実証に加えて、ELTRESを用いた通信システムの技術実証が行われる予定である。
衛星のスペースデブリ化防止の取り組みも
PYXISには、アクセルスペースがサカセ・アドテック株式会社と協力して開発した、衛星のスペースデブリ化を防止する装置も搭載している。
サカセ・アドテックとは世界で唯一、三軸織物を工業製品として造り出しているオンリーワン企業だ。
三軸織物とは縦、横、斜めの3方向に織り込み、安定構造である正六角形の集合体を造ることであらゆる方向に等しい特性をもつもの。
成型性が高いうえに極めて軽量・薄膜な強靭素材であるため、宇宙で展開する衛星や探査機のアンテナなど、宇宙業界において活躍してきた。
PYXISに搭載されているスペースデブリ化防止装置は、人工衛星の運用終了後に起動し、大きな膜面を展開。
地球低軌道上に存在する薄い大気の空気抵抗を利用して地球を周回する衛星の運動にブレーキをかける。
衛星のスピードを落とすことで衛星に働く遠心力が小さくなり、衛星が地球の重力で地球側に引っ張られるため、大気圏に突入するまでの期間を短縮することができるのだ。
同社は、深刻化するスペースデブリ問題への対策として今後の衛星に同機構を標準搭載していく予定だという。
さいごに
いかがでしたか。
アクセルスペースのX(旧Twitter)アカウントでは、PYXISの打ち上げの様子や、同社のGRUS衛星が撮影した、PYXISが搭載されたFalcon9ロケットの写真などが投稿されている。
同社の活躍を今後もお楽しみに!
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衛星事業が超手軽に!?アクセルスペースの「AxelLiner」とは
参考
アクセルスペース 実証衛星「PYXIS(ピクシス)」 打ち上げ成功のお知らせ
アクセルスペースの実証衛星PYXIS(ピクシス) 打ち上げ日決定のお知らせ
アクセルスペースの「AxelLiner」実証衛星初号機Pyxisの軌道上実証に向けてソニーグループ株式会社と共同研究を実施