2023年10月12日、日本最大級の宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2023」が今年も大盛況のもと、終幕を迎えた。
今年も現地参加者数が800人を超える一大イベントになったが、参加できずに悔やまれる人も多かったのではないだろうか。
今回は、北海道宇宙サミットに参加できなかった人向けに筆者が注目したトークセッションのハイライト並びに所感をまとめてみた。
産業競争力の強化と宇宙輸送
まず一つ目のハイライトは、セッション①「日本の宇宙戦略、日本の勝ち筋」の中で議論に上がった宇宙基本計画の大幅改訂だ。
宇宙産業は官民共同で推進していく必要があるため、日本の宇宙産業のこれからを語る上でこの基本計画の方針が非常に重要である。
「宇宙基本計画は毎回大きく改訂されているが、今回は特に変化が大きいと感じる」と改訂に携わったSPACETIDE代表理事兼CEOの石田真康氏は語る。
特に変化が大きいポイントとしては、「産業競争力」が重要な論点として議論されたことだと述べた。
これまで産業といえば、日本の宇宙政策三本柱である安全保障、科学、民生利用のうち、民生利用にフォーカスを当てて、政策が打たれてきたのだが、今回はこれら3つの柱全てを貫くものとして産業が定義されている。
その結果、これら三本柱を横断して支える産業競争力を高めるため、企業を支援する様々な政策が進んでいるという。
また同様に宇宙基本計画の改訂に携わった慶應義塾大学理工学部教授の松尾亜紀子氏は、宇宙輸送分野に焦点を当てて下記のように述べていた。
松尾氏は、「宇宙へのアクセスという言葉が初めて出てきました。これは前の改訂時にはなかったウクライナ危機が関係しています」という。これまで、日本企業はロシアの衛星打ち上げサービスを利用したり、部品を受注したりすることがよくあった。
それが無くなった今、日本が他国に頼らずに宇宙輸送を可能にするための産業支援策が打ち出されたという。その一つの例が「SBIR制度」による大型補助金だろう。
「世界中でスタートアップ冬の時代と言われている中で、日本は政府の予算も増えつつ、資金も調達しつつ、スタートアップが良い感じで成長してるというところで世界を追い越せるチャンスがまだまだ残っていると感じる」と、宇宙エバンジェリストとして活躍し、投資家でもある青木英剛氏は溌剌と語っていた。
セッション①は、宇宙基本計画の内容や、宇宙産業における戦略がわかりやすく伝えられ、宇宙に対する国の本気度を感じられるセッションであった。
北海道スペースポートが背負う期待
続いてセッション②では北海道スペースポートを今後利用していくロケット企業が集結。北海道宇宙サミットならではの豪華セッションである。
元JAXAでイプシロンロケット等に携わってきた、現ロケットリンクテクノロジー代表取締役社長の森田泰弘氏は、ロケットを打ち上げる射場選びの観点について「射場とのコンビネーションでロケットの最大能力を引き出すことが重要」と語る。
その点、北海道スペースポートについて、「海の南側に障害物がないため燃料を効率的に使用できる。また、隣に町がある射場では飛行安全の計画のため、精密な計算に2か月も3カ月もかかるが、北海道スペースポートではそれが不要なので、ロケットを高頻度に打つには最適」という見解を示した。
一方、北海道スペースポートに求めるものという点についても意見が交換された。
- 管制の運用形態や射場における資金や人、設備がまだまだ不足している
- 打ち上げを行う際の申請手続きが煩雑であるのでそれを一元管理できる窓口がほしい
- ノルウェーの射場のように、電波系など、どのロケットにも必要な共通設備を整えて、ロケットだけ持っていけば打ち上げられる状態にしてほしい。
など様々な要望・課題点が挙げられたが、これらは北海道スペースポートに対し、日本の宇宙港、そしてアジアのハブとなる宇宙港としての大きな期待があるからこその意見だ。
インターステラテクノロジズの稲川氏は、「10年前の創業から大樹町に拠点を置いてきた我々だけでなく、内之浦でもロケットをやってこられた森田先生や台湾発のロケットメーカーJTSPACEさんも大樹町の射場を第一候補に挙げた。今回ここでその認識を共有できたのがポイント」と語る。
北海道スペースポートは日本の未来を背負う宇宙港であり、企業、国、自治体、個人が一体となりこれらの課題に取り組んでいく必要があると改めて感じたセッションであった。
ヒト・モノ・カネがまだまだ必要
さいごに、セッション全体を通して筆者が感じたのが、「ヒト・モノ・カネがまだまだ足りていない」ということ。
内閣府の山口真吾氏によると、役人は度々部署をローテーションするため宇宙政策の10年選手がいないことに加え、宇宙政策をおこなう役人の手が回っていないという。
また、宇宙輸送、衛星、月面探査のベンチャーが集結した日テレ企画セッションでは、全ての企業が「人が足りていないこと」を困っている事として挙げた。
その中で、セッション⑤「宇宙スタートアップとイノベーションエコシステム」では、どのようにしたら宇宙産業にヒト、モノ、カネを集められるのかということについて熱い議論が展開された。
宇宙産業を身近に感じてもらうことが必要
セッション⑤において、インターステラテクノロジズファウンダーの堀江貴文氏は、「“自分の位置をミリ単位で測定する”など、技術的に可能だが産業として立ち上がっていない話が沢山ある。しかしそれには相対性理論など難しい話が必要となるため、理解してもらえないことが多い」と問題を提起した。
議論の中で、The Breakthrough Company GOの三浦崇宏氏は、「例えばイーロン・マスクはSDGsなど地球の事情、政策など国の事情、テクノロジーやビジネスの事情が一本筋になっている。このように、地球と国とビジネスの事情を繋げてストーリーを語れるのが大事ではないか」と意見。
また、理解してもらうためにはその技術によって何が生活者のベネフィットになるか示すことも重要とした上で、テクノロジーなどの難しい話を、生活者のベネフィットに言い換えるコピーライターのようなことをしていくと良いのではないかと語った。
堀江氏によると、例えば、自分の位置をミリ単位で測定することができれば、地震が予知できたり、浮気もばれるようになったり、なんとワープもできるようになるかもしれないという。
確かに、難解な話でも、それが実現することで生み出される面白いことに置き換えることで、生活者は宇宙を身近に感じて理解をしようと思うのではないだろうか。
さらに、なぜそれが可能なのか、どう利益があるのかということをわかりやすく伝えることもできれば、それに挑戦する人や、応援する人が現れ、産業がより発展していくと予測できるのだろう。
人材確保を進めるためには
人材確保という点については、岩谷技研代表取締役である岩谷圭介氏は、経験をもち、若者を育てられるシニア層の役割も大事にしているという。
現在、技術者も含め、仕事をしたくても働き先がないシニア層は多いと聞く。同社のようにシニア層を獲得することは、企業の課題解決にも社会の課題解決にもつながる良い手法だと言えるだろう。
また、堀江氏は、ロケット開発について東大工学部宇宙工学科みたいな人しかいないと誤解されやすいという課題を挙げ、「ロケットは工業製品で車と一緒。なので、溶接をするひともいれば、火力発電所みたいなものを作ってる人もいるし、当然総務の人、営業、財務の人もいる。誰でもチャンスがあるということをより伝えたい。」とコメント。
それについて三浦氏も、アメリカのアニメーションスタジオであるPixarの例を挙げ、「Pixarはトップのクリエイターしか採用できないという悩みがあった。そこで映画のエンドロールに財務や経理など全員載せたところ、その人たちが喜んで周りに広めたことでバックオフィスへの応募が増えた。なので色んな人が関わっている事を広めていくのはとても大事だと思います。」と述べた。
さいごに
いかがでしたか。
昨年の北海道宇宙サミット2022では、「政府と民間の連携が重要」「ロケットを開発するための支援をもっとしていくべき」といった意見が挙げられていた。
しかし、今年はそれらの課題にきちんと取り組まれている状況で、去年よりも一歩先に踏み込んだ議論がされていた。
北海道宇宙サミット2023は、YOUTUBEにてアーカイブが公開されている。どのセッションも見どころ満載なので、ぜひご覧いただきたい。