
2026年7月5日、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」は、小惑星トリフネへのフライバイ探査を実施し、最接近・通過に成功した。
はやぶさ2は2020年に小惑星リュウグウの試料を地球へ届けた後も、拡張ミッションとして飛行を続けている。今回のトリフネ探査は、拡張ミッションとして初めて実施した小惑星への接近観測であり、2031年に予定される次の小惑星探査に向けた重要な機会となった。
本記事では、はやぶさ2によるトリフネ・フライバイの概要と、今回の探査における注目ポイント、はやぶさ2の今後の予定について解説する。
目次
はやぶさ2によるトリフネのフライバイ結果
トリフネの画像やサイエンスデータの取得に成功
はやぶさ2は2026年7月5日18時30分(日本時間)誤差±1秒にて、小惑星「トリフネ」に最接近し、通過しながら搭載機器による観測を行った。最接近通過後、7月5日18時35分において探査機の状態は正常であることが確認されている。トリフネとの相対速度は秒速約5.3㎞(時速約19,080㎞)であった。
また、トリフネの画像やサイエンスデータの取得にも成功している。
今後、フライバイ時に取得したデータを解析することで、トリフネの形状や表面の特徴、回転状態などが明らかになることが期待される。


フライバイとは
フライバイとは、探査機が天体の近くを通過することである。この際、搭載機器による撮影や観測が行われる場合が多い。
天体の周辺に長期間とどまることはないため、周回観測や着陸、試料採取を行う探査と比べると、対象天体を詳しく調べられる時間は限られる。一方で、対象天体の周辺に到着して長期間滞在する探査と比べ、目的地へ向かう途中でも実施しやすい点が特徴だ。
今回、はやぶさ2はトリフネの近くを高速で通過し、その間に搭載機器による観測を行った。
トリフネとはどのような小惑星か
トリフネは、地球近傍を通る軌道を持つ地球接近小惑星の一つで、直径500メートル程度の細長い形状をしていると推定されている。
主に岩石で構成され、その成分に炭素が少ないS型小惑星に分類される可能性が高く、炭素を多く含む岩石でできたC型小惑星であるリュウグウとは異なる特徴を持つと考えられている。
「はやぶさ2拡張ミッション」の最終目的地である小惑星「1998 KY26」へ向かう途中でフライバイ探査が可能であること、などの理由から今回のフライバイ探査が実施された。その観測データは、地球接近小惑星の多様性や進化の過程を理解するうえで、重要な手がかりとなることが期待されている。

今回の注目ポイント
はやぶさ2が自律的に判断する能力を獲得
一般的なフライバイでは、探査機は対象天体から数百kmから数千km程度離れた位置を通過し、その間に観測を行うことが多い。
一方、はやぶさ2のカメラは、遠方の小惑星を大きく捉え続けることや、自由に向きを変えて追尾することを前提としたものではなく、トリフネを詳しく観測するには、探査機自体を小惑星へ近づける必要があった。そのため、今回のフライバイでは、はやぶさ2はトリフネへ正面から接近した後、その脇を通過する軌道をとり、相対速度約5km/sで小惑星中心から約800mの地点を目指した。

ただし、高速で接近する中では、わずかな位置や速度のずれが最接近距離に大きく影響する。地上との通信や、地上側での状況確認と指令作成には時間がかかるため、リュウグウ探査のように地上の運用チームが逐次判断する方法では対応が難しかった。
そこでJAXAは、搭載カメラで捉えたトリフネの位置をもとに、はやぶさ2が自ら接近状況を判断し、必要に応じてエンジンの噴射を調整する自律誘導航法を開発した。ソフトウェアを書き換え、探査機に自律的な判断・制御の機能を追加した点が、今回のフライバイの大きな特徴である。
プラネタリーディフェンス技術を実証
プラネタリーディフェンス(地球防衛)とは、地球へ衝突するおそれのある小惑星を発見・観測し、必要に応じて衝突を防ぐための取り組みである。
小惑星の衝突を回避する方法の一つとして、探査機を意図的に衝突させ、その軌道をわずかに変える「運動エネルギー衝突体」が検討されている。この方法を実行するには、小さな小惑星へ探査機を正確に接近・誘導する技術が不可欠となる。
今回のトリフネ・フライバイでは、はやぶさ2が実際に衝突を行ったわけではないが、将来、小さな小惑星へ探査機を正確に接近・誘導するための技術基盤につながる。
JAXAは、今回のフライバイを小惑星の科学観測に加え、将来のプラネタリーディフェンスに資する技術の獲得につながる取り組みと位置付けている。
AIを活用した対話型キャラクター「はやツー君」登場
トリフネ・フライバイのライブ中継では、はやぶさ2のマスコットキャラクター「はやツー君」を通じて、探査機と会話するように情報へ触れられる試作システム「Mission Buddy」も紹介された。
Mission BuddyはJAXAとイディナ株式会社が概念設計、試作、検証を進める対話認知インターフェースで、宇宙機のミッション情報や観測データ、運用知見などをもとに、利用者からの問いかけに音声やテキストで応答する。JAXAは、研究者や運用者だけでなく、教育機関や一般利用者も含め、宇宙機の情報により親しみやすくアクセスできる仕組みとして検討を進めている。
中継で披露された「はやツー君」は、はやぶさ2の現在の状況やミッションに関する情報を対話形式で伝える試作例といえる。今後、対話内容や応答の精度を改善しながら、宇宙ミッションの理解促進や科学コミュニケーションへの活用が期待される。
はやぶさ2のこれまでと今後のミッション
はやぶさ2は2014年に打ち上げられ、2018年に小惑星リュウグウへ到着した。リュウグウでは、表面の観測に加え、人工クレーターの形成や2回の試料採取を実施し、2020年12月には採取した試料を地球へ届けることに成功した。
リュウグウから持ち帰られた試料の分析では、炭素を含む有機物や水に関わる物質が確認されており、太陽系の初期環境や、地球の水・生命の材料がどのようにもたらされたのかを考えるうえで重要な知見が得られている。

地球にサンプルを届けた後も、はやぶさ2本体にはイオンエンジン用のキセノン燃料が半分近く残されていたため、JAXAはこの探査機を活用し、拡張ミッションの実施を決定。その最初のミッションが今回のトリフネ・フライバイであった。
今後、はやぶさ2は2027年と2028年に地球スイングバイを行い、2031年7月に小惑星「1998 KY26」への到着を目指す。1998 KY26は直径数十m程度とされる小さな小惑星で、自転周期が約10分と非常に短い高速自転天体である。
トリフネ・フライバイで得られた高速接近時の誘導・観測の知見は、1998 KY26への到着後に行われる探査にも生かされる見込みだ。
さいごに
はやぶさ2によるトリフネ・フライバイは、リュウグウからの試料持ち帰りに続く、新たな探査の始まりである。自律的に軌道を調整しながら観測を行った今回の挑戦は、小惑星の科学的理解を深めるだけでなく、将来の小惑星探査やプラネタリーディフェンスに必要となる技術の実証という意味でも重要である。
今後は、フライバイで取得したデータの解析により、トリフネの詳細な姿が明らかになることが期待される。はやぶさ2は2031年の小惑星「1998 KY26」到着に向けて航行を続ける予定であり、今回得られた誘導・観測の知見が、次の小惑星探査にどのように生かされるのかにも注目したい。
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